インタビュー

《弁当製造販売》 小池 とし子
Vol.3 【起業】ワーコレでつくった自分たちの職場
今回のゲスト
《弁当製造販売》 小池 とし子さん
(甲府市)
企業組合ワーカーズコレクティブ『パクぱく』
代表理事

「もう一度社会に出てやりがいのある仕事をしたい」その願いをかなえること -再チャレンジのはじまり-。

ショーケースにところ狭しと並べられたおいしそうなお弁当と惣菜の数々。隣のキッチンからは活気あふれる声が聞こえ、忙しそうな作業の様子が伝わってきます。甲府市住吉の『パクぱく』は、おいしくて安心な手作りのお弁当を売るお店。小池さんが仲間とともにお弁当屋さんを始めたきっかけは、どんなものだったのでしょうか。
小池とし子さんにお話をうかがいました。
「子育てが一段落した主婦が、もう一度社会に出て働きたいと思ってもなかなか職場が見つからないのが現状なんですね。だったら自分たちで作ってしまおうかなって」
確かに年齢制限や能力などの雇用条件を並べられると、平凡な主婦には仕事を選ぶということは難しくなります。
「主婦というキャリアを積んできたのだから、それを生かせる仕事がしたいと思ったんです。それでお弁当屋さん。『安さ』が売りのお弁当じゃなくて、家庭の主婦が家族のために作るような『安心して食べられる』お弁当を作ろうということになりました」
営業を開始して7年半。今では「パクぱくのお弁当でなければ」というお得意様も増え、日替わり弁当や惣菜など一日平均150個を販売するまでになっています。

とにかく実績をつくること。やっていけることを証明すること。それが法人格取得の近道。

ワーカーズコレクティブというのは、同じ目的を持った仲間が事業資金を出し合って事業主となり、同時に労働者として働く事業形態のこと。営利を第一の目的とは考えず、生きがいを持って働くこと、さらには地域住民にとってメリットとなるような質の高いサービスまでも視野に入れて活動する新しい営業形態として注目されています。
いちばん初めに作ったお弁当は、組合員として加入していた生活クラブ生協の会議用のものでした。当時、山梨県にはワーカーズコレクティブ形態で営業している組織はなく、小池さんは経営のノウハウやメニュー作りの勉強をするため、ワーカーズコレクティブ千葉連合会の賛助会員となりました。
「『中小企業団体中央会』にも相談に行きました。なにも実績がないと法人格が取得できないから、とにかく実績をつくりなさいとアドバイスを受けました」
メンバーの実家で提供してくれた農機具小屋を改造したキッチンで、電話注文による配達専門のお弁当屋さんを続けること3年。安全性の高い国産の素材を使っていることや化学調味料などの添加物は一切使わないことなどを多くの人に知ってもらうため、チラシを作ったりと広報活動にも力を入れました。
また、業務内容をシステム化して作業効率を高める工夫もしました。たとえば、配達は委託して時間的なロスを少なくし、その成果を時給見直しに反映させるというようなことです。
「どんなことでもメンバー全員で話し合って決めます」
小池さんのその言葉にメンバーひとりひとりが意欲を持って経営に参加していることがわかります。
さまざまな努力が実を結び、『パクぱく』が企業組合として県知事の認可を受けて法人格を取得したのは平成11年8月のことでした。

壁にぶつかったら、柔軟に路線を変更することも大切。メンバー全員で話し合ってひとつずつ問題をクリア。

「店舗開設のときの資金づくりには苦労しました。貸店舗の契約も整い、設備の発注もしたのにお金がないんです」
公的融資を受けたいと考えていた小池さんでしたが、どの機関へ行ってもそのような優遇は受けられなかったといいます。『企業組合』や『ワーカーズコレクティブ』といった言葉が浸透していなかった時代だけに、理解してもらうのはなかなか難しかったようです。
「企業が複数集まってつくった組合だと思われたり、『趣味の会ですか?』なんて聞かれたこともありました」
今でこそ笑い話ですが、当時は本当に窮地に立たされた状態でした。結局、信用金庫から融資を受け、無事に開店。壁をひとつ乗り越えました。
長引く不況も大きな打撃となりました。ファミリーレストランやファーストフード店同様、持ち帰り弁当の業界でも価格破壊の競争が始まりました。しかし、価格を下げるということは素材の質を下げるということであり、かさねてO-157やBSE、遺伝子組み換え問題、食品添加物の大量認可と食に対する消費者の不安感はピークに達している時期でした。
「こんなときこそ、私たちは『安心とおいしさ』をモットーにしてやっていこうとみんなで話し合って決めました。『もっと安いお弁当はあるけれど、パクぱくのお弁当ならおいしくて安心だし、この程度の価格なら充分納得できるわ』と、言ってくださるお客様がひとりでも増えるように努力しようと」
さらに『パクぱく』では環境保護のため、使い捨てのお弁当容器は店で売るものだけにし、配達分に関しては回収して使います。自分たちの利益を最優先するのではなく、地域住民が必要としているものを重視した経営理念。これこそがワーカーズコレクティブの特徴であり、またこうした理念が息の長い営業活動の支えとなっていくのでしょう。

ひとりでは微力でも、仲間が集まれば可能性は広がる。雇われて働くことからは絶対に見出せない達成感が魅力。

現在、『パクぱく』の配達業務は一年半ほど前に小池さんご自身が設立した『NPO法人テクてくTake』が行っています。お菓子部門の製造は、高根町のワーカーズコレクティブ『花の木』に委託しています。このように他のグループとの連携をうまく使ってビジネスに生かしています。
ひとりでは何もできなくても同じ目標を持つ仲間が協力し合ってワーカーズコレクティブという集団をつくり、さらにグループ同士のネットワークを広げていけば可能性はどんどん広がります。
努力した分だけの成果が少しずつでも見られたとき、人は充実感や達成感を感じられるもの。そこに生きがいを見出せるものなのかもしれません。
「『ここへ来て洗い物をするだけでも楽しい』なんて言ってるメンバーもいるんですよ」
誰かが喜んでくれて、自分の生きがいにもなる。メンバーにとって『パクぱく』は、そんな理想的な職場となっているようです。
小池さんは『パクぱく』のこれからの展望として高齢者への配達や容器持参のお客様へのポイント制度の導入、農家との提携による有機野菜の仕入れなどに重点を置いて考えています。若いメンバーも募集中とのことでした。
「もうずいぶん前のことですが、けがをしたお母さんの代わりに子どもさんのお弁当を毎日中学校の下駄箱に届けていたこともあるんですよ」
こんなエピソードが『パクぱく』のすべてを物語っているようでした。

取材日:平成17年2月7日

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ワーカーズコレクティブ『パクぱく』のあゆみ

平成9年5月、『パクぱく』を任意団体として設立。保健所に営業許可を取り、税務署・市役所・県税事務所に事業開始届けを提出し、8名でスタート。

ワーカーズコレクティブ千葉連合会の賛助会員として参加。メニュー作りのヒントや作業の効率化のアドバイスを受ける。

平成11年8月、県知事の認可を受け、企業組合ワーカーズコレクティブ『パクぱく』として法人格を取得。中小企業団体中央会の組合員になる。

平成12年9月、甲府市内の貸店舗にて、配達だけでなく持ち帰り弁当と惣菜の店をオープン。

店舗開設にともなう融資返済、遺伝子組み換え問題や食品添加物の大量認可などがあり経営内容を改めて見直す。さまざまな組織・団体とのネットワークを駆使しながら「おいしくて安心」をモットーに販路拡大を模索。

小池さんが平成15年6月設立した『NPO法人テクてくTake』に配達業務を委託。
平成16年6月、山梨県男女共同参画推進事業者等表彰の知事表彰受賞。現在、18名のメンバーと5名のアルバイトによって営業している。

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