ページID:121428更新日:2025年6月12日

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令和7年6月県議会知事説明要旨

 

「ふるさとの強靱化」「『開の国』づくり」の二本柱で県政を推進

 

―県民の生活の質向上のための支援と国際交流を重点的に実行―

令和7年6月定例県議会の開会に当たり、提出いたしました案件のうち、主なるものにつきまして、その概要を御説明申し上げますとともに、私の所信の一端を申し述べ、議員各位並びに県民の皆様の御理解と御協力をお願い申し上げたいと存じます。

あらゆる人々が豊かに暮らせる多様な社会形成に向け支援策を実行

―経済政策やインフラ整備を推進し、ふるさとを強靱化―

当面する県政課題への対応として、先ず、「ふるさと強靱化」の取り組みのうち、「県民生活の強靱化」について御説明申し上げます。

 

ケアラー支援、社会全体で支える体制へ

―「気づく」「つなぐ」「支える」の三つの視点で孤立防止と離職回避を目指す―

はじめに、ケアラー支援についてです。

高齢化社会の進展により、介護が必要となる場面は誰しもに訪れ得る現実となっています。

特に、団塊の世代の方が全て75歳以上となる本年以降、介護需要が爆発的に増加することが予測されます。

このような状況を個人や家庭の問題として放置すれば、望まぬ離職や家庭崩壊を招くだけでなく、企業活動や地域経済にも深刻な影響を及ぼします。

もはや、ケアラーが抱える困難は、本人や家族だけの問題ではなく、社会全体が共感をもって受け止めるべき構造的課題であり、真正面から向き合う必要があります。

今の現役世代は、夫婦ともにフルタイムで勤務することが当たり前の時代を生きています。

夫婦2人が働いて、ようやく生活が成り立つ。

そうした中で、介護を理由にどちらかが離職すれば、家計は一気に崩れ、場合によっては生活困窮に陥ることすら現実味を帯びます。

それは、決して見過ごすことのできない、本県にとっての切実な課題であります。

昨年度実施した実態調査では、回答者の4人に一人がケアラーであることや、制度・支援の認知度が極めて低いことが明らかになりました。

私たちは、これを看過するのではなく、課題を積極的に発見・洗い出しをし、次の一手を講じて参ります。

そのため、今般、ケアラー支援に要する予算措置の第一弾として、総額2,600万円余の経費を計上いたしました。

今回の補正予算でお示しした事業は、当面のフェーズ・ワンの対策と位置付けており、今後、更に深化・発展させて参ります。

本県では、ケアラー支援を「気づく」「つなぐ」「支える」という三つの視点で整理し、支援の基盤整備を進めて参ります。

先ず、第一の視点、「気づく」についてです。

最も重要なのは、「気づき」です。

家族介護の在り方そのものが、今や大きな転換点にあるという事実に、先ず私たち一人ひとりが気づかねばなりません。

かつては、家族が自ら手をかけて介護を担う時代でした。

しかし、少子化と共働きが進む現代において、それは現実的ではなくなりました。

これからは、家族はマネージャーとして、介護体制を組み立てる存在へと役割を変えていくことが求められています。

更に、支援策が認知されなければ、いくら制度が整っていても意味がありません。

どこに相談すればよいのか、どの制度が使えるのかといった実務的な知識や情報へのアクセス、つまり、リテラシーの向上も、もう一つの気づきの軸です。

このため、本県では、これまでのセミナーやポータルサイトに加えて、「ケアラー支援推進員」を養成し、より地域に根ざした普及啓発と相談体制の構築に取り組みます。

また、企業側にも気づきが求められます。

介護と仕事の両立は、従業員個人の問題ではなく、企業の持続可能性に関わる経営課題であります。介護離職による人材流出は、事業運営に支障をきたします。

特に、介護体制を構築するための時間である介護休暇などの制度については、企業がこの制度の趣旨を最大限に尊重し、制度の活用を後押しする姿勢を明確にすることが求められます。

併せて、従業員に対しても、企業側から制度の意義や使い方を分かりやすく伝え、介護体制の構築に必要な支援を積極的に提供していくことが重要です。

県内企業のうち、これを優先課題として認識しているのは未だ僅か2割程度にとどまっています。

私たちは、経営者や管理職への働きかけを強化し、制度活用の促進と環境整備を進めて参ります。

次に、第二の視点、「つなぐ」についてです。

介護や看護は、ある日突然始まるものです。

心の準備も知識もないまま直面すれば、多くの方が不安と孤独の中で混乱し、支援を受けることに意識を向ける余裕はなくなります。

だからこそ、本県では、そうした方々に親身に寄り添い、必要な制度やサービスにつなげる伴走支援体制の構築を進めて参ります。

この伴走支援では、家族介護のマネージャー役を担う方に対し、いわば秘書役のような存在として、情報を整理し、制度利用の手助けをすることはもとより、制度の案内にとどまらず、心の重さに気づき、孤立をそっと包み込むような「共感のかたち」を具体化する仕組みであるべきです。

また、本人が介護体制づくりに専念できるよう、一時的な家事代行や生活支援サービスの調整など、日常生活全体のマネジメントを含む、包括的な支援体制を設計して参ります。

このため、持続可能な支援体制の構築に向け、介護の関係者や民間事業者も参画する会議を開催し、検討を進めて参ります。

次に、第三の視点、「支える」、すなわち、ケアラーの心身の負担を軽減する支援の充実によりケアラーを「支える」取り組みについてです。

本県ではこれまで、「介護待機者ゼロ社会」を目標に掲げ、施設での介護が必要であるにもかかわらず、介護施設の空きがないがゆえに、在宅介護を余儀なくされていた方々をなくしていくため、介護施設の受け入れ能力の拡充に努めて参りました。

そして、来年度末には、いよいよその目標を達成できる見込みとなっております。

加えて今後は、介護の現場で日々奮闘するケアラーの方々を、より直接的に「支える」施策が求められています。

ケアラーの置かれた状況は多様です。

親の介護と子育てを同時に担うダブルケア、子どもが家族の介護を担うヤングケアラー、高齢者同士で支え合う老老介護など、ケースごとに抱える困難や必要な支援は異なります。

更に、ケアラーが抱える課題は、介護・障害・生活困窮など複数にまたがっていることも多く、ケアラーの支援機関の約6割が、課題が複雑化・複合化しており、対応が難しいことを挙げています。

こうした様々な状況に丁寧に対応するため、地域包括支援センターや生活困窮者の支援機関、市町村などと密接に連携し、分野を超えた支援ネットワークの強化を図って参ります。

これらの関係機関を対象に、複数機関が分野横断的に連携して解決する手法を学ぶ研修会を開催し、複合的な課題を抱えるケアラーを一体的に支援する体制の構築に取り組んで参ります。

また、仕事を持つケアラーの中には、平日は相談の時間が取れず、孤立してしまう方も少なくありません。

先の実態調査では、相談する時間的余裕がない、ケアしている人同士の交流がないという悩みがあることが明らかになっております。

そこで、平日に相談することが困難なビジネスケアラーの不安と負担の軽減を図るため、土日や祝日にも専門的な見地からアドバイスを受けられる電話相談窓口を新たに開設いたします。

また、介護の問題は、周囲には相談しにくい話題でもあるため、ケアラーが孤独・孤立化してしまう傾向があります。

このため、ケアラー同士が集まり、情報交換を行える対面での交流会や直接出向くことが難しい方でも参加できるオンライン交流会などを開催して参ります。

ケアラー支援は、もはや一部の人のみではなく、全ての人に関わる社会のインフラであり、国を挙げて取り組むべき重要課題です。

先般、赤沢経済財政政策担当大臣をはじめとした関係閣僚などに対し、ケアラー支援を国の政策の柱に位置付けるよう要請を行いましたが、この働きかけが早速実を結びました。

先日公表された「骨太の方針2025」の原案において、「ヤングケアラー、ビジネスケアラーなど年代や就労の有無を問わず、ケアラーへの地方公共団体の取組を支援する」との記載が盛り込まれました。

この骨太の方針は近日中に閣議決定される予定となっておりますが、国の今後の経済財政運営の指針にケアラー支援が明記されることは、国全体でこの問題に取り組んでいくための非常に大きな一歩であり、本県が進める様々なケアラー支援の取り組みの後押しになるものと考えます。

引き続き、国との連携にも力を入れることで、ケアラー支援の取り組みを強力に推進して参ります。

 

フリースクールの学びの質を高め、不登校児童・生徒の支援を拡充

―子どもと保護者の双方に寄り添い、子どもが自ら学ぶ力を取り戻す環境を実現―

次に、不登校児童・生徒への支援についてです。

不登校児童・生徒は、全国的に増加しており、令和5年度の調査結果によれば、本県でも公立小中学校の不登校児童・生徒が2,100人を超え、このうち100名程度がフリースクール等の学校以外の学びの場を利用しております。

不登校のお子さんを抱える御家庭には、言葉にしがたい苦しみと、出口の見えない不安があることを、私は忘れてはならないと思っています。

誰よりも我が子のことを案じ、誰にも打ち明けられないまま、静かに悩みを抱えておられる保護者の方々に、県はしっかりと寄り添っていかなければなりません。

そうした思いの下、本年度から、フリースクールへの通学補助制度を新たにスタートさせました。

本年2月議会で御承認をいただいたこの制度によって、経済的な理由で子どもを安心できる環境に通わせることが難しかった御家庭にも、新たな学びの選択肢が生まれました。

これは、保護者の方々の負担を少しでも軽くし、心に余裕を取り戻していただくための一歩です。

そして、私自身、先般、県内のフリースクールを視察した際、目にした子どもたちの姿が今も心に強く残っています。

そこには、決して無気力でも、諦めているわけでもない、一人ひとりの小さな意志と希望が、静かに、でも確かに息づいていました。

ありのままを受け入れられたとき、子どもは自ら学ぶ力を取り戻す。

私はその現場に、確かな希望の光を見ました。

だからこそ、本年度は、こうしたフリースクールでの学びの質を更に高めるべく、ICTを活用した課題解決型学習などをモデル的に導入し、教育内容の充実を図って参ります。

これに要する予算として、不登校児童生徒学習機会創出モデル事業費、500万円余を計上いたしました。

また、この取り組みを通じて、DXに興味を持った児童・生徒には、県で既に実施しているDX人材育成エコシステムの上位プログラムへの参加を促し、自らの可能性を更に拓いていくことを期待しております。

その子にふさわしい学びがあれば、必ず道は開ける、そう信じての挑戦です。

不登校は問題ではなく、その子なりの生き方のサインかもしれません。

そのサインに共感し、子ども一人ひとりの物語に寄り添い、社会として支える姿勢が、私たちに求められています。

子どもたちの未来を信じ、同時に保護者の方々の心に寄り添いながら、県として全力で取り組んで参ります。

今後も、本人支援と保護者支援は切り離すことなく取り組み、誰一人取り残さない温かい教育環境の実現を目指して、着実に前へと進んで参ります。

 

食・住・職の三本柱で生活のセーフティネットを整備

―夏休みの食料支援や居住支援の窓口創設、就労促進で生活困窮者を支援―

次に、生活保護受給者及び生活困窮者に対する支援についてです。

昨今の物価高騰により、県民の暮らしは、今、かつてない厳しさにさらされています。

中でも、影響が最も色濃く、そして最も深刻に及んでいるのが、低所得の世帯、生活に困難を抱える方々です。

先般、本県が実施した実態調査においても、生活保護受給者の方々が、以前にも増して切実な生活苦に直面している現実が明らかとなりました。

物価が上がる。

しかし、賃金はそれに追いつかない。

実質賃金の低下。

つまり、「買える力」の減退こそが、生活の土台を崩しつつあるのです。

日々の食卓に、冷暖房に、医療や学びに、当たり前のはずだった暮らしが、当たり前ではなくなる。

その矛先が、今、最も弱い立場の方々に向かっています。

これまで本県では、物価高騰に対する経済環境の整備を県が、生活支援を市町村が担うという役割分担を原則として参りました。

しかし、この現実を前にして、私たちは今、真正面からそれを直視しなければなりません。

物価高が長引く今、県としても、直接的かつ迅速に、生活を守る責任を担うべき時だと、私は判断いたしました。

とは言え、もとより、生活支援の制度や財源の多くは国の所管であり、地方自治体である県の対応には限界があるという現実も、私たちは率直に認識しなければなりません。

それでもなお、県として可能な範囲で、最大限の努力を尽くす。

その姿勢こそが、今、求められていると確信しております。

支援が届かなければならない人に、確実に届くように。

そして、誰一人、取り残さないように。

今、私たちが支えなければならないのは、困難の真っただ中にある人たちの「今この瞬間の暮らし」です。

そこには、制度や数字では測れない切実な現実があります。

私たちは、その痛みに共感し、心の奥に届く支援を届けなければなりません。

とりわけ、生活保護を受ける方々や、生活困窮に直面する方々が、先ずは、今日の「食」を確保し、安心して「住」まいを構え、そして「職」に就くことで、自立への一歩を踏み出せる。

そのための、生活の土台を守ることが、今強く求められています。

これは、単なる一時的な対応ではありません。

憲法が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を、現実のものとして支えるために。

「食・住・職」の安心を、持続可能な形で社会全体が支え合える仕組みとして整え、機能させていく。

それは、単発の支援ではなく、人と地域をつなぎ、誰もが次の一歩を踏み出せる社会基盤を築くための取り組みです。

その明確な意思と方向性を、ここに申し上げます。

今、できることを、確実に。

必要なところへ、確実に届ける。

本県は、生活の最前線に立つ行政として、その責任を果たして参ります。

このような方針の下、本県では、「食」「住」「職」の三つの視点から、生活保護受給者や生活困窮者の方々への支援を体系的に整備し、いずれの分野においても持続可能な支援体制の構築を進めて参ります。

先ず、「食」の確保についてです。

生きていく上で欠かせない「食」は、全ての人にとって最も基本的かつ重要な要素であり、日々の生活の土台でもあります。

このため、県では、継続的・安定的に食料支援が行われるためのシステムづくりを、市町村や民間団体と連携して取り組んで参ります。

一方で、こうした体制の構築には一定の時間を要するほか、給食がなく、周囲の目が届きにくくなる子どもの長期の休みの間は、より深刻な状況に陥ることが考えられます。

このため、目前に迫った夏休み期間については、緊急的な対策として、子どもの貧困対策緊急食料支援事業費、1億円余を計上し、生活保護受給世帯や生活困窮世帯の小学生から高校生までを対象に、食料支援を実施いたします。

次に、「住」まいの安定についてです。

単身世帯の増加や持家率の低下などを背景に、賃貸住宅のニーズが高まっている一方で、生活保護受給者や生活困窮者、高齢者の方々が住宅を借りにくいという現状があります。

住まいは生活の基礎であるため、誰もが安心して住まいを確保できるよう、公営住宅の空き室の活用促進や居住支援のワンストップ窓口の創設など、住宅と福祉が連携した居住支援体制の構築について検討を進めて参ります。

最後に、「職」、すなわち就労と自立の支援についてです。

生活保護受給者やその一歩手前で踏みとどまっている生活困窮者の方々が、生活保護から脱却し、あるいは、生活保護に移行することを防ぐには、就労支援の充実を図り、自立を促していくことが重要です。

就労されていない方の中には、対人関係に不安を抱えるなど、就職活動を開始し、自立に向けて行動することが困難な方も多くいます。

そこで、このような課題を抱える方の就労促進に向け、日常生活に必要な生活習慣やコミュニケーション能力の形成などを支援する段階的かつ個別最適化された体系的な就労準備支援プログラムの提供を進め、自立への一歩を力強く後押しして参ります。

これに要する予算として、生活保護受給者等就労準備支援事業費、2,700万円余を計上いたしました。

また、障害や疾病などで就労準備支援プログラムによって、直ちに一般就労が困難な方についても、その方の特性や希望を丁寧に把握し、就労につなげられる支援体制を整備して参ります。

加えて、経済的に厳しい状況にある方々の所得向上を図るための取り組みにも注力して参ります。

これまで本県では、非正規で働く女性を中心に、デジタル人材として育成し、企業とのマッチングを進めてきました。

一方で、近年急速に普及する生成AI技術に対し、企業ニーズが高まっておりますが、それを活用できる人材の不足が課題となっております。

このため、デジタル人材育成・就労支援事業費、3,000万円余を計上し、非正規雇用者や未就業者を対象に、生成AIデジタル人材の研修プログラムを新設するとともに、受講者の正規就労などをきめ細かく支援して参ります。

なお、本県の財政規模を踏まえた持続可能性のあるセーフティネットの構築という観点からは、現金給付や価格差補填といった手法は困難であるものの、生活保護費のような国が水準を定め、財源措置を講じているものについては、物価上昇を適切に反映した改定を国に対して求めて参ります。

 

声なき声を確実に支援につなぐ仕組みを構築

―ポッドキャスト導入、スクールソーシャルワーカー増員で「共感」、そして「伴走型の支援」へ―

次に、困難な状況に置かれた方々を、確実に支援へとつなげるための仕組みづくりについてです。

ケアラー・貧困・ひきこもり・DVなど、人知れず苦しんでいる方々の多くが、目立ちたくない、知られたくないという思いから、声を上げることをためらい、孤立の中で支援の手が届かないままになってしまう現実があります。

そうした方々にこそ、先ずは声を上げやすい環境をつくることが必要です。

県ではこれまで、LINEによる相談やメタバースを活用した交流の場の提供など、当事者の気持ちに寄り添いながら、同じ境遇にある方とつながるきっかけづくりを進めて参りました。

更に、本年度は、新たな試みとして「ポッドキャスト」という手段を取り入れます。

日常の家事の合間、通勤の車中、眠る前の静かなひとときに。

イヤホン越しに誰かの声がそっと語りかけてくるポッドキャストには、そんな「ひとりの心」に静かに寄り添う力があります。

ポッドキャストは、聞き手がその場で反応を返すことのできない、一方向のメディアです。

けれども、だからこそ、聞き手は評価されることのない安心感の中で、自分のペースで耳を傾けることができます。

匿名で聞ける気軽さも手伝って、語りかける声は、まるで自分にだけ向けられているかのような親密さを帯び、知らず知らずのうちに、心の深い部分にまで届いていきます。

「こんな思いを話していいのだろうか。」

「誰にも分かってもらえないかもしれない。」

そうした言葉にならない感情にも、このパーソナルなメディアは、共感という形で、そっと手を差し伸べる可能性を秘めています。

私は、このポッドキャストが、静かな共感のうちに、人と人、そして支援の輪をつなぐ入り口になることを、強く期待しています。

行政機関やNPO、地域の支援者とつながる「声」が、そこから生まれることを願ってやみません。

こうした特性を活かし、誰にも言えずに悩みや孤独を抱えている方が、ポッドキャストという静かな語りかけに耳を傾けることで共感し、安心の中で自分の思いに向き合うきっかけが生まれる。

そんな心の動きが、やがて行政やNPO、地域の支援者へとつながる「声」となり、確かな支援へと結びついていくことを目指して参ります。

この新たな取り組みとして、ポッドキャストを活用した相談・支援接続促進事業費、500万円余を本予算に計上いたしました。

また、学校現場においては、ヤングケアラー・貧困・虐待など、児童・生徒やその家庭が抱える課題がますます複雑かつ多様化しています。

中でも、ヤングケアラーや子どもの貧困のように、家庭内で静かに進行し、表面化しにくい課題は、教員が日常的な学校生活の中で早期に気づくことが難しい現実があります。

更に、こうした課題には一度きりの対応ではなく、継続的に寄り添い、信頼関係を築きながら支援し続ける「伴走型の支援」が必要です。

しかしながら、多忙な教員だけでは、その全てに十分に対応することは困難です。

だからこそ、今求められているのは、学校と家庭をつなぎ、子どもたち一人ひとりの事情に応じて支援の橋渡しを担う存在です。

それが、専門的な知識と実践力を備えたスクールソーシャルワーカーです。

現在、本県では15名のスクールソーシャルワーカーが、子どもたちの声なき声に耳を傾け、家庭や地域、関係機関との連携を通じて、最もふさわしい支援へと導く役割を果たしています。

こうしたスクールソーシャルワーカーの力を県内の学校現場に着実に根付かせていくため、スクールソーシャルワーカー養成事業費、200万円余を計上し、大幅な増員に向けた養成研修を実施いたします。

子どもたちの未来を守るため、支援の最後の砦を支える人材育成に、全力で取り組んで参ります。

 

外的ショックにも耐えうる強靱で柔軟な経済基盤を確立

―産業の高度化・多角化で、「攻めの経営」への転換を積極的に支援―

次に、米国関税措置への対応についてです。

県民生活の強靱化を実現するためには、自然災害や感染症に備える社会的インフラの整備だけでなく、地域経済の基盤そのものを強靱に構築し、より柔軟で持続可能な姿へと高めていくことが不可欠です。

すなわち、今回のような米国関税措置といった外的ショックが生じた場合にも、地域経済が動揺することなく、安定的かつ持続的な成長を維持できる経済体質への進化が求められております。

本県の主力産業である機械電子産業をはじめとする製造業については、既存事業の高度化・転換・多角化を図るとともに、医療機器などの成長分野への参入を進めることで、より強靱で柔軟な経済体質への進化を目指して参ります。

県としては、こうした経営者の挑戦を支えることを、支援施策の主軸に据えて参ります。

このような経営構造の転換は、攻めの経営への移行を意味するものであり、これまでもメディカル・デバイス・コリドー構想や水素エネルギー分野の産業化、航空・宇宙・防衛産業への参入支援などを通じて、その基盤を着実に構築して参りました。

今般の米国関税措置についても、経済体質の更なる進化に向けた契機と捉え、県として積極的に対応して参ります。

先般開催した米国関税対策協議会では、経済団体の皆様から、今後の不透明な見通しや国内外需要の減退に対する強い懸念の声とともに、県に対し、経営判断に資する正確な情報の提供や経営転換に向けた具体的支援を求める御意見が多数寄せられました。

こうした声を真摯に受け止め、県内企業の海外取り引きの実態や米国関税措置による影響を的確に把握するため、米国関税影響等調査事業費、700万円余を計上し、詳細な実態調査を実施して参ります。

また、経営の高度化・転換・多角化に挑む企業に対しては、専門家の派遣・研究開発・人材育成などの支援に加え、商品開発や販路開拓に活用可能な補助制度を大幅に拡充して参ります。

こうした構造転換には一定の時間を要するため、移行期間においては、企業の状況に応じた柔軟かつ必要な支援を適時適切に講じて参ります。

また、必要に応じて、支援の仕組みそのものも機動的に構築して参ります。

なお、農業分野については、現時点で直接的な影響は見られませんが、今後を見据えて農産物の高付加価値化を一層進めるとともに、インバウンド需要を地域経済の新たなマーケットとして積極的に取り込んで参ります。

更に、米国に対して受け身になるのではなく、本県の主要農産物であるブドウ・桃・スモモの輸出解禁に向け国へ働きかけるとともに、アジア諸国を中心に新たな輸出先の開拓に鋭意取り組んで参ります。

今後も、対米交渉の動向や世界経済の変化を注視しつつ、関係機関と緊密に連携し、必要な対策について、時機を逃さず的確に講じて参ります。

 

激甚化・頻発化する自然災害に対応しインフラ投資を拡充

―国の5か年加速化対策に続く新たな中期計画を踏まえ、県土の強靱化を推進―

次に、県土の強靱化についてです。

近年の激甚化・頻発化する自然災害から県民の生命・財産を守るため、交通の強靱化や防災・減災対策など、県土の強靱化を推進する必要があります。

今補正予算には、国の内示増に伴い、公共事業費178億円余を計上しております。

今回の内示においては、中央自動車道と新山梨環状道路の連携強化につながる、小石和アクセス事業が新たに事業化されました。

中央道の笛吹八代スマートインターチェンジと環状道路の小石和インターチェンジ(仮称)を結ぶ約1.6キロメートルの区間で、蛍見橋 の架け替えや現道の拡幅などアクセスの向上を図って参ります。

なお、これまで県では、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」を受け、令和2年度にお示しした想定事業量4,600億円を上回る事業量を確保し、県土の強靱化に取り組んで参りました。

こうした中、この5か年加速化対策に続く「第一次国土強靱化実施中期計画」が、先日、国において策定され、令和12年度までに実施すべき国土強靱化に資する施策が示されました。

今後、県では、この中期計画を踏まえ、令和12年度までの5年間に必要となる想定事業量をお示しし、本県の社会資本の整備方針を盛り込んだ新たな社会資本整備重点計画を策定して参ります。

 

新型インフルエンザ等対策行動計画を全面的に改定

―感染症に強い社会の実現に向け、平時の備えと、計画の実効性を重視―

次に、感染症に対する強靱化についてです。

新型コロナの経験を踏まえ、次なる感染症危機にも円滑に対応できるよう、この度、新型インフルエンザ等対策行動計画について、対策項目を拡充するとともに、平時の準備・実効性の確保に重点を置いた内容に全面的に改定しました。

改定前の計画には、何が起こったら、どのように行動するのかについて、具体的な運用が記載されておらず、新型コロナへの対応に当たっては全く使いものになりませんでした。

こうした反省を踏まえるとともに、新型コロナの感染拡大防止の取り組みの経験を反映させ、新たな感染症有事に際しても円滑に対処できるようにすることを旨としたものであります。

新たな計画では、事前の備えを重視し、平時から医療提供体制の確保や感染症専門人材の養成、個人防護具の備蓄に取り組むとともに、関係機関と連携した訓練の実施などを通じて、計画の実効性を検証していくこととしております。

今後も、この計画に基づく取り組みを着実に進め、次なる感染症危機が発生した場合であっても、感染拡大防止と社会経済活動が両立する、感染症に強靱な社会の実現に向け、継続的に努力を積み重ねて参ります。

 

人と地域の交流を進めると同時に地域経済の基盤を強化

―国内外に開かれた「開の国」の実現を目指す―

次に、「『開の国』づくり」に関する取り組みについて申し上げます。

 

グローバルプレーヤーとしての地位確立へ

―人的交流を基盤に新たな価値を創出、複数自治体と連携した面的交流の枠組み構築を主導―

先ず、国際交流の取り組みについてです。

少子高齢化による国内市場の縮小や労働力不足、アジア諸国など新興国の技術発展による国際競争の激化といった構造的課題を踏まえると、地方自治体においても、国内だけを見据えた取り組みでは、地域社会の持続可能な未来を切り拓くことはできません。

これからの時代は、地方行政にあっても世界基準で考え、行動する発想が求められます。

こうした認識の下、本県では、「姉妹都市2.0」を掲げ、従来の行政主体による儀礼的な交流から脱却し、幅広い分野での人的交流により新しい価値を創造することを主眼に国際交流を推進してきました。

姉妹都市である、アメリカ・アイオワ州、ブラジル・ミナスジェライス州、中国・四川省、韓国・忠清北道、ベトナム・クアンビン省などとも周年事業を契機に、新たに互恵関係の構築に向けた合意の締結を進め、実質的な交流を積み重ねております。

今後は、こうした取り組みを更に進化させ、「Global Value Creation」、すなわち、国際的な新たな価値の共創を基本精神に、「グローバルプレーヤー」としての自覚の下、「人の交流を基盤とした新しい価値の創造」と「国内外の自治体を面的に結ぶ国際連携の推進」の二つの柱を軸に、国際交流を展開して参ります。

先ず、第一の柱である「人の交流」については、水素関連技術、文化・芸術、青少年、企業間連携といった分野で、既に力強い展開を始めています。

水素関連技術については、富士グリーン水素コミュニティ・コンソーシアムを通じた国際連携を推進しており、来年3月には、水素の利活用や社会実装に向けた国際的なルールメイキングを議論する国際水素サミットを本県で開催いたします。

本サミットには、昨年11月に連携協定を締結した世界最先端の水素利用技術を推進するカリフォルニア州の官民連携組織「ARCHES (アーチズ) 」は勿論のこと、姉妹都市である、ブラジル・ミナスジェライス州、中国・四川省、韓国・忠清北道、ベトナム・クアンビン省に加え、グリーン水素に関する覚書を交わしたベトナム・イエンバイ省やインド・ウッタル・プラデーシュ州、オーストリア・ニーダーエスタライヒ州などの自治体に参加を呼びかけ、世界基準の議論の場を形成して参ります。

文化・芸術分野に関しては、料理人や若手芸術家の交流を中心に幅広く活動を推進して参ります。

「食」の理解は、地域の相互理解への最も近くて広い間口です。

この「食」を通じた交流については、これまでも中国大使館やベトナム大使館との間において、それぞれ両国要人を招き、マリアージュの体験会などを催し、好評を博してきたところです。

今後は、この取り組みを更に一歩踏み込んで、山梨県と各国の料理人が、県産食材を活用しながら、それぞれの料理を融合させて、新しい食文化を生み出していくことを目指す取り組みを進めて参ります。

その第一歩として、昨年12月に合意したウッタル・プラデーシュ州との連携事業の一環として、日印の料理人が県産食材を活用して創作した料理を、秋にインド大使館で披露する予定です。

この取り組みは、カリフォルニア州との交流をはじめ、韓国・中国・ベトナム・オーストリアなどにも拡大し、食を通じた国際的なつながりを育みます。

将来的には、山梨県がこれら各国と料理の粋を融合して生み出す新たな食文化の中心地となることを目指して参ります。

青少年交流では、グローバル・ビレッジ・コンソーシアムにおいて、ラグナビーチ市との協定に基づき、ロサンゼルスで活動するジャズバンドを招へいし、富士北麓地域の中高生との共演など、音楽を通じた交流を行います。

また、既に開催している「Fuji―California Young Artists Expo」では、世界中の学生から社会課題をテーマにした作品を募集し、アートを共通言語とした交流を展開しています。

本年度は、入賞者を「アート・アンバサダー」としてカリフォルニア州に派遣し、現地アーティストとの共同制作を通じて、創造的かつ実践的な国際感覚を養う機会を提供して参ります。

企業間連携の分野では、10月のカリフォルニア州指導者との交流会に際し、アーバイン市・サンディエゴ市など、医療機器関連産業が集積し、本県のパートナーとなり得る自治体を対象に個別の意見交換会を実施いたします。

意見交換会において、メディカル・デバイス・コリドー構想の取り組みや、米国市場への展開が期待される本県企業の高い技術を紹介し、行政当局間の信頼関係を構築することで、来年2月の企業間交流イベントにおいて具体的な連携の実現を目指します。

これに要する予算として、メディカル・デバイス・コリドー創生事業費、2,100万円余を計上いたしました。

これらの取り組みを通じて、お互いに利益をもたらす実質的な交流につなげて参ります。

次に、第二の柱である「面的な国際連携の推進」についてです。

国際交流における一対一の関係は、相手国・地域との資源や体制の違いによって、継続性や成果に課題が生じ得ます。

特に、人口や経済規模が小さな本県にとっては、現実問題として、大きな課題となります。

このため、今後の本県の国際交流に当たっては、国内の他自治体と連携して国外と関わる「面的交流」の枠組みを本県が主導して築くよう努めて参ります。

現在、多くの自治体が海外の自治体と個別に交流を行っていますが、他の自治体の連携先との交流が、本県に実益をもたらす可能性は十分あり、また、逆に他県が本県の連携先と交流することで実益を得る可能性も十分あります。

このため、国内の自治体同士が連携し、既に交流している自治体が窓口、いわばゲートウェイとなり、連携している自治体が相互に交流の機会を提供し合うことで、より広域的かつ効果的な交流が実現できると考えています。

このような複数自治体によるネットワークは、国外のパートナーに対して本県との連携の魅力度を高めるとともに、その構成自治体に新たなビジネス機会や人的交流の拡大をもたらす互恵の仕組みとなります。

そして、この連携体制の構築において、本県がイニシアチブを発揮することが極めて重要です。

その主導性こそが、本県に対する国際的な信頼感を高め、グローバルプレーヤーとしての地位を確立していく鍵となります。

今後、本県がこのような国際的な自治体間連携の先導役として、他の自治体に広域的な交流への参加を呼びかけて参ります。

また、10月には、カリフォルニア州の首長や州関係者と「日米リーダーシップ・サミット」を開催することとし、富士五湖自然首都圏フォーラム・カリフォルニア州連携強化事業費、2,100万円余を計上いたしました。

この機会に本構想を提案し、広く国内外からの理解と賛同を得て参ります。

今後も、人の交流を通じた新たな価値の創造と、本県が中心となった面的連携の構築という二つの柱をもとに国際交流を推進し、本県を、国内外をつなぐゲートウェイたるグローバルプレーヤーとして力強く前進させて参ります。

地域の魅力を最大限に引き出し、「上質な空間」へ転換

―民間事業者との連携による構想やビジョンの具現化で、地域経済の好循環を創出―

次に、県内各地域の高付加価値化についてです。

地域に人・モノ・資金を呼び込むためには、それぞれの地域が持つ歴史や文化、景観などの潜在力を最大限に生かし、地域全体を「上質な空間」へと磨き上げていく必要があります。

先ず、峡南地域に南アルプス市を加えた「南山梨」エリアでは、道の駅富士川のフラッグシップ化に向け、ビームスクリエイティブのプロデュースにより本エリアの魅力を編集し、「朝」をテーマとして、トライアル事業の実施や事業計画の策定を行ったところです。

今後は、情報発信機能の強化や上質な体験価値の提供など、滞在時間の延長や消費拡大のための仕掛けづくりを更に進め、「南山梨」エリア全域に賑わいを生み出して参ります。

これに要する予算として、「道の駅」フラッグシップ化推進事業費、5,900万円余を計上いたしました。

また、東部地域については、現状、首都圏から富士北麓地域へ向かう通過点となっており、滞在や交流を促進し、消費を拡大していくためには、この地域を通過点から目的地へと転換する必要があります。

このため、道の駅つるをフラッグシップ化の第二弾として、地元自治体や事業者、大学などと連携しながら、地域資源の活用やブランディングの方向性について検討し、構想を策定して参ります。

次に、甲府地域については、武田の杜の価値向上に取り組んでおります。

昨年度より地元関係者や有識者と検討を重ね、過日、「森と共に創る未来~特別な癒やしと体験を、武田の杜で~」を基本コンセプトとした全体構想を取りまとめたところです。

今後、地域の観光資源との相乗効果を生み出すことができるよう、広く民間事業者等から意見や提案を募り、構想の具体化につなげて参ります。

更に、峡北地域においては、本年3月、小淵沢エリアの振興に向け「品格と安らぎを感じる『馬』のまち」をコンセプトにした「小淵沢エリア振興ビジョン」を策定しました。

地元の事業者や各種団体、北杜市などとともに、具体的な振興策を検討・実行し、富士北麓エリアに次ぐ世界ブランドの地となるよう、小淵沢エリアの高付加価値化を図って参ります。

このように、県内各地域の魅力を最大限に引き出し、「上質な空間」へと転換していくことで、地域経済の好循環を生み出して参ります。

 

「信仰の対象」「芸術の源泉」富士山のあるべき姿を議論

―五合目に求められる姿や機能のコンセンサス形成に向け、基礎調査を開始―

次に、富士山五合目の在るべき姿についてです。

世界文化遺産登録時にイコモスから出された宿題の中で、「人が多すぎる」と「環境負荷が大きすぎる」については、登山規制の導入や富士トラムの提案により、解決に向けた具体的な取り組みが進められております。

しかしながら、「人工的景観が信仰の場にそぐわない」、すなわち、五合目の諸施設について意匠の改善を要するという指摘は、根本的な解決が図られないまま今日に至っております。

今や世界から愛される存在となった富士山は、世界からの目線に耐えられるものでなければなりません。

「信仰の対象」及び「芸術の源泉」とされる富士山本来の在るべき姿は何か、そのためには五合目がどのような姿・機能を持つべきであるかについて、関係者の皆様と議論を深め、コンセンサスの形成に努める必要があります。

このため、富士山五合目再整備調査検討事業費、3,000万円余を計上し、五合目の将来イメージや備えるべき機能など、議論の素材となる基礎調査を実施いたします。

 

「豊かさ共創スリーアップ」と子育て世代の住環境整備を重点に人口減少に挑む

―将来への希望を支える生活基盤政策で、未来を描ける社会を実現―

次に、人口減少危機対策に関する取り組みについて申し上げます。

人口減少は、地域社会の持続可能性を根本から脅かす、我が国にとって最大級の構造的課題です。

中でも深刻なのは、若い世代が将来に希望を見出せず、結婚や出産、子育てに踏み出すことが難しい現実です。

人口減少への根本的な対策は、若い世代が人生に明るい展望を抱き、安心して家庭を築き、子どもを産み育てることができる社会を実現することであり、それこそが、私たちが今取り組むべき最優先の政策課題であります。

こうした社会の実現に向けて、本県では、豊かさ共創スリーアップの推進、子育て世代の住宅取得支援を重点項目として、戦略的に取り組みを展開して参ります。

 

働き手のスキルアップが企業の収益アップ、そして賃金アップへとつながる

―三位一体の好循環「豊かさ共創スリーアップ」で「努力が報われる」社会を形成―

先ず、豊かさ共創スリーアップの推進についてです。

若い世代が将来に確信を持てない最大の要因は、経済的不安です。

かつての日本では、社会全体が一体となって豊かさを増していく中で、若者も今は所得が低くても、やがては家庭を築けるだけの収入が得られるという将来展望を自然に抱くことができました。

社会の成長が、個々人の努力を後押ししていた時代です。

しかし、現在の若者は、まさに「失われた30年」とも言われる長期停滞の中で育ち、社会や経済の将来に対する安心感を持ちにくい環境にあります。

その結果、今この時点で十分な所得がなければ、結婚や子育てには踏み切れないと感じる若者が少なくありません。

このような時代にあって、社会全体の豊かさに頼るのではなく、個人が努力によって報われる環境を整えることこそが、最も現実的で力強い人口減少対策であると考えます。

この考えの下、県では、働き手のスキルアップが企業の収益アップにつながり、それが賃金アップとして働き手に還元されるという三位一体の好循環、すなわち、豊かさ共創スリーアップの構築を進めております。

これは、単なる雇用政策ではなく、将来への希望を支える生活基盤政策です。

これまで県では、キャリアアップ・ユニバーシティを立ち上げ、スリーアップの推進に取り組んできたところであり、令和6年度末におけるスリーアップ宣言企業数は、626社となっています。

しかしながら、スリーアップがまだ十分に浸透しているとは言えず、多くの企業ではスキルアップは働き手個人の責任と捉えられているのが現状です。

このため、今後は、経済団体との連携やプッシュ型の企業アプローチに加え、スリーアップを体現する優良企業の認証制度を新たに創設し、その取り組みを県広報などで広く発信していくことで、社会全体に「努力が報われる」という実感を取り戻す環境づくりを進めて参ります。

 

「子ども」や「家庭、地域のつながり」を育む良好な住環境の取得をサポート

―都市と自然の調和、利便性など山梨県の魅力を生かし、若者が未来を描ける社会を目指す―

次に、子育て世代の住宅支援についてです。

県の調査では、良好な住環境と出生率との間に正の相関があることが明らかとなっております。

住まいは、単なる居住空間ではなく、子どもを育む場であり、家庭と地域とのつながりを育てる基盤でもあります。

このため、県では、本年度から市町村と連携し、子育て世代が安心して住宅を取得できるよう支援を開始いたしました。

併せて、3月には南部町と連携協定を締結し、住環境の整備とその効果検証を進めており、この成果を県内全域に展開して参ります。

なお、この際、人口減少問題が国家的重要課題であるとの認識の下、地方の良好な住環境が、東京一極集中の是正にも資する国家的資源とも言えることを付言させていただきたいと思います。

本県は、東京に隣接しながらも、豊かな自然環境・地域コミュニティの強さといった、都市と自然の調和が取れた生活環境を有しており、子育て世代にとって大きな魅力となり得ます。

更に、リニア中央新幹線の開通により、本県は東京と25分で結ばれ、利便性と暮らしやすさを両立した新しいライフスタイルが現実のものとなります。

このような地の利を生かした住宅や子育て支援を更に強化すべく、「地方創生2.0」の中核に位置付けるよう、国に提言を行いました。

私たちが目指すのは、若い世代が山梨でなら暮らしていける、ここで家族と未来を描きたいと思える社会の実現です。

そしてその先には、「ワークとライフが最高度にバランスする桃源郷の創出」という本県独自の将来像があります。

この理想の実現に向け、全庁一丸となって力強く取り組んで参ります。

 

若者を対象にプレコンセプションケアを全国に先駆け推進

―健診体制を整え、理想のライフプラン実現を支援―

次に、プレコンセプションケアの推進についてです。

本県では、若い世代を対象に、妊娠・出産に関する正しい知識を学ぶセミナーの開催や、若いうちから自身の健康状態を把握するプレコン健診の実施など、プレコンセプションケア事業を全国に先駆けて推進しております。

昨年度のプレコン健診の受診者は、当初の想定の約1.5倍に当たる1,481人にのぼり、受診者からは、生活習慣の見直しにつながったとの意見が数多く寄せられるなど、行動変容につながる成果が現れております。

本年度も希望者全員が受診できる体制を整え、女性が理想のライフプランを描けるよう支援して参ります。

 

混合診療への支援も視野に不妊治療への助成を検討

―「切なる願い」に応えるべく支援策の拡充検討に向けた実態調査を実施―

次に、不妊治療に対する支援策の検討についてです。

子どもを産みたいと願う方々の希望を叶え、妊娠・出産を支援する取り組みは、人口減少危機対策の中核です。

不妊治療については、令和4年4月に体外受精などの基本的な治療は全て公的保険の対象となりましたが、本県においては、これまで、不妊治療を受けている方々の経済的負担の軽減を図るため、保険診療と併用ができる先進医療に対しても助成を行って参りました。

そうした中で、先進医療と認められていないため、自由診療となっている検査を受診することで、一連の不妊治療が全て自己負担となってしまう、いわゆる混合診療について、支援を求める声が寄せられました。

こうした声に真摯に耳を傾け、その切なる願いに応えるべく、不妊治療に対する支援の更なる充実・強化策を検討するため、不妊治療実態調査費、88万円を計上し、不妊治療に関する意識と実態を把握するための調査を実施いたします。

 

明野処分場、早期廃止と跡地の有効利用に向け、住民理解へ

―PFOSなどの監視を継続し、安全性を確保―

最後に、明野処分場の在り方について申し上げます。

明野処分場については将来見通しを立てるべく、昨年度、専門家で構成する調査検討委員会を設置し、客観的かつ学術的な根拠に基づき、浸出水の水質予測などを行いました。

その結果、処分場の廃止まで更に10年から15年程度を要すること、仮に浸出水が処理されないまま放流されたとしても生活環境には影響がないことが確認されました。

また、処分場の維持管理には、浸出水の処理などに年間約1億円の経費を要し、これが環境整備事業団の赤字として積み上がり、結果として県民の負担が増え続けています。

これを踏まえ、廃棄物処理法に基づく処分場としてはできる限り早期に廃止することとし、跡地の有効利用が図られるよう、地元住民の理解を求めて参ります。

改めて、最終処分場を受け入れていただいた明野地域の皆様に対する感謝の念は、今も変わらないことを申し上げます。

なお、処分場の基準に定められていないものの、社会問題化しているPFOSなどについては、県が責任ある立場から、国の動向を注視する中で、浸出水の水質管理・周辺生活環境の監視を継続して参ります。

以上の内容をもって編成いたしました結果、一般会計の補正額は、223億円余、既定予算と合わせますと5,338億円余となり、今回の提出案件は、条例案7件、予算案3件、その他の案件5件となっております。

なにとぞ、よろしく御審議の上、御議決あらんことをお願い申し上げます。

最後に、県民の皆様とともに、改めて確認し、共有したい思いがあります。

私たちは今、物価高騰、国際情勢の不安定化、そして未来を見通しにくい「令和の混迷期」を生きています。

こうした時代にあって、私たちが進むべき道を照らす羅針盤は何か。

それは、「誰ひとり取り残さない」という倫理を、もう一度この社会の土台に据えることだと、私は確信しています。

人は皆、それぞれ異なる背景・価値観・生活の形をもち、日々の営みの中で、それぞれの幸せを模索しています。

その多様性こそが社会の豊かさを形づくりますが、それを支えるのは、やはり「共感」であり、支え合いのつながりです。

「共感」とは、単なる感情の共有ではありません。

他者の痛みを自らのこととして感じる力、そしてその思いを形にしようとする意思です。

そして、この「共感」は、自らを犠牲にすることではありません。

他者の立場に寄り添うことで、むしろ自分自身や家族、地域の中で新たな力を得ることができる。

そこには、自らの生きる場所が支えられ、努力や希望が報われる循環が生まれます。

これこそが「共感のかたち」であり、私は、この「共感」が具体的な仕組みとなって社会の中に根づいていくことこそが、本県における施策展開の全ての基礎であるべきだと考えています。

私はこれまで、何よりも現場にこだわってきました。

先日、南アルプスの小さな集落で、子ども食堂の運営に携わる方からお話を伺いました。

困難な状況にある子どもや高齢者・外国人・障害のある方々を分け隔てなく迎え入れ、同じ食卓を囲む中で、地域の中に静かなつながりを育んでいる。

そんな営みが語られていました。

伺った内容の一つひとつが、地域で支え合うことの重み、そして「共感」の力がいかに人をつなぎ直すかを、静かに伝えていました。

人が「自助」を貫けるのは、見えにくいところで寄り添い、共にあろうとする誰かの存在があってこそ。

そのことを、改めて実感しました。

そして、それこそが私たち行政が向き合うべき「構造的課題」なのです。

すなわち、個人や家庭がそれぞれ直面する生活の基盤や環境の現状を、社会全体としてどう受け止め、どう支え合うか。

この構造の全体像を、私は現場の足音をもって確かめることでこそ、新しい視野を得て、未来志向の解決策を導き出せるのだと、強く信じています。

私が知事就任以来取り組んできたのは、受け身であった行政の在り方を、自ら挑戦し、動き、先頭に立っていく行政へと転換することでした。

そして今まさに、格差や困窮、生活不安や逼塞感といった現実に対して、「応える」だけではなく、「どう立ち向かうか」が問われる新しいフェーズに入っていると、私は認識しています。

育児・教育・進学・就労・介護、そして農業・産業・観光振興に至るまで、県内のあらゆる生活局面は、「豊かさ共創」のネットワークの構成要素です。

そしてもし、そこから取り残される人や地域があるとするならば、それを解消することに妥協はありません。

看過されることがあってはならないのです。

私は、山梨県を「共感のネットワーク」が力強く息づく地域にしたいと考えています。

このネットワークは、自然発生的にできるものではありません。

むしろ、行政が先頭に立ち、しかしながら、行政だけではなく志を同じくする全ての者が、意図をもって共感のつながりを紡ぎ、全県に広げていくことで初めて生まれるものです。

そしてそのためにこそ、今、県庁だけでなく、県議会の皆様、各市町村、そしてそれぞれの地域で独自の取り組みを進める民間の皆様とが、同じ地平・同じ目線で連携し、それぞれの知恵と経験を持ち寄っていく必要があります。

この四者が積極的に手を携え、共に「共感のネットワーク」を創出することで、政策の効果に加えて、より大きな「社会の効果」、すなわち、人々の心の変化、つながりの再構築が生まれていくはずです。

このようにして、今本県では、「共感の共創」という新しい段階が始まりつつあります。

山梨は、ひとつのチームです。

困っている人に気づき、支えが必要な人の声を拾い、挑戦する人の背中を押す。

そのために、行政は常に、最前線に立たなければなりません。

「山梨で生きてよかった。」

そう思っていただける県政を、県民の皆様と、そしてこの議会の皆様とともに、必ず実現いたします。

 

令和7年6月12日

                 山梨県知事 長 崎 幸太郎

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