インタビュー

《蔵人》 丸山智香
Vol.36 【伝統にチャレンジ】女性蔵人 伝統産業をしたい!
今回のゲスト
《蔵人》 丸山智香さん
(北杜市) 
山梨銘醸(株)

日本の伝統産業を仕事にしたかった

 「日本人に生まれたからには、日本の伝統産業よね!」と叫んで入社したという丸山さんは、蔵人として今年で14年目を迎えました。親方からは、日本酒を醸造する重要な一工程である、清酒酵母を増やす「酒母」を任されています。
 学生時代にアサヒスーパードライの大ヒットがあり、その成功の陰には特別優秀な酵母を探し出すために、全国各地の様々な場所から酵母を採取したという開発エピソードを知って、高校では生物部に入って野生酵母を自然界から見つけ出そうと研究していたほど、丸山さんは酵母に興味を持っていたと言います。
 大学では醸造学を学んで、大好きな酵母を扱い、日本の伝統に関わる仕事をしたいと考えていた丸山さんは、3年生の時に造り酒屋の山梨銘醸(株)へ2週間実習に訪れました。伝統ある造り酒屋は自分の知識が活かせてやりがいのある仕事ができるところ。ぜひここに蔵人として就職したいと思い、必死の就職活動の末、卒業後に念願叶って入社しました。
 埼玉県のサラリーマンの家庭に生まれ、お酒や伝統と関係の深い環境にあったとは言えない丸山さんでしたが、興味を持ちつづけ夢を追いかける意志と行動力がありました。「実家が酒屋でもないのに、酒造メーカーに実習に行き、そこに蔵人として就職した女子学生」は大学でも初めてだったそうです。

性別ではなく真面目によく働くこと

 「酒蔵は女人禁制」と言われ、女性が酒蔵に入ってはならないというしきたりは、今も各地で残っていますが、近ごろでは杜氏の高齢化や人手不足で女性が手伝うこともまれではありません。特に白州町(現、北杜市)では、「女性はよく働く」ので昔から酒蔵でも働いていたということです。そのような風土でもあり、丸山さんが入社する際も「『女性だから』ダメということはなかった。実習のときから真面目によく働いていたので、受け入れられたのではないか」と言います。
 日本酒造りは、蔵元が冬期に杜氏が率いる蔵人の集団を招いて酒造りを行います。丸山さんが入社した当時も、杜氏と蔵人達がやってきて酒造りを行っており、丸山さんも蔵人の一人として働きました。師弟関係が厳しく、気むずかしい職人気質の職場で、新米蔵人でもあり、ひどく怒られることも、辛いこともあったそうです。しかし、厳しさと同時に技術を培い人を育てる伝統的な集団の規律に触れ、その中で作られる『和』を美しいと思ったそうです。「規律のないところに和は生まれない、とよく言われるんですが、‘良酒を造る’という一点に向けて、皆が規律を守り信頼関係を築きあげていく。その姿勢が非常にわかり易く、私はすんなり入っていけました。」と言います。

生かす伝統と新技術。地元の人に愛していただけるお酒を造りたい

 機械技術の進歩や産業構造の変化を受け、伝統的産業の多くの分野において全国的に高齢化と後継者不在が問題となる一方で機械化と自動化が進んでおり、酒造業においても人手を補う便利な機械設備がいろいろと開発されています。
 山梨銘醸(株)でも訪れる蔵人の数が年々減少しましたが、米を担ぎ上げたり、桶に水を運んだりといった単純な作業に機械を導入することで省力化しつつ、伝統的な酒造りをしています。
 そういった変化はあっても伝統や経験はやはり大切だと、丸山さんは言います。「機械を操るには、酒造りの基本を理解していないと、その機械の能力を発揮することができません。また、最新のテクニックや設備を使っても、昔からの伝統を知らなかったら失敗します。新しい技術も大事だけど、長く続けて自分の感覚を鍛えていくことも大事なんです。」
 近年、杜氏の親方と取り組んでいるのが、地元白州の地から探し出した天然酵母と、地元白州で育んだ酒米と、地元白州の水で醸造した地産地消のお酒を造ること。「酒母」を担当する丸山さんは、様々な酵母が醸すそれぞれの独特な香りや味わいを把握し、どの酵母を使うか親方と相談して決めます。「白州の水は非常に綺麗なので淡麗な味に仕上がる。それがうちの味なんです。」
 夏には米作りも経験して農家経営の厳しさにも触れ、醸造だけではなく色々なことを勉強していきたいと言います。
 「今後は地産地消がテーマです。地元の水、米、酵母を使ってこの土地でお酒を造り、広めていきたい。地元の人に愛していただけるお酒を造っていけたらなあと思っています。」

※酒母(しゅぼ)・・・・ 麹、蒸米、水を合わせて酵母を増殖させる、酒造りの重要な工程のひとつ
※杜氏(とうじ) ・・・・ 酒造りの技術を持った蔵人集団の長
※蔵人(くらびと)・・・ 蔵の中で酒造に従事する人の総称

山梨銘醸(株)
〒408-0312 山梨県北杜市白州町台ヶ原2283番地
電話番号:0551(35)2236 (代) FAX番号:0551(35)2282
e-mail: webshop@sake-shichiken.co.jp
URL: http://www.sake-shichiken.co.jp/

☆ 丸山さんからのメッセージ ☆

 同性の先輩がきわめて少ない業界なので、一人で悩むことも多いのですが、適度な気分転換を心がけて、道を探りながら気長に続けていく事だと思います。
 自分に出来る事を、丁寧に精一杯努めていると、いつか道が開けてくると思います。

バックナンバー

丸山さんのこれまで

高校生の時に酵母に興味を持ち、日本の伝統産業に就くことを志す。

平成6年に東京農業大学を卒業し、山梨銘醸(株)に入社。

平成11年 酒母の担当になる。

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