トップ > 県政情報・統計 > 知事 > 開の国やまなし こんにちは。知事の長崎です。 > 施政方針 > 令和7年9月県議会知事説明要旨
ページID:122729更新日:2025年9月24日
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令和7年9月定例県議会の開会に当たり、提出案件の背景にある政策の基本的な考え方を中心に、県政運営に関する私の所信を申し述べ、併せて案件の概要を御説明し、議員各位、そして県民の皆様の御理解と御協力をお願い申し上げたいと存じます。
―ふるさと強靱化を土台に、開の国づくりと相互補完で、県民が豊かさを実感できる山梨を実現―
「県民一人ひとりが豊かさを実感できる山梨の実現」。
これは、今回提出致しました案件も含め、私が山梨県知事として司る全ての県政運営の究極の目標であります。
この目標を成し遂げるため、私たちは二つの大きな柱を立てて歩みを進めて参りました。
すなわち、県民の暮らしをあらゆる外的衝撃から守り抜く「ふるさと強靱化」と、交流を広げ新たな可能性を拓く「開の国づくり」であります。
この二つの柱は、互いに補い合いながら、山梨を外からの風に強く、同時に外へと開かれた「豊かさの循環拠点」へと押し上げていきます。
その相互補完を支える根幹として、「ふるさと強靱化」が確かな土台となってこそ、「開の国づくり」はその真価を発揮します。
―全国に先駆けて持続可能な所得向上モデルを示し、日本の成長を足元から支える―
そこで先ず、その基盤を成す第一の柱「ふるさと強靱化」について申し上げます。
「ふるさと強靱化」とは、自然災害や感染症、世界的な経済変動、更には病気や家族の介護など、県民一人ひとりを取り巻く外的ショックや人生の変化があっても、豊かさを追求する歩みが決して揺らがない山梨を築く取り組みです。
そして、その中で「県民生活の強靱化」は、まさにその中核に位置付けられるものであります。
私たちは、病気や家族の介護など人生の様々な変化や外的ショックに直面しても、県民一人ひとりが豊かさを追求し続けられる社会環境の構築を目指し、短期的な支援と中長期的な基盤づくりを重層的に積み上げて参りました。
具体的には、初期救急医療センターの設置や認知症対策などによる持続可能な医療体制の整備、介護待機ゼロを目指す特別養護老人ホームの整備支援や外国人材活用による介護人材の確保、2025年の団塊世代の後期高齢化を見据えた総合的ケアラー支援による「介護離職ゼロ」体制の構築など、県民生活を支える施策を着実に推進して参りました。
これらの取り組みにより、日々の安心と将来への希望が両立する社会環境を着実に築き上げつつあると確信しております。
しかしながら、こうした取り組みを進める中で、昨今の物価高は県民生活に対する重大な脅威として私たちの前に立ちはだかっています。
日々の食卓を支える食料品、暮らしや生産活動を支える燃料・電力など、生活の基盤にかかわる幅広い分野で価格上昇が続き、家計や事業活動に深刻な影響を及ぼしています。
したがって、県民生活を強靱化するためには、この物価高への対応が極めて重要な課題です。
これを看過すれば、県民が豊かさを追求する歩みが損なわれかねません。
この認識の下、県は昨年来、物価高への緊急対策と併せて、産業の生産性を高め地域経済の体質を強化する施策を積み重ねて参りました。
具体的には、生活困窮世帯を対象に、厳冬期の灯油券緊急配付や小中高生への緊急食料支援、価格高騰を吸収できる低コスト経営体質への転換支援として、省エネ・再エネ設備導入や畜産業の自給飼料増産支援、家計を下支えする賃金・所得向上策として、生産性向上投資、人材育成、DX導入への支援など、短期的な下支えと中長期的な基盤づくりを重層的に展開してきました。
しかし、物価高はなお加速し、県民生活全般に深く広く影響を及ぼしています。
もはや短期的対応の繰り返しや従来水準の生産性向上の努力だけでは十分とは言えません。
県民一人ひとりの所得そのものを押し上げ、生活基盤を力強く底上げする。
今こそ、こうした県民生活全般への抜本的かつ構造的な対応が不可欠です。
その核心となるのが、県民の暮らしを守り、山梨の未来を切り拓く最も確かな道、すなわち「県民所得の着実な向上」であります。
なお、この際、改めて申し上げます。
県民生活を守るには、目先の減税や給付だけでは根本的な解決にはなりません。
なぜなら、高齢者人口が高止まりし、生産年齢人口が急減する中では、医療や介護など社会保障を維持するために、税や社会保険料を通じた勤労世代の負担増、すなわち増税や保険料の引き上げが避けられないからであります。
逆に、増税や保険料引き上げを避ければ、社会保障サービスの削減は避けられません。
その結果、家族が直接介護を担わざるを得ず、勤労世代の介護離職を招きかねません。
これは、税や保険料の負担増を上回る世帯所得の減少につながります。
こうした構造的な課題に真正面から立ち向かうためには、県民所得そのものを底上げし、生活の土台を強くすることが唯一の道であります。
ここで改めて、私たちは日本全体の現実を直視しなければなりません。
我が国は全体として、この30年余り賃金水準がほとんど伸びていないとの見方が広く共有されています。
その結果、一人当たり名目GDPなど国際的な主要指標では、韓国や台湾が日本を追い抜く、あるいは既に追い抜いたとする報告もあります。
豊かさは、一時的な減税や給付だけで生み出されるものではありません。
所得そのものを力強く引き上げる不断の努力こそが不可欠です。
まさに今こそ、経営も、働く人も、行政も、世代を越えて奮起し、もう一度豊かな日本を取り戻すときであります。
そして、その先頭に立つのは、山梨であります。
私たちは全国に先駆け、着実な具体策の積み重ねの下、持続的な所得向上のモデルを示し、日本全体の成長を足元から牽引する役割を担います。
山梨が自ら挑戦し、豊かさを創り出す主役となる。
山梨こそがその挑戦を具体的な成果に変え、国全体の再生を牽引して参ります。
―賃金水準、生産性、労働参加率の向上を三位一体で進め、物価上昇等に揺るがない生活基盤を築く―
県民所得の向上は、単なる統計の数字ではありません。
それは、家計の実質購買力を守り、地域経済を持続的に成長させ、次の世代が安心して暮らせる社会を築くための、最も確かな成長戦略であります。
そして、それは、一つの手立てで成し遂げられるものではありません。
必要なのは、「賃金水準の引き上げ」、「生産性の向上」、そして「労働参加率の向上」です。
この三つが互いにかみ合い、力を合わせて動くとき、はじめて物価上昇や社会保障負担の増大といった大きな波にも揺るがない確かな生活基盤を築くことができます。
私たちは、先ず働く人の努力が確実に「賃金水準」の向上として報われることを目指し、次にその力をより大きな成果へつなげるために「生産性」を高め、そしてその成果を分かち合う人の輪を広げるために「労働参加率」を高める。
この三本柱を同時に進めることで、県民所得の着実な向上を実現して参ります。
第一に、賃金水準の着実な引き上げです。
物価が上昇する中で生活水準を守り、更に高めるには、給料そのものを底上げすることが不可欠です。
今、国政では、物価高騰対策として減税が議論されていますが、物価上昇が続く中では減税だけで長期的に実質購買力を守ることはできません。
例えば、減税により手取りが一時増えても、その後に食卓を支える食料、冬を乗り切る暖房、子どもの教育費など、削れない支出が値上がりすれば、家計の実質的な余裕は縮みます。
だからこそ、持続的な賃金引き上げこそが実質的な生活の豊かさを守る第一の要なのです。
第二に、生産性の向上です。
企業や働く人が生み出す付加価値を高めることこそ、持続的な賃上げを支える基盤です。
デジタル化、イノベーション、人材育成を通じて一人当たりの生産性を高め、企業の収益力を強化する。
その結果、質の高い雇用が生まれ、働く人の所得を押し上げる力が育まれます。
賃金水準の引き上げを持続可能にするためにも、生産性向上は不可欠であります。
第三に、労働参加率の向上です。
若者や女性、高齢者をはじめ、働きたい人が力を発揮できる環境を整えること。
これにより、生産年齢人口の減少を補い、県全体の稼ぐ力を底上げします。
それは単に労働力を補うにとどまらず、県民一人ひとりの人生の選択肢を広げ、所得向上の裾野を広げる取り組みでもあります。
以上の三要素を三位一体で推し進め、県民一人ひとりの力を束ね、産業界・地域社会・行政が一体となって、山梨の未来を切り拓いて参ります。
―物価高騰に対応し、スキル・収益・賃金の好循環で県民所得を着実に押し上げる「スリーアップ」を推進―
物価高騰が続き、家計の負担が日々重くなる今、県民一人ひとりの暮らしを直接守るために最も重要なのは、何よりも賃金の引き上げであることは論を待ちません。
私はここに断固として宣言します。
賃金アップこそ、県民生活強靱化の一丁目一番地であります。
全力を尽くします。
本県はこれまで、賃金水準の引き上げに向け「スリーアップ」、すなわち、従業員のスキルアップ、企業の収益アップ、そして賃金アップを一体で進める取り組みを積み重ねて参りました。
スキルが上がれば生産性が高まり、企業の収益が伸びる。
その成果が働く人の賃金として公正に還元される。
この確かな循環こそが、県民所得を着実に押し上げ、消費・投資・税収の好循環を力強く生み出します。
―企業の健全な経営と働く人の意欲が調和する仕組みを通じて、地域経済の持続的成長を支える―
私は、この積み重ねこそが「頑張れば報われる」という私たちの社会の基本的なお約束を守る道であると確信しています。
「努力が正しく評価され、成果が確実に生活に返ってくる」。
その当たり前の仕組みを、ここ山梨で確立していきます。
賃金は、企業にとって単なるコストではありません。
優れた人材を惹きつけ、育て、企業の競争力と持続的な成長を支える最も基本的な投資です。
そして働く人々にとっては、自らの努力と誇りを正しく映し出す大切な評価の指標でもあります。
企業の健全な経営と、働く人々の意欲ある挑戦。
この両者が調和してこそ、「頑張れば報われる」という社会の基本的約束は守られます。
そして、その約束を守り抜くことが、人々の挑戦する力を引き出し、地域経済をより強く、より持続的に成長させる原動力となります。
―データに基づく議論で、「頑張れば報われる」社会の基盤を整える―
「頑張れば報われる」という約束を山梨の全ての職場で確かなものにするため、最低賃金の在り方は極めて重要です。
最低賃金は、単に一部の低賃金労働者を守る下限ではありません。
それは地域経済と県民の暮らしの強さを示す大切な指標であります。
最低賃金の引き上げは、賃金全体を底から押し上げる力、いわば「給料を動かす最初の歯車」となります。
この歯車が回れば、企業は新たな雇用や昇給の際に給料を引き上げざるを得ず、多くの働く人の賃金が自然に底上げされます。
同時に、最低賃金は、初めて働く人やパート・アルバイトの賃金を決める出発点です。
ここが上がれば、職場全体の給料の基準が押し上げられ、幅広い世代の暮らしを支える力が強まります。
つまり、最低賃金は地域で安心して働き暮らせる土台そのものなのです。
こうした観点から、最低賃金水準の地域間格差は、私たちの地域に深刻な影響を及ぼしかねない重大な課題です。
隣県より水準が低ければ、同じ仕事でも収入に差が生じ、若者や子育て世代の流出を招きます。
人材が定着せず、企業は必要な人材を確保できなくなり、産業や地域経済の活力が失われます。
更に、残った人々の購買力も抑え込まれ、地元商店やサービス業の売上は伸び悩みます。
消費の減退は投資や雇用の好循環を阻み、企業の収益力と成長余力を削ぎ、地域経済全体の停滞を招きます。
この状況が続けば、自治体財政の負担も重くなり、「賃金が低い地域」という印象が固定化します。
その結果、新たな企業立地や移住希望者を遠ざけ、将来世代が「ここで暮らしたい」と思える環境を守ることが困難になります。
だからこそ、最低賃金水準の地域間格差は、単なる賃金政策の課題にとどまらず、地域の持続的成長と人口定着を左右する戦略的課題です。
その是正に向けて、私たちは断固として取り組まねばなりません。
最低賃金は地方労働局の審議会で決定されますが、倒産と賃上げを安易に結びつけるなどの抽象的議論が目立ち、私は強い懸念を抱いております。
最低賃金の水準決定には、業種・規模別の企業利益・収益力、雇用・失業などの労働指標、原因別倒産件数・倒産率、企業の内部留保など、属性別に整理された客観的で重要度の高いデータに基づく検証が不可欠です。
こうしたデータは、労働者と使用者が合理的に議論する土俵を提供し、双方の納得を得やすくするとともに、より高い最低賃金を目指す行政が有効な施策を講じる確かな根拠となります。
このような考えの下、私は9月12日、総理大臣官邸を訪れ、最低賃金の決定プロセスを抽象論から科学的・実践的なデータ議論へ高めることが政府の説明責任であると強く要請しました。
更に、9月19日には山梨労働局長と会い、64円引き上げの根拠を確認するとともに、データ重視とより高い賃金水準を目指す課題意識で完全に一致し、今後は連携・協力を強化することで明確に合意しました。
この合意を踏まえ、私は労働局との協力体制を一層深め、データに基づく透明で合理的な決定プロセスの確立と本県賃金水準の着実な引き上げに全力を尽くして参ります。
―スリーアップの好循環と賃上げ環境の整備 賃金水準を底上げする体制をオール山梨で築く―
もっとも、最低賃金を引き上げ続けるためには、その原資を生み出す力を企業が持つことが前提となります。
したがって、最低賃金の着実な引き上げを実現し、更に賃金全体を持続的に底上げするためには、企業の生産性向上が不可欠です。
企業が安定して付加価値を生み出す道筋を確立することこそ、県民の暮らしを守り、地域経済を力強く発展させる最大の課題であります。
ここで先ず申し上げたいのは、賃金引き上げの負担を企業だけに委ねることは決してしないという点です。
必要な設備投資や人材育成、生産性向上に充てる資金が過度に圧迫されれば、質の高い雇用の拡大が妨げられ、働く人がより高い賃金とやりがいを得る機会が失われかねないからです。
このため県は、企業が自ら賃上げの原資を生み出す力を高めること、すなわち生産性を向上させることを、賃上げの負担を企業だけに委ねない中核的方策と位置付けます。
この考え方の下、次の二つに重点を置きます。
第一に、スリーアップの好循環を加速すること。
スキルアップ、収益アップ、賃金アップの流れを力強く後押しするため、キャリアアップ・ユニバーシティの充実を図るとともに、本年度創設した「スリーアップ実践企業認証」を広く普及させ、企業努力を社会全体で支えます。
第二に、企業が生産性向上を通じて持続的に賃上げを実現できる環境整備です。
具体的には、適正な価格転嫁の促進や内部留保の計画的活用により、無理な追加負担に頼らず持続的に賃金原資を確保できるよう支援します。
また、生産性向上のための設備投資やDX導入の支援を充実・強化するとともに、成果が現れるまでの間は制度融資で挑戦を下支えします。
これらの取り組みにより、県・企業・働き手が賃金引き上げの責任を分かち合い、オール山梨で賃金水準を底上げする体制を築いて参ります。
本補正予算では、企業の生産性向上を支援するため総額24億円余を計上しました。
設備整備では、一定の賃上げを行った中小企業の生産性向上や職場環境改善を支援する賃金アップ環境改善事業費補助金、経営コスト削減による賃金原資確保を支援する省エネ・再エネ設備導入支援補助金をそれぞれ大幅に拡充します。
更に、申請サポート費用を補助対象に加え、より多くの事業者が活用できる体制を整えます。
なお、こうした申請サポートは、労働局からのアドバイスも頂いていることから、これらの補助制度に限らず、その他の生産性向上の支援などにも適用できるよう、今後検討して参ります。
DX導入では、「何から始めればよいか分からない」、「自社には関係ない」と感じる中小企業も少なくないため、課題整理から導入まで一気通貫の支援をプッシュ型で展開し、DXへの第一歩を後押しします。
経営指導では、商工会の経営指導員による取り組みの強化に加え、中小企業診断士などの専門家の派遣により、経営改善や生産性向上を直接支援します。
更に、支援の成果が現れるまでの間も、制度融資によって資金繰りをしっかり下支えして参ります。
―生活・就労・介護・住まいの支援を一体的に推進し、希望する働き方を選べる社会へ―
県民所得を持続的に引き上げるには、労働参加率の向上が不可欠です。
働く人の裾野が広がり、地域全体の生産力と家計所得の総量が増えることで、経済の持続的成長と県民一人ひとりの生活水準の底上げにつながるからであります。
そのためには、若者や女性、高齢者をはじめ、働く意欲を持ちながら育児や介護、健康上の理由などから十分に就労機会を得られていない方々が、その力を発揮できる環境を整えることが求められます。
本県は、こうした基盤づくりを更に進めるため、生活の安定と就労機会の確保を一体的に推進する「誰も取り残さない生活・就労支援」を展開し、労働参加率の着実な向上を図って参ります。
本補正予算では、生活保護受給者等の特性に応じた就労の場を創出する事業費として約300万円を計上し、就労支援コーディネーター配置の準備に着手します。
障害や疾病により安定就労が難しい方が自立するには、本人の特性や希望に沿った仕事を見つけ、多様な働き方を認める職場環境づくりが不可欠です。
本県はこれまで、農福連携や産福連携を通じ、専門コーディネーターが受け入れ事業所を開拓し、障害者の工賃を大きく向上させてきました。
この成果を生かし、障害や疾病の特性を持つ生活保護受給者などが柔軟に働ける新たな支援を本格化します。
先ず、県庁内に就労支援コーディネーターを配置し、受け入れ先の開拓と就労仲介を進めるとともに、現状と課題を整理し受け入れ条件を検討する会議を設置します。
本年度はこれらの準備を着実に進め、来年度から本格的な支援を開始します。
介護離職のリスクに直面するケアラーが抱える困難は、本人や家族だけの問題ではなく、社会全体で支えるべき構造的課題です。
本県は「介護離職ゼロ社会」の実現に向け、「気づく」「つなぐ」「支える」の三視点に整理したケアラー支援推進パッケージに基づき、社会の仕組みづくりを着実に進めてきました。
具体的には、土日・祝日専用の電話相談窓口の新設や、悩みや思いを語るきっかけとなるポッドキャスト番組の配信など、支援の入口を広げてきました。
更に本補正予算では、仕事と介護を両立するビジネスケアラーが家族ケアの調整役を担えるよう、ワークサポートケアマネジャーの養成事業費として80万円を計上しました。
今後は、これらの担い手を活用し、民間事業者などと意見を交わしながら、県内全域で伴走支援体制を構築する制度設計を進め、支援の網を一層広げて参ります。
単身世帯の増加や持ち家率の低下により賃貸住宅のニーズが高まる一方、保証人がいない、収入が少ないなどの理由で家賃保証を受けられず入居を断られる生活困窮者が増えています。
この課題に対応するため、「山梨県営住宅設置及び管理条例」を改正し、こうした方々が連帯保証人や保証業者との契約がなくても入居できるよう条件を緩和することとします。
更に、居住支援法人と連携し、行政と民間が一体となって住まいの確保を支援します。
「安定した住まい」は就労意欲や通勤環境の確保など労働参加の前提であり、住宅支援の充実は高齢者や子育て世帯を含む多様な人々が安心して働き続けられる基盤づくりです。
したがって、これを、県民所得を持続的に引き上げる労働参加率向上策の一環として位置付け、着実に推進して参ります。
これらの取り組みにより、県民一人ひとりが希望する働き方を選び、安心して暮らしを築ける社会を実現し、県全体の稼ぐ力を着実に高めて参ります。
―「学びと挑戦が報われ、暮らしと成長が両立する山梨」の実現へ 県民一人ひとりの稼ぐ力を底上げ―
こうした足元の支援と並行して、更に将来を見据えた中長期的な人材戦略を着実に推進する必要があります。
山梨が将来にわたり県民所得を着実に引き上げ、生活水準を守り高めていくには、高齢化社会の下での生産年齢人口の減少という構造的課題に真正面から挑み、一人ひとりの稼ぐ力を底上げすることが不可欠です。
この課題に応える中長期的な県民所得向上の中核戦略として、私は「公教育の充実・強化」、「教育・学びの機会の多様化」、「技術系人材の計画的育成」、「国際交流によるグローバル人材育成」の四本柱を一体的に推進して参ります。
これらは相互に補い合い、山梨の稼ぐ力を強化し、労働参加率の向上、生産性の飛躍、賃金水準の着実な上昇へと結実させます。
はじめに、第一の柱「公教育の充実・強化」についてです。
全ての子どもが確かな基礎学力と社会で活躍する力を備えることは、将来の労働力の質を高め、長期的な所得水準を支える基盤となります。
先ず、少人数学級の拡充です。
全国に類を見ない取り組みとして進めてきた25人学級は、来年度には小学校6年生まで広がり、全学年での導入が完成します。
今後は、この整った教育環境を最大限に生かし、教科横断・文理融合の「探究的学び」を充実させ、子どもたちの主体的に学ぶ力を一層伸ばして参ります。併せて、中学校における少人数教育の在り方も総合的に検討します。
次に、県立高校の魅力化です。
県立高校が長年培ってきた地域との信頼を基盤に、民間企業等と連携したインターンシップや職場体験など実践的なキャリア教育を強化します。
これにより、生徒の職業観や専門的技能を醸成し、将来の就業力と収入向上につながる実践力を育みます。
また、小中学校で進めてきた文理融合的かつ探究的な学びを高校段階で発展させ、科学的考察力と論理的発信力などを磨く探究学習を推進し、課題解決に挑む人材を育てます。
更に、県立高校同士や小中学校、国公立大学とのネットワークを活用し、学科や校種を越えた連携と交流を広げることで、教材や専門知識、人材を共有し、多様な視点や学びを取り込み、教育内容を一層充実させて参ります。
第二に「教育・学びの機会の多様化」であります。
人生百年時代にあって、生涯にわたり学び直しや再挑戦が可能な環境を整えることは、働く人の選択肢を広げ、労働参加率の向上と安定した所得形成に直結します。
本県では、夜間中学や学びの多様化学校を設置し、不登校の児童・生徒や学び直しを望む方が自らのペースで学びを再開できる環境を整えて参ります。
また、費用負担を理由にフリースクール利用をためらうことのないよう、本年度から非課税世帯への補助を開始しました。
今後は利用者の声を丁寧に伺い、課題を検証し、次年度以降の事業改善と充実へ確実につなげて参ります。
第三に、「技術系人材」を計画的に育成して参ります。
先端技術を担う人材を育てることは、産業の付加価値を高め、生産性を押し上げ、賃金と県民所得を持続的に引き上げる原動力であります。
先ず、「地域内発型DX」の実現に向け、大学生が中高生を指導し、中小企業のデジタル課題の解決にも取り組むDX人材育成エコシステムを形成してきました。
これまでに78名を山梨DXリーダーズとして認定しており、今後もこの仕組みを生かし、デジタル分野を担う人材を着実に育成して参ります。
次に、山梨大学との連携により、医療機器や水素・燃料電池分野で技術者養成講座を開講し、400名を超える修了生が成長産業の第一線で活躍しています。
今後も高度な専門知識と技能を備えた人材を継続的に育成して参ります。
更に、甲府工業高校専攻科では、県内企業と連携して長期インターンシップや先端機器を活用した課題研究を進め、企画力と設計力を備えたリーダー的技術者を育成しています。
また、産業技術短期大学校では、企業の課題解決に挑む学生プロジェクトやキャリアアップ・ユニバーシティと連携したIoT講座を実施し、即戦力として活躍できる専門人材を養成しています。
これらの取り組みにより、デジタルから最先端の製造分野まで、山梨の産業を支える技術系人材を幅広く計画的に育成して参ります。
加えて、本県における技術系人材育成機関の在り方を検討するため、県内企業、経済界、教育関係者、外部有識者による検討委員会を設置し、約一年間にわたり議論を重ねてきました。
その結果、委員会からは、AIやデータサイエンスなど先端技術を活用し、地域課題の解決に挑む創造力と実践力を備えた次世代人材の育成が不可欠であるとの提言が示され、「山梨県に高専、または高専以上の効果をもたらす新たな教育機関を設置すべき」との方向性が示されました。
私はこの報告を真摯に受け止め、AIやデータサイエンスを自在に操る高度技術人材の育成を本県の将来を左右する重要課題と位置付け、教育効果を最大限に引き出す観点から、高専等の新たな技術系教育機関の設置を含め、今後の方向性をしっかりと定めて参ります。
第四に、国際交流を通じてグローバルに活躍する人材を育成して参ります。
国際的な経験と広い視野を備えた人材は、新たな市場や付加価値を生み出し、県民所得を世界と結びつけて拡大する力となります。
先ず、富士五湖自然首都圏フォーラムの取り組みです。
10月には富士カリフォルニアリーダーズサミットを開催し、ロサンゼルスで活動するジャズバンドと富士北麓の地元学生との共演など、音楽を通じた交流を行います。
更に、アート分野では、社会課題をテーマに世界中の学生から作品を募り、優秀な制作者を「アート・アンバサダー」として11月にカリフォルニア州へ派遣し、現地アーティストとの交流を実施します。
これらの取り組みを通じて、創造力と実践的な国際感覚を備えた若い世代を着実に育てて参ります。
次に、姉妹都市2.0による青少年交流と留学生・技術者交流の推進です。
本年8月には、本県中学生32名を韓国・忠清北道に派遣し、現地中学生と寝食を共にしながら文化体験やスポーツ活動を行うとともに、本県出身で日韓交流に貢献した浅川巧氏の墓参を共に行い、相互理解を深めました。
10月には、ベトナム・クアンチ省から高校生10名を受け入れ、学校訪問や史跡巡りを通じて交流を深め、本県青少年の世界に開かれた視野を育てます。
また、水素分野では山梨大学や民間企業が連携し、インド工科大学やミナスジェライス連邦大学など海外の大学と協力して、世界標準を目指す水素技術の人材育成プログラムを推進します。
更に、国際保育と共同生活体験を通じた青少年の国際相互理解交流の拡大にも取り組みます。
保育士向けの多文化理解研修や外国籍の子ども・保護者への通訳・翻訳支援を進め、多文化共生の環境を整えます。
また、本県では、国際交流団体CISV(Children’s International Summer Villages)の協力を得て、中学生16名を、異文化間における理解・協調・問題解決を世界10箇国から集まった40名の仲間とともに主体的に学ぶ国際教育プログラムへ派遣しました。
参加した子どもたちは、様々な体験を共有する時間を通じて、対話と協働を重ねながら相互理解を深めました。
更に、県は、教員2名を同プログラムに派遣し、その教育ノウハウを学校現場へ還元する取り組みを進めています。
外国籍の児童・生徒が増加する中、こうした経験と知見を教育現場に生かし、子どもたちが互いの違いを尊重し、共に学び合う環境を一層広げて参ります。
以上、申し上げました「公教育の充実・強化」、「教育・学びの機会の多様化」、「技術系人材の計画的育成」、「国際交流によるグローバル人材育成」の四本柱の実行を通じて、山梨は一人ひとりが学び、挑戦し、世界とつながることで稼ぐ力を高め、持続的に県民所得を引き上げていくという道を切り拓いて参ります。
教育を基盤に、技術と国際力を備えた人材が次々と育ち、地域の企業と世界の産業がつながり合う。
その先に描くのは、子どもたちが夢を持って暮らし続け、若者が誇りを持って働き、世代を超えて豊かさを実感できる山梨の未来であります。
未来への最大の投資は、人への投資。
この確信の下、県民一人ひとりの可能性を最大限に引き出し、「学びと挑戦が報われる山梨」、「暮らしと成長が両立する山梨」を、皆様とともに築き上げて参ります。
―産業・農業・観光の成長基盤を強化 育てた人材が力を発揮できる舞台をつくる―
しかしながら、人材を育てるだけでは、県民所得の着実な向上は成し得ません。
育てた人材が力を発揮し、一人ひとりの稼ぐ力を持続的に高めるには、同時に産業の厚みを増し、成長の基盤を広げることが不可欠です。
この産業戦略は、単なる景気対策ではありません。
10年単位で県民所得を底上げする経済構造を育てる中長期の政策であり、人材戦略と並ぶ山梨の未来を切り拓くもう一つの成長の車輪です。
私は、これから申し上げる道筋を、着実に前へ進めて参ります。
先ず、安定した成長力を備えた産業基盤の確立に取り組みます。
具体的には、医療機器分野、航空・宇宙・防衛分野、そしてグリーン水素分野という三つの重点分野を核に据えます。
医療機器分野では、部材供給からOEMなど高付加価値の受注獲得を目指して支援を重ねた結果、県内企業に新工場建設などの受注増への対応が進んでいます。
今後は世界最大の米国市場も視野に、更なる飛躍を図ります。
航空・宇宙・防衛分野では、官民ともに需要の拡大が見込まれる中、昨年度から県内企業の参入を促進してきました。
既に優れた技術力を持つ県内企業と県外メーカーとの成約事例が生まれ、この分野の成長を県経済に取り込む手応えを得ています。
そして何より、本県の成長戦略の核となるのがグリーン水素です。
令和4年に、YHC、やまなしハイドロジェンカンパニーを設立し、最先端の人材と知見を結集してきた結果、昨年度には関連事業の売上が対前年度比12倍となるなど、成長産業の基盤づくりに大きな貢献を果たし得る存在になってきているところです。
来月には、サントリー白州工場に米倉山の約10倍の製造能力を持つ国内最大級のグリーン水素製造拠点が誕生します。
YHCはこうした施設を活用し、トップランナーとして更なる成長を目指します。
加えて、カナデビア株式会社がP2Gシステムの中核となる水電解装置の開発・製造拠点を本県に立地することは、山梨を水素先進地として一段と押し上げる大きな契機です。
装置の量産に伴い、発注を県内企業へ広げ、水素ビジネスの拡大と受注機会の拡充を図って参ります。
次に、グリーン水素を核に世界の知と投資を呼び込む国際産業クラスターを形成します。
世界的なエネルギー転換の潮流を確実に捉え、研究・製造・輸出を担う高付加価値産業を山梨に集積する構想です。
この取り組みの中で、インド・ウッタル・プラデーシュ州とブラジル・ミナスジェライス州の州幹部が米倉山の研究施設を視察し、世界最先端の事例として高く評価しました。
両州からは人的・技術的交流について強い要請があり、山梨大学や県内企業がインド工科大学、ミナスジェライス連邦大学と連携する産学官プログラムを組成します。
こうした国際的な人材・技術交流を通じて実践力を磨き、主要な水素市場をリードする人材を継続的に輩出し、世界標準の形成を主導する地域としての国際的プレゼンスを確立して参ります。
更に、来春には国際水素サミットを開催し、世界中の叡智を山梨に結集してグリーン水素の理念と技術を国際社会に発信し、持続可能な未来に向けた国際連携を進める歴史的な機会とします。
これら一連の取り組みにより、グリーン水素を核とする国際産業クラスターを形成し、世界の知と投資を呼び込み、県民所得を直接押し上げる強力な成長エンジンを築いて参ります。
本県の主力産業の一つである農業に関しては、果樹王国としての強みを生かし、生産から流通・輸出まで付加価値を飛躍的に高める農業へ転換して参ります。
本県の農業は今、大きな成果を挙げています。
令和6年の農業生産額は1239億円と、好調だった前年を更に上回り、33年ぶりに1200億円を突破しました。
特に果実の生産額は769億円、輸出額は23億6900万円と、いずれも過去最高を更新しています。
これらは着実な成果でありますが、ここにとどまらず、更なる飛躍に向け取り組みを一段と進めます。
先ず、県とJAが連携して営農指導体制を強化します。
全国に先駆け、インターネットを活用して必要な情報を共有・相談できる営農指導システムを整備するとともに、農業事業者や団体のマーケティング力向上を支援します。
そのための予算として、やまなし営農指導力・販売力強化事業費、300万円余を計上しました。
次に、輸出戦略を一段と強化します。
既に輸出を行っている国・地域に加え、新たに注目するベトナムでは、輸出解禁に先立ってSNSを活用した先行的なプロモーションを展開し、早期から「やまなしブランド」のイメージを強く印象づけます。
これらの先進的な取り組みに加え、生産・流通・販売を三位一体で高度化し、農業を輸出型・高収益型の産業へと育てます。
このような取り組みを通じて、農業に携わる方々の所得の持続的増加を目指して参ります。
第三に、観光の高付加価値化を進めて参ります。
先ず、富士五湖自然首都圏フォーラムを核とした国際会議等の受け入れ環境の整備です。
国際イベント開催を契機に、今後更に多くの国際会議や交流の場が生まれることが期待され、その受け入れ体制の強化が急務となっています。
このため、フォーラムの理念に共感いただいた企業からの寄附金を活用し、関連施設の機能強化を支援します。
そのための予算として、富士五湖自然首都圏フォーラムMICE受入環境整備費補助金、6500万円を計上しました。
今後も国際交流を積極的に進め、民間の支援を得ながら、富士五湖地域をスイス・ダボスのように世界の知と人が集う場へと発展させます。
次に、フラッグシップ道の駅など地域資源の磨き上げです。
本県には、豊かな自然が育んだ農林水産物や歴史・文化など世界に誇る高品質な地域資源が数多くありますが、その魅力はまだ十分に知られていません。
現在進行中のフラッグシップ道の駅プロジェクトでは、第一弾として南山梨エリアで地域資源の発掘を進め、本年度は周遊促進と消費拡大を図るための特設ウェブサイトの充実やランドオペレーターの育成・配置に取り組んでいます。
更に、第二弾として東部エリアを対象に、富士北麓への通過点という特性や首都圏に近い利点を生かし、気軽に立ち寄れる「サードプレイス」として、機能強化とともにブランディングを進めます。
併せて、今後に向けて、これらそれぞれの取り組みの深掘りや周辺地域との連携についても検討を進めます。
このような取り組みを通じて、地域資源を面的に磨き上げ、「やまなしブランド」の価値を一層高め、観光を稼ぐ力のある成長産業へと押し上げて参ります。
―未来への成長エンジンとして、地域経済の生産性と付加価値を高める―
人材育成を着実な所得向上へと転化させるには、人が能力を発揮できる産業の舞台と、その産業を支える成長の基盤を同時に整えることが重要です。
とりわけ交通インフラの整備は、企業活動や観光、物流を活性化し、地域経済の生産性と付加価値を高めることで、県民所得を持続的に押し上げる力となる、中長期の成長戦略です。
そこで、次に交通インフラの強化について申し上げます。
先ず、本県の骨格となる道路交通ネットワークの整備については、現状において順調に進んでおります。
甲府都市圏の交通円滑化と周辺地域の連携を強化する新山梨環状道路、甲府盆地と富士北麓地域を結ぶ国道137号の新たな御坂トンネル、リニア駅に隣接する中央自動車道甲府中央スマートインターチェンジ(仮称)などの整備が進むことで、県内各地の移動は大きく改善されるものであり、今後も着実に進めて参ります。
これらは単なる生活環境の向上にとどまらず、観光客の周遊促進や物流の効率化など幅広い効果を生み、リニア中央新幹線開業の恩恵を県内全域に波及させる基盤となります。
令和3年8月には中部横断自動車道の山梨・静岡間が全線開通し、清水港や富士山静岡空港までの所要時間が大幅に短縮され、国内外とのアクセスが飛躍的に向上しました。
更に、長坂・八千穂間の整備が進めば長野県との新たな交流ルートが開け、一層の経済効果が見込まれます。
このため、中部横断自動車道長坂以北の早期整備に向け、国に対して強く働きかけて参ります。
併せて、リニア中央新幹線の開業効果を最大限に生かすため、富士トラムの導入と二次交通の高度化を進めます。
リニアの開業は、首都圏や中京圏との時間距離を劇的に縮め、企業立地や観光消費を促し、地域経済の付加価値を高めることで県民所得を押し上げる強力な推進力となります。
リニアの開業効果を十分に発揮するには、リニア山梨県駅において利便性の向上、利用者数の増加、停車本数の増加という好循環を生み出すことが重要です。
その鍵となるのが富士トラムです。
リニア中央新幹線の開業を見据え、山梨県駅と富士山を直接結び、山梨県駅を富士山観光の玄関口として位置付けることで、多くの来訪者を呼び込み、その利用増を梃として停車本数の増加につなげて参ります。
本年度は、麓から富士スバルライン五合目までを結ぶ基本計画の策定を着実に進めているところです。
一方、県内の二次交通は、人口減少や高齢化による利用者減や運転手不足から交通空白地が広がり、通院や買い物、観光など日常・経済活動に深刻な影響を及ぼしています。
夜間の移動手段も限られ、地域経済と県民生活の双方に課題が山積しています。
この現実を打開するため、私は富士トラムを核とした二次交通の新たな基幹路線の構築を目指します。
リニア開業を契機に山梨県駅をハブとし、富士トラムを県内各拠点へ順次延伸する方向で検討を進めるとともに、拠点から先のラストワンマイルには、自動運転タクシーや公共ライドシェアなど新しい移動手段の活用も視野に、県内全域をシームレスにつなぐ交通ネットワークの具体像を描いて参ります。
この政策パッケージを着実に具体化するため、富士山や県内各地を結ぶ「富士トラムネットワーク構想」の検討を進めるとともに、市町村と連携して公共交通網再編研究会を設け、二次交通の高度化に欠かせない人流データの取得・分析や課題整理を進めております。
関連する道路交通ネットワークの整備とも連動させ、これらを総合的に推し進めることにより、リニア開業の効果を山梨全域へ波及させ、世界に誇る富士山へのアクセスを飛躍的に向上させるとともに、県民と観光客双方に真の利便性をもたらす地域内交通の充実を実現して参ります。
更に、JR中央東線の定時性確保に取り組みます。
中央東線は本県と首都圏を結ぶ唯一の鉄道路線であり、その安定運行は東京圏への通勤・通学圏として本県のポテンシャルを最大限に引き出す鍵です。
首都圏との確実で快適な往来は、働く場と住む場の選択肢を広げ、就業機会やビジネス交流を拡大し、県民所得を着実に押し上げる直接的な基盤ともなります。
東京都内では人身事故による遅延が課題となっていることから、中央東線高速化促進・定時性確保広域期成同盟会などを通じ、JR東日本に対しホームドア設置などの早急な対策を強く要望しています。
一方、県内ではシカとの衝突が遅延の主因となっており、沿線自治体やJR東日本と担当者会議を設け、動態調査や捕獲頭数の拡大に取り組んでいます。
これらを着実に進め、首都圏と本県を結ぶ大動脈としての中央東線の安定運行を守り、県民の通勤・通学の安心と地域経済の活力を確保します。
加えて、JR中央線の早朝特急「かいじ70号」の定期運行化による首都圏との時間距離短縮を進めます。
早朝特急の定期運行は、山梨が東京圏への通勤・通学圏として機能する上で、極めて重要です。
これまで県はJR東日本に要望を重ね、その成果として本年3月から「かいじ70号」が季節ごとの臨時便として運行されるに至りました。
しかし、若年層の県外転出を防ぐためには定期運行化が不可欠であり、利用率向上が鍵となります。
そのため、来年度から鉄道通学支援による人口転出抑制実証事業を拡充し、早朝特急を利用する学生に対し、従来の定期券補助に加えて特急料金の一部を支援します。
この事業には1800万円の債務負担行為を設定しました。
これにより、県内高校生の進路選択の幅が広がり、進学を契機とした県外転出を抑えるとともに、早朝特急の利用拡大を通じて定期運行化の早期実現につながるものと考えております。
交通インフラの戦略的整備は、人材が活躍し、産業が育ち、県民所得を長期的に押し上げるための最重要基盤です。
これらの取り組みを着実に進め、山梨全域を結ぶ交通ネットワークを未来の成長エンジンへと高めて参ります。
人材戦略と産業戦略、この二つの車輪を一体で力強く回し、学びと挑戦が実を結び、働く誇りが正当に報われる経済圏を築いて参ります。
山梨を持続的成長の舞台へと押し上げる。
ここにこそ、私たちが未来を切り拓き、県民所得を中長期にわたり力強く引き上げる確かな道があります。
次に、補正予算案に計上したその他の案件のうち、主たるものについて御説明いたします。
先ず、生活困窮者への生活支援です。
エネルギー価格高騰の影響が大きい生活保護受給者や低所得世帯を支えるため、厳冬期の寒波到来時に迅速に支援できるよう、生活困窮世帯灯油助成券臨時配付事業費として3億円余を事前計上しました。
次に、高齢者の孤立防止です。
県内高齢化率は31.9パーセント、一人暮らし高齢者は過去最多で、調査では60歳代から70歳代の単身世帯の約4割が社会参加をせず、半数が孤独を感じている実態が明らかになりました。
そこで、地域の集会所等にキッチンカーを派遣し、食を通じた交流を生む移動式地域食堂モデル事業費、300万円余を計上するとともに、地域食堂など多世代交流拠点を支える担い手への支援を強化します。
続いて、人口減少危機対策として不妊治療支援を拡充します。
不妊治療に関する県民調査では、約2000人から回答を頂いたところですが、そこにおいては保険適用外治療費や治療と仕事の両立に関する切実な要望が寄せられました。
これを受け、総額8200万円余を計上し、保険適用外の治療費を3回まで助成するとともに、企業の「くるみんプラス」取得支援やプレコンセプションケア健診の体制拡充を進めます。
最後に、その他の提出案件の内容につきまして御説明申し上げます。
山梨県県税条例の改正では、資本金1億円超の大規模法人に課している法人県民税の超過税率を5年間延長し、社会福祉と教育文化の一層の充実を図ります。
以上、本議会にお諮りする施策を申し述べました。
本議会に提出した条例案7件、補正予算案3件、その他の案件2件につきまして、なにとぞよろしく御審議の上、御議決を賜りますようお願い申し上げます。
―日本を世界に開いた先人の志を受け継ぎ、前進を誓う―
さて、所信を締めくくるに当たりまして、改めて、山梨の原点を振り返りたいと思います。
明治から大正にかけ、日本を世界へ開いたのは、ほかならぬ山梨の人々でした。
甲州産の生糸は太平洋を渡り、世界市場を席巻し、日本に未曾有の富をもたらしました。
その力を支えたのは、補助金でも給付金でもなく、未来を切り拓こうとする勇気と挑戦心、まさに開拓者精神であり、起業家精神にほかなりません。
時代が変わっても、挑戦こそが地域を前へ進める原動力です。
歩み出さなければ始まらない。
自らの意志と情熱で一歩を踏み出す人こそが、新しい産業を興し、豊かさを呼び込みます。
私たちが今なすべきことは明白です。
挑戦する人の意欲を挫けさせず、創り出す動機に追い風を送り、「豊かさの循環」を加速させることです。
そのために、本県は限りない伴走支援をお約束します。
立ち上がる人、挑戦する人、歩み出す全ての人々と、本県は共にあります。
無為は希望を生みません。
行動こそが未来を拓きます。
見える豊かさ、確かな成果、人生の果実は、その一歩の先にこそあります。
私は、挑戦する全ての人がその成果を自らのものにできるよう、山梨県政を先頭に立って推し進めて参ります。
この覚悟をもって、山梨を前進させ続けることをここに誓い、結びの言葉といたします。
御清聴、誠にありがとうございました。
令和7年9月24日
山梨県知事 長 崎 幸太郎