トップ > 県政情報・統計 > 知事 > 開の国やまなし こんにちは。知事の長崎です。 > 施政方針 > 令和7年12月県議会知事説明要旨
ページID:123759更新日:2025年12月4日
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令和7年12月定例県議会の開会に当たり、提出案件の概要を御説明申し上げるとともに、私の所信を申し述べます。
議員各位並びに県民の皆様の御理解と御協力を、お願い申し上げます。
本補正予算案の概要であります。
一般会計の補正額37億円余のうち、32億円余は県職員等の給与費の補正であります。
去る10月17日、人事委員会から給料月額や期末・勤勉手当の引き上げなどを内容とする勧告がありました。
県としては、この勧告を尊重し、勧告どおりの対応を行うとともに、特別職等の期末手当についても引き上げることと致しました。
給与費に係る補正は、制度に基づく技術的な補正であります。
その上で、本補正予算に盛り込んだ政策的事業などについて、順を追って御説明申し上げます。
―夏休みに引き続き、物価高騰で負担増の世帯を支援―
先ず、喫緊の課題への対応として、物価高騰下における子どもの食料支援についてであります。
長引く物価高は、現在も県民の暮らしに深刻な影響を与えています。
特に、食料品の価格上昇は日々の生活に直結する問題であり、育ち盛りの子どもを抱える世帯では、家計への負担が一層大きくなっています。
県では本年夏、給食がなく、周囲の目が届きにくくなる子どもの長期休暇中への支援として、生活困窮世帯の小学生から高校生を対象に、緊急食料支援を実施しました。
現在、県では民間団体と連携し、継続的に食料支援を行うための仕組みづくりに取り組んでおりますが、安定的な運用を行うには今暫く時間を要します。
このため、制度的な仕組みが本格稼働するまでの「つなぎ」として、冬休み期間中も、困難な状況にある子育て世帯を対象に食料支援を実施いたします。
夏に支援を受けた緊急性の高い世帯には、プッシュ型で速やかに食料を届けるとともに、その他の支援を必要とする世帯についても、民間支援団体を通じて食料が行き渡るよう努めて参ります。
物価高の影響が長期化する中にあっても、子どもたちの健やかな成長を途切れさせない。
安全網の機能強化を図って参ります。
次に、県政の最重要課題である県民所得の向上に向けた取り組みについて申し述べます。
―賃金・生産性・労働参加率の三つの歯車を回す-
私は知事就任以来、「県民一人ひとりが豊かさを実感できるやまなし」を掲げ、その実現に邁進して参りました。
「豊かさ」の定義は人それぞれでありますが、その基盤をなすのは「所得」であります。
厳しい時代状況にあっても、「県民所得の向上」を追求し、実現していく。
そのために必要なことは、三つであります。
賃金水準の引き上げ、生産性の向上、そして労働参加率の向上。
この三つが、三つの歯車として、しっかりとかみ合う。
同時に回り始める。
それが、県民所得向上をもたらす確固たる駆動力となる。
これが私の揺るぎなき信念であります。
―企業実態調査で合理的な議論の基盤を構築-
このうち、県民の皆様の家計に最も直接的に響くのが「賃金水準の引き上げ」であり、とりわけ、賃金全体を底から押し上げる力となるべき「最低賃金の引き上げ」が重要な鍵を握っています。
最低賃金の水準決定は、客観データに基づく合理的な議論の帰結であるべきであり、かつ、その議論の道筋から、持続的な賃上げの実現に向けて何をなすべきか、その方向性を見いだすことができるものでなければなりません。
こうした考えの下、労働者と使用者が合理的に議論する土壌づくりに県としても主体的に関与すべく、現在、企業を対象とした実態調査に着手しております。
この実態調査の成果は、データに基づく透明で合理的な最低賃金の決定プロセスの確立や、本県の企業支援策の一層の充実に向けて活用して参ります。
―企業・働き手・行政の三者協働で、努力が給与に反映される社会へ-
こうした基盤整備に加え、本補正予算では、「賃金水準の向上」と「経済活動を支える基盤整備」の二つの観点から、県民所得の向上に資する具体的な取り組みを進めて参ります。
その中核となるのが、「スリーアップ」という取り組みであります。
スリーアップとは、経営者と働き手、そして行政が三位一体となり、労働者のスキルアップ、職場の収益アップ、賃金アップという三つのアップを、一つのパッケージとして同時に実現する取り組みであります。
このスリーアップには、二つの核心があります。
第一は、「公正な分配」であります。
頑張れば報われる。
努力が給与に反映される。
この当たり前のことが、当たり前に実現される社会を目指します。
第二は、「三者協働」であります。
「誰かがやってくれる」、「国が助けてくれる」という他人頼みの姿勢からの決別であります。
企業は、自ら稼ぐ力を高める。
働き手は、自ら可能性を拓く。
行政は、その双方を全力で支援する。
この三者が力を合わせることで、はじめて県民所得の向上が実現するのであります。
―キャリア形成支援とデジタル人材育成で賃金水準を押し上げる-
はじめに、賃金水準の向上に向けた取り組みについて申し述べます。
(非正規雇用労働者等のキャリアアップと就労のための一貫支援)
第一に、非正規雇用労働者等のキャリアアップと就労のための一貫支援についてです。
県では、やまなしキャリアアップ・ユニバーシティをリスキリングの拠点として位置付け、企業等の従業員のスキルアップを支援して参りました。
しかし、現下の物価高騰により実質賃金は低下し、特に最低賃金近傍の労働者や非正規雇用労働者にとって、厳しい状況が続いております。
こうした方々が安定した生活基盤を築くためには、社会人としての基礎力を養い、正規雇用や高収入の就労へとつなげることが不可欠であります。
このため、県では、オンラインによるロジカルシンキングなどのソフトスキルの講座に加え、企業とのマッチングやキャリア相談など、就労に至るまでの一貫した支援を行うモデル事業を実施することとし、キャリアアップ・ユニバーシティ人材育成・就労支援モデル事業費、2,000万円余を計上しました。
こうした取り組みにより、働き手の所得向上と企業の人材確保を同時に実現し、県内経済の持続的な成長に寄与して参ります。
(医療・介護・保育分野におけるデジタル技術等活用人材の育成)
第二に、医療・介護・保育分野におけるデジタル技術等活用人材の育成についてです。
我が国では今後、医療と介護の複合的なニーズを抱える85歳以上の高齢者の増加が見込まれる一方、生産年齢人口は今後更に減少の速度を増し、社会全体に深刻な影響を及ぼすことが懸念されています。
医療・介護現場における人材の確保は早急に対応すべき課題であり、これに的確に対応するためには、現場で働く方々の処遇改善が不可欠であります。
しかしながら、医療・介護の現場を支えるエッセンシャルワーカーは、極めて重要な役割を担っているにもかかわらず、社会的評価や経済的報酬が十分に得られていないのが現状です。
また、限られた人員で同等の成果を上げるためには、デジタル技術に関する専門性を備えた「アドバンスト・エッセンシャルワーカー」の育成が急務でありますが、現行の報酬体系は、こうした人材の育成や活躍に十分に対応しているとは言えません。
この点につきましては、先般開催された全国知事会内の「地方創生・日本創造本部会合」において、改善の必要性を強く訴えたところであります。
こうした背景を踏まえ、全国に先駆け、アドバンスト・エッセンシャルワーカーに必要なデジタルスキルや育成の手法を検討するとともに、こうした人材の所得向上の取り組みについても研究することとし、アドバンスト・エッセンシャルワーカー育成検討事業費、700万円余を計上しました。
具体的には、看護・介護関係者及びICT活用に精通した専門家で構成する検討会を立ち上げるとともに、医療機関や介護事業所にアドバイザーを派遣し、課題の把握から解決策の提案までを実施して参ります。
これにより、看護職や介護職に新たなキャリアパスを示し、社会的評価を向上させることで、魅力ある職業としての確立を目指して参ります。
また、保育分野においても同様の課題があります。
国においては、保育施設と自治体との間の手続きをオンライン化する全国共通システムの整備など、いわゆる保育DXの取り組みが急速に進められており、この環境を効果的に活用するには、保育施設においてデジタル技術に関する専門性を有する人材を育成する必要があります。
今後、国が整備する全国共通システムの動向も踏まえながら、保育分野に求められるスキルや人材像について検討を行い、保育士の職業的魅力の向上と、安定的な人材確保につなげて参ります。
―水素・イノベーション・農業・交通・社会資本 成長戦略で地域の未来を創る-
次に、県民所得の向上に資する「経済活動を支える基盤整備」に向けた取り組みについて申し述べます。
(国際水素サミットの開催)
先ず、グリーン水素分野における国際的なリーダーシップ強化として、国際水素サミットの開催についてです。
本県は、再生可能エネルギーの電力により水素を製造し、貯蔵・利用する世界最先端のP2Gシステムを開発し、グリーン水素の製造分野において世界のトップランナーの地位にあります。
本県のグリーン水素の製造技術は既に社会実装の段階へと進展し、国内の多様な分野で活用が進んでおり、脱炭素社会の実現に向け、日本国内はもとより国際社会においても主導的な役割を果たす使命を有していると考えます。
そこで、来年4月に、世界各国のグリーン水素に関する情報を交換し、これからの水素社会の在り方を議論し協働する場となる国際水素サミットを本県で開催いたします。
本サミットには、これまで積み重ねてきた国際交流の場を通じ既に参加の意向を示されているインド・ウッタル・プラデーシュ州やブラジル・ミナスジェライス州、更に先般、私自らが渡航した際、サミット参加に快諾いただいた中国・四川省及び韓国・忠清北道に加え、グリーン水素に関する覚書を交わしたベトナム・ラオカイ省やオーストリア・ニーダーエスタライヒ州などにも参加を呼びかけ、地方政府と企業、研究機関が一堂に会する世界基準の議論の場を形成して参ります。
このサミットでは、単なる水素製造の技術分野にとどまらず、政策・産業・地域社会の連携を促進する実践的な対話を通じ、水素の利活用と社会実装に向けた国際的なルールメイキングを進めます。
更に、ここで生まれる交流を契機に、本県が各国でのグリーン水素の実装に向けた技術支援や人材育成などに協力することで、本県と世界各地域との連携を、来たるべき水素社会の象徴として参ります。
このサミットは、水素社会における本県の世界的な地位を確たるものとする絶好の機会であり、国際的な脱炭素社会の実現にも直結する極めて重要な国際的舞台となります。
これに要する経費として、富士五湖自然首都圏フォーラム富士グリーン水素コミュニティコンソーシアム推進事業費を2,100万円余増額しました。
今後は、サミットで築いた議論とネットワークを土台に、国内外のステークホルダーと緊密に連携し、米倉山で育んだ「実証」を、日本の「実装」、そして世界の「標準」へと高めて参ります。
(スタートアップ支援センターの開所)
次に、スタートアップ支援センターの開所についてです。
スタートアップをはじめとする多様な挑戦を支援し、その実現を後押しする象徴的な拠点として、先月、甲府市川田町にスタートアップ支援センターを開設しました。
本センターは、スタートアップの成長を促すことは無論のこと、二階メインフロアにカフェを併設し、商談やイベントだけでなく、カフェ・ラウンジとしても利用できるようにすることで、一般の方でも出入り自由な開かれた施設としています。
インキュベーション機能としては、24時間利用可能なオフィスやコワーキングスペースに加え、ものづくりスタジオ、チャレンジキッチンなども備えており、利用者の多様な挑戦を後押しします。
運営面では、県職員に加え、スタートアップ支援に豊富な実績を有する事業者が常駐するほか、日本最大級の登録企業数を誇るマッチングシステムも導入し、県内企業とのオープンイノベーションをより一層推進します。
全国でも有数の多機能性を備えた本センターをスタートアップ支援の拠点とすることにより、新たなビジネスが次々と生まれる「聖地」として育てていきます。
(農業者の所得向上)
次に、農業者の所得向上についてです。
本県農業が持続的に発展していくためには、生産性の向上を基盤として、その上で所得向上に直結する高付加価値化を一層推進することが不可欠です。
その新たな試みとして、「桃ソムリエ」制度を創設します。
桃は、時期ごとに多様で個性豊かな品種が生産・出荷されるため、労働力の分散が可能であり、この特性を生かし生産量を増加させることができる一方で、外見の違いが少ないため、品種ごとの特徴が消費者に浸透しておらず、その魅力が十分に理解されていません。
桃の魅力が広く伝わり、付加価値が高まることで更に需要が増えれば、農家の生産意欲も高まり、生産量の増加を通じた所得向上が実現します。
そこで、生産量増加を後押しするため、本県が先頭に立って「桃ソムリエ」制度を創設し、全国的な制度に広めて参ります。
具体的には、県が「桃ソムリエ」の認定試験を実施し、認定者には品種ごとの特徴や美味しい食べ方などを発信していただきます。
併せて、桃に関する知識と発信力を備えたパティシエや有識者などの多様な人材を「名誉桃ソムリエ」として委嘱し、制度の認知度を高めて参ります。
これに要する経費として、「桃ソムリエ」認定・活用推進事業費、500万円余を計上しました。
加えて、県産果実の輸出拡大を着実に進めて参ります。
9月議会でも申し上げたとおり、シャインマスカットについて、海外ライセンスを与えて現地での生産を許容することにより、既存の輸出市場を脅かすような事態を招くことや、国内生産者が本来得られたであろう高付加価値の販売機会の消失を生じさせるような対応は、到底容認できません。
引き続き国に対し、海外生産の前に、国内産地の競争力強化と輸出拡大のための支援を最優先にすべきことを強く訴えて参ります。
更に、新たな市場として期待されるベトナムには、輸出解禁に先駆け、SNSを活用した先行プロモーションを展開し、「やまなしブランド」のイメージを早い段階で強く印象づけているところです。
こうした攻めの戦略により、輸出の更なる拡大を図り、生産・流通・販売の三位一体による高度化を力強く進め、農業を「儲かる産業」として魅力あるものとし、本県農業の更なる振興を実現して参ります。
(「水田の再生活用」の促進)
次に、「水田の再生活用」の促進についてです。
現在、米の不足感は解消されつつありますが、本年夏の経験に基づけば、米の供給不足は今後も起こり得ることと認識すべきであり、生活の根幹である米の不足に対する県民の不安を払拭するためには、米の絶対量を確保することが不可欠です。
いかなる事態にも、主食である米を安定的に供給できる体制の構築が重要であり、県内での生産だけでは需要を満たせていない本県では、生産量の維持・拡大は早急に対応すべき課題であります。
このため、高温に強く食味の良い「にじのきらめき」の生産拡大に取り組むとともに、平時においては安定的な販売を保証する観点から、観光事業者等と連携し、県産米の県内消費を促進する新たなマーケットの創出を進めております。
更に、作付面積を拡大するため、水田の再編整備を強化して参ります。
中山間地域の多い本県においては、限られた農地を最大限に活用しなければならず、水稲の作付けが行われなくなった水田の再生を図っていく必要があります。
そこで、対象となる水田に稲を作付けすることで水田機能の回復を図るとともに、意欲ある生産者への円滑な貸し付けを推進することで、米の生産量の増加に努めていくこととし、水田再生活用促進事業費、400万円余を計上しました。
また、再生過程で収穫された米については、現在検討を進めている食料支援の仕組みを通じ、生活困窮世帯などへの寄附に活用する予定です。
これらの取り組みにより、いかなるときでも県民の消費に必要な米を供給できるよう、量的確保を進めて参ります。
(将来の交通体系の構築に向けた取り組み)
次に、将来の交通体系の構築に向けた取り組みについてです。
県内の二次交通は、人口減少や運転手不足が深刻化していることから、交通空白が広がり、観光客の移動のみならず、住民の生活にも大きな影響が生じております。
これらの課題を解決するため、県内全域をシームレスにつなぐ新たな交通ネットワークの構築を目指し、富士トラムや空飛ぶクルマなど次世代モビリティを活用した二次交通の抜本的な高度化を進めて参ります。
富士トラムについては、10月の四川省訪問に併せ、着想を得たARTを宜賓市で視察しました。
宜賓市のARTは、AIによる自動制御機能を駆使したシステムなどにより、少人数・低コストの運行管理を実現しており、他の道路交通とも共存していたため、本県においても適応可能性が高いと考えています。
また、空飛ぶクルマについては、リニア開業を見据え、本県でも2030年代初頭には一部地域での商用運航が開始される見込みです。
本県は山間部など地理的制約のある地域が多く、時間距離が大幅に短縮されることから、観光の足としてのみならず、ビジネス面での活用や、緊急時・災害時の移動支援など、従来の交通手段では対応が難しい場面での活用が期待できます。
富士トラムや空飛ぶクルマなどの新しい交通手段については、実物を県民のほか多くの皆様に見ていただき、県内交通の未来の姿を体感していただくべく、早期のデモ走行・デモフライトの実施を検討して参ります。
県では、こうした新たなモビリティの将来構想をしっかりと確立していくとともに、交通網の再編に向け、人流データの分析をもとに、地域の拠点間を結ぶ基幹路線の候補の選定や、拠点から先の地域内交通として公共ライドシェアや自動運転タクシーなどを活用する案についても検討しております。
今後は、基幹路線における最適な移動手段の検討や、富士トラムが基幹路線を走行する場合の技術的課題の整理などを進め、県と市町村が一体となって取り組むための指針となる「公共交通網再編に向けた基本方針」を来年秋までに策定することとし、公共交通網再編に向けた基本方針策定支援事業費、3,800万円余を計上しました。
この方針に基づき、次期地域公共交通計画の改定や、市町村が作成する地域交通計画と連動することで、誰もが必要な時に、必要な場所へ移動できる新たな交通体系を構築し、県民生活と地域経済の双方の「豊かさ」を実現して参ります。
(第五次やまなし社会資本整備重点計画の骨子案)
最後に、第五次やまなし社会資本整備重点計画の骨子案についてです。
この度、県では、第五次となるやまなし社会資本整備重点計画の骨子案を取りまとめました。
本計画では、令和8年度から令和12年度までの5年間にわたり、総額約5,000億円の公共投資を目指します。
この5,000億円という数字は、単なる予算の規模を示すものではなく、県民の命と暮らしを守り、地域の未来を切り拓くための、山梨県の覚悟と決意の表れです。
社会資本整備は、県民の安全・安心を支える基盤であり、地域の持続的な成長を支える未来への戦略的な投資です。
今回の計画では、国の第一次国土強靱化実施中期計画や第六次社会資本整備重点計画とも連携し、山梨県の将来像を明確に描いていきます。
次に、補正予算案に計上したその他の案件などについて御説明いたします。
(ツキノワグマ対策)
先ず、ツキノワグマ対策についてであります。
全国各地でクマによる人身被害が急増し、死亡事案は過去最多を記録するなど社会問題化しており、本県でも既に2件の人身被害が発生し、市街地での目撃も確認されているなど、事態は極めて深刻な状況にあります。
県では、これまでXによる情報発信や出没マップの公開、緊急銃猟への備えなどを行うとともに、先月には緊急に市町村との情報交換会を開催し、改めて連携体制の強化を図ったところです。
更に、クマ対策の一層の強化を図るため、過日、第二種特定鳥獣管理計画の策定や長期的視野に立った生息地の環境整備などを柱とした対策パッケージを公表し、速やかに実施していくことと致しました。
そのうち、市町村による緊急銃猟等の体制整備への支援や、生活圏への出没防止に向けた河川の樹木伐採、捕獲従事者に対する講習会の実施については、予備費を活用し、直ちに対応したところです。
今後とも、クマから県民の生命・財産を守るため、関係者と連携して全力で取り組んで参ります。
(新たな地域医療構想の策定)
次に、新たな地域医療構想の策定についてです。
平成28年に策定された現在の地域医療構想では、急性期病床を減らす一方で、回復期病床を増やすなど、入院医療を中心に体制整備を進めてきました。
しかしながら、今後、医療と介護の両方を必要とする85歳以上の高齢者も増える見込みであり、医療中心の体制だけでは対応が難しくなります。
また、人口減少が進む過疎地域などでは、医療経営が成り立たなくなる可能性があるため、拠点病院からの医師派遣や巡回診療、遠隔診療の活用により必要な医療機能の確保を図るとともに、再編や集約化についても本格的に検討します。
そこで、病床機能だけでなく、外来・在宅医療、医療と介護の連携、人材確保などを含めた医療提供体制全体を対象とした新たな地域医療構想の策定に着手することとし、新たな地域医療構想策定事業費、4,500万円余を計上しました。
全ての県民が必要な時に必要な医療と介護を受けられ、医療従事者も持続可能な働き方ができる体制づくりを進めて参ります。
(信玄公祭りの魅力向上)
最後に、信玄公祭りの魅力向上についてです。
信玄公祭りは、来年4月に第52回を迎えますが、甲府市以外の県民の関心が低いことや、若い世代に向けたコンテンツが不足していることなどが課題として指摘されており、新たな魅力づくりが求められています。
そこで、県庁前庭において、県内各エリアの伝統芸能の発表や、姉妹友好地域の食や文化のPRブース設置など、いわば県内における万博を開催することとし、信玄公祭りブラッシュアップ事業費、1,400万円余を計上しました。
地域や世代、国籍を超えた新たな交流の輪が広がる未来志向の信玄公祭りへと進化させて参ります。
以上の内容をもって編成いたしました結果、一般会計の補正額は、37億円余、既定予算と合わせますと5,453億円余となり、今回の提出案件は、条例案12件、予算案4件、その他の案件3件となっております。
なにとぞ、よろしく御審議の上、御議決あらんことをお願い申し上げます。
さて。
以上、提出案件について御説明申し上げました。
―独立自尊、公益追求、開拓者の気概、先人たちの精神を礎に―
ここで、改めて、今後の県政運営における根本的な考え方について、申し述べたいと存じます。
(正念場を迎えた山梨)
私たちは今、大きな時代の転換点に立っております。
富士トラム構想。
リニア中央新幹線の開通。
これらが実現したとき、本県は大きく飛躍いたします。
リニア効果が県内全域に波及し、二次交通網が抜本的に充実し、人が流入し、地価が反転する。
その輝かしい将来が、確実に、私たちを待っております。
しかし、です。
その将来に至るまでの、まさに今が、正念場であります。
この正念場とは何か。
それは、ただ待つのではなく、未来を自らの手で切り拓いていく。
その覚悟が、問われている瞬間に他なりません。
(県民所得向上という覚悟)
先ほど申し上げましたとおり、県民所得の向上こそ、当面する県政の最重要課題であります。
人口減少による人手不足。
日中関係の悪化によるサプライチェーンの不安定化。
国家財政の悪化による構造的な円安。
これらが、輸入物価の上昇を招き、県民生活を直撃し続けます。
私たちは、この現実を真正面から直視しなければなりません。
今、私たちが直面しているインフレ。
これは、一過性のものではありません。
当面、継続するものと覚悟すべきであります。
であるならば、である。
一時的な給付金や減税といった対症療法ではなく、県民所得そのものを向上させる。
それ以外に、真の解決策はないのであります。
(スリーアップの真髄)
先ほど御説明申し上げました「スリーアップ」。
この取り組みには、二つの核心があると申し上げました。
第一は、「公正な分配」。
第二は、「三者協働」。
しかし、ここで改めて申し上げたい。
県ができることには、限界があります。
生活に困窮し、生存そのものが脅かされている方々への支援。
貧困の世代間連鎖の防止。
これらが、県の財政力でギリギリ対応できるところであります。
単純な直接救済は、やりたくとも、できない。
それが現実であります。
しかし、です。
だからこそ、自ら乗り越えようと頑張る人々への支援に、全力を注ぐのであります。
頑張ろうという意欲がある限り、その意欲を持ち続ける限り、県は常に、最大限、ともに汗と涙を流していく。
その覚悟であります。
(実は、これは新しくない)
さて、このスリーアップという取り組み。
実は、これは全く新しい発想ではありません。
むしろ、私たちの先人が、既に実践していたことなのであります。
去る12月1日まで県立博物館で開催されておりました「甲州財閥展」。
その副題は、「日本で初めてに挑んだ人々」でありました。
かつて甲州は、京都、岐阜と並ぶ、日本三大商都の一つでありました。
そこに見いだされる甲州人の気風。
それは、自主性、公共性、開拓精神であります。
展覧会の図録には、こうありました。
「甲州財閥の成功の秘訣は、公益性という視点にあった。公益性の高いものは成功するという実践。公益性を手段として収益を得るスタイルであった。ただし、彼らは公益性そのものを目的とするかのごとく、時に使命感ともいえる情熱を傾けた。」
これを過去のものとしてはなりません。
これからの記憶として、今一度、再興せしめるべきものであります。
(スリーアップは甲州の伝統の再興)
私は、ここに確信を持って申し上げます。
本県が今、全力で取り組む「スリーアップ」は、まさに、この甲州の伝統に立ち返るものに他ならないと。
公益性を追求すれば、結果として収益が得られる。
これが、甲州財閥の精神でありました。
スリーアップも、同じであります。
働き手がスキルを高めることは、企業の収益向上という公益に貢献し、結果として自らの賃金アップとなる。
企業が働き手へ投資することは、働き手を豊かにする公益の追求であり、結果として企業自身の収益向上につながる。
働き手が豊かになることで、企業が豊かになり、地域が豊かになる。
働き手への投資は、すなわち、公益性の追求であります。
この好循環は、企業だけでなく、地域全体、社会全体を豊かにする。
甲州財閥の先人たちが実践したこの精神こそ、現代におけるスリーアップの理念そのものではないでしょうか。
(独立自尊の精神)
福沢諭吉翁は、「学問のすゝめ」において、独立の気力なき者は、真に国を思うことができないと説きました。
独立心を持たぬ者が何千人、何万人集まろうとも、それは烏合の衆に過ぎません。
一人ひとりが自ら立つ。
その独立心の涵養こそが、組織の、地域の、そして国家の盛衰を左右する。
この真理を、私たちは深く心に刻むべきであります。
甲州の人々がかつて成し遂げた「日本で初めて」の数々。
その気概もまた、この独立心、すなわち、「離れる」のではなく「己を立たせる」意に通じるものであったのではないでしょうか。
医療、介護、保育。
これらの現場を支える方々の処遇改善も、この精神に基づくものであります。
デジタル技術を駆使し、より高い専門性を発揮する。
「アドバンスト・エッセンシャルワーカー」としての道を拓く。
新たなキャリアパスを示すことで、社会的評価を高める。
それが、真の処遇改善であり、独立自尊の体現であります。
(待つのではなく、獲りにいく)
かつての成功と繁栄を支えたもの。
それは何か。
「待つのではなく、獲りにいく姿勢」に他なりません。
そして、得た富を我が身のみに収めるのではなく、あまねく、広く、他者や地域と共有する。
それによって初めて、豊かさの共栄圏、すなわち本県が目指す豊かさ共創社会は育まれるのであります。
事業が豊かになる。
企業が豊かになる。
地域が豊かになる。
そして、個人個々が、更なる豊かさを享受する。
孤高の繁栄とは、成り立ち得ません。
豊かさと繁栄とは、社会全体とともにありうるものである。
私は、そう信ずる次第であります。
(調和共栄という日本の精神)
明治天皇の御製に、次のような句があります。
「四方の海 みなはらからと思ふ世に など波風のたちさわぐらむ」。
世界は本来、兄弟のごとく、調和し共栄していくべきものである。
この精神こそ、日本の伝統であり、人間共通の願いではないでしょうか。
しかし、今日の社会を見るとき、この精神に反した姿のなんと多いことか。
最低賃金や就労環境の改善に取り組むに当たりましても、この調和共栄の精神は、常に新しい気づきを与えてくれます。
自身が豊かであるためには、周囲との歩みを意識することが不可欠なのであります。
地域を超え、世代を超え、国籍を超えて、新たな交流の輪が広がる。
それが、本県が目指す豊かさ共創の姿であります。
(万物は日に新た)
同時に、私たちは、過去に拘泥してはなりません。
万物は日に新たであります。
甲州の先人たちは、伝統を守りながらも、常に新しい挑戦を続けました。
電気を興し、鉄道を敷き、世界と交易した。
当時の最先端技術に、果敢に挑んだのであります。
私たちもまた、同じ道を歩まなければなりません。
視座は常に変化に敏感であり、変化を受け止めるには寛容でなければなりません。
今日と明日は、決して同じ毎日ではないはずです。
本県が掲げる「豊かさ共創」とは、獲得された富を分かち合うにとどまらず、互いに富を大きく膨らませていく。
かつて甲州が三大商都として栄華を誇った、その精神を、令和の時代に相応しい形で、今一度、呼び起こすことであります。
富士トラム。
空飛ぶクルマ。
5,000億円の社会資本整備。
これらは、単なる事業ではありません。
先人たちが電気や鉄道で成し遂げたように、私たちが次世代モビリティで成し遂げる、未来への戦略的な投資であります。
誰もが必要な時に、必要な場所へ移動できる。
誰もが豊かさを実感できる。
その当たり前を、実現する。
自主性、公共性、開拓精神。
そして積極果敢に外へと打って出る行動力。
もう一度、この意気と覚悟を再確認し、矜持を新たに、山梨を大きく強く、令和の雄藩へと台頭させたい。
このためにこそ、私は全力を注ぐ覚悟であります。
(理想と現実、その両方を)
さはさりながら、一方の現実においては、社会情勢の厳しさは増すばかりです。
過酷な環境にあって、気力も忍耐も保ち得ない。
そこに挫けてしまう。
そんな現実の苦悩にも、県として、日々、向き合っていかなければなりません。
理想で日々は暮らせない。
夢見るだけでパンは届かない。
だからこそ、行政には、やるべきことがあります。
子どもへの食料支援。
エッセンシャルワーカーの処遇改善。
生活困窮世帯への支援。
これらは、県として、今すぐに取り組むべき課題であります。
安全網を張り巡らせる。
子どもたちの健やかな成長を、途切れさせない。
困難に直面した方々を、見捨てない。
その決意の下、県として、できる限りの努力を重ねて参ります。
私たちは、理想を語りながら、現実に対処する。
その両方を、やり遂げなければならないのであります。
(挑戦なくして前進はない)
私たちは今、正念場を迎えております。
富士トラムによる未来。
リニア開通による飛躍。
その輝かしい将来に至るまでの、まさに今が、我慢のしどころであります。
しかし、ただ我慢するだけではありません。
挑戦なくして前進はない。
この厳しい時期を、県民所得の向上という確かな成果に結びつけながら乗り越えていく。
経営者も、働き手も、行政も、それぞれの立場で、できる限りの努力を重ねていく。
失敗を恐れず、躊躇なく、挑戦を続けていく。
その総体としての力が、必ずや、この困難を突破する原動力となるはずであります。
(ともに前へ、ともに豊かな山梨を)
県議会議員の皆様。
そして県民の皆様。
私は確信しております。
新しい希望が、新しい豊かさが、個々人がそれぞれの豊かさを実感できる毎日が、日々、新たに訪れる。
そのような山梨県を、私たちは創造できると。
甲州の先人たちが示した独立自尊の精神。
公益を追求する姿勢。
そして開拓者としての気概。
これらを今一度、私たちの血肉とし、次をにらんで今を動き、先をにらんで明日を動かす。
その姿勢を貫いて参ります。
ともに汗を流し、ともに涙を流し、ともにこの正念場を乗り越え、ともに豊かさを実感できる山梨を、必ずや築いて参ります。
誰もが豊かさを実感できる山梨。
その実現こそが、私の使命であります。
この使命を果たすため、私は、全身全霊を傾けて参ります。
令和7年12月4日
山梨県知事 長 崎 幸太郎