Vol.8 パンから健康と幸せを |
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今回のゲスト
《パン製造販売》 望月 三由季さん(北杜市)オーガニックブレッドカフェ アリコヴェール経営 |
子どものアトピーをきっかけに国産小麦のパンづくりへ。
望月さんは大学を卒業してすぐに結婚し、山梨県へやってきました。地縁血縁の濃い生活や、きつく感じられる言葉になじめず、東京行きの電車を見ては泣いたこともあったそうです。
やがて生まれた3人の子どもたち、アトピーの症状が始まりました。アレルギー性の疾患が今ほど認知されていなかった時代、医者にも頼れず、情報を得るために望月さんはたくさんの本を読みました。勉強するうちに、農薬が体に害を及ぼすとの一文に出会い、食べ物に気をつけるようになりました。
「野菜は、無農薬栽培をしている農家の方に頼んで分けてもらい、作れる食べ物はなるべく手作りで、を心がけました。自分ができることで子どもに手をかけてやりたい、強い体をつくるにはまず食べ物だと思って」
手作りの麺や味噌、国産小麦でお菓子、うどん、春巻きの皮。
「どれもうまく作れたのですが、国産小麦と塩と天然酵母で作るパンだけは、上手にできなかったんです。だから、ぜったいうまく作ってやるという気持ちになりました」
子どもをおぶって東京のパン教室へ通った1年半。
パン作りも本を読んで勉強した望月さんでしたが、本の著者で国産小麦と天然酵母で作るパンの先駆者として有名な先生が開催しているパン教室にどうしても通いたいと思うようになりました。30歳の頃です。小さい子どもがいたので家族は大反対したものの、最後はしぶしぶ認めてくれたといいます。
パン教室の空きを半年待ち、やがて末の子をおぶい、始発の特急電車に乗って東京へ通うようになりました。「子どもを連れて行くと言えば断られる、でも1回だけでも先生に教わりたいと思って」いきなり子どもを連れてパン教室の門をたたいた望月さん。先生は驚きながらも温かく迎えてくれたそうです。
「教室で勉強するのは、とにかく楽しかった。そこへ行けば、私と同じくパン作りが好きな仲間に会える。しかも、皆プロを目指す人たちなんです。それに、先生のパンをはじめて食べた時の感激は今でも続いているんです。そのおいしさを覚えているからこそ、大変なことがあってもパン作りを続けていけるんです」
子どもをおぶって通った1年半、両手いっぱいの食材を抱えての帰宅となりました。「毎回子どもと旅に出るようで、楽しかった。若かったんですね」
教室を卒業した望月さんは、自宅の台所で小さなパン教室を始めました。
やがて保健所の許可も取って、自宅でパンの販売を始めます。よく売れる菓子パンを中心にした販売を3年ほど続けたあと、「甘いパンは子どもにとって良くないのではないか。おいしい食事パンを作ろう」と思い立ち、そのための大型オーブンを購入しました。
家族の反対を押し切っての開業。こんなに長く続けられるとは、誰も思っていなかった。
それは高さも奥行きも2メートル近く、石床のドイツ製オーブンでした。このオーブンを置いてパン作りをするために、店舗を持つことに決めました。建設予定地の地目は山林。水道も電気も来ていません。
「家族は開店に反対しました。当然ですよね。人も車もめったに通らないところですから、店なんて。家族や銀行も、この店がうまくいくとは信じていませんでした」それでも望月さんは実行に踏み切りました。
「大学を出てすぐに結婚したものですから、仕事のことは何も知りません。でも、だからこそ出来たのかもしれません。世の中の事を色々分かっていたら、きっと怖くて出来なかったでしょうね」
こうして平成9年『オーガニックブレッドカフェ アリコヴェール』は明野の地に誕生しました。
望月さんは銀行のほかに、市民バンクからも融資を受けました。このバンクは、環境に負荷をかけない仕事を選ぶ人に無担保でお金を貸してくれる組合です。この融資が受けられるということは、事業自体が意義ある仕事と認められたという証明で、「このバンクで借りられたことは私の誇りです」と望月さんは語ります。
「思ったことをやるために生まれてきたんじゃないか」といつも思っていた。
現在、お店のスタッフは望月さんを含めて二人。定期的にパンを配送する『パンの会』のお客様へ、県内外の自然食品店へ、そしてレストランへと、心を込めて焼き上げたパンを送り届けます。お店ではパンの販売のほか、ランチやケーキセットも出しています。さらにインターネットによる受注も始め、毎日目の回るような忙しさ。
毎週日曜日に開いているパン作り教室も好評で、公民館などへ出張講座もしているそうです。
「儲けようと思って始めたお店ではないので、売り上げは赤字の出ない程度。それよりも、今よりもっとおいしいパンを焼きたいとか、もっといろいろなことを知りたいとか、そういうことに興味があります」常に好奇心と向上心を忘れない望月さん。これからチャレンジを始める女性へのアドバイスなどをうかがいました。
「考えすぎない、思ったらすぐやる、ということでしょうか。もちろん失敗も多いけど、痛い目に遭って、そして自分で学んでいくんだと思います。学生時代に、『人は何のために生まれてきたのか、思ったことをやるために生まれてきたんじゃないか』と思い当たりました。今も、そう思っています」また、「勉強して得た食への知識や体験を一人でも多くの人に伝えたい、誇りをもって毎日の仕事がしたい」と落ち着いた雰囲気で語る望月さんでした。
取材日:平成17年3月11日(金)
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- vol.1 【働く】大工をずっと続けたい
望月さんのこれまで
大学卒業後すぐ結婚し、神奈川県から山梨県へ。夫の実家に同居。
県外出身の孤独感に悩んだ。
子ども3人がアトピーに。当時は医者も世間もアトピーに無理解な中、本を読んで勉強するうちに、食品を手作りする生活を始める。
パンをうまく作りたい一心で、家族の大反対を押し切り、末の子をおぶって、東京のパン教室へ1年半通う。
自宅でパン教室を始める。
自宅でパン販売を始める。平成9年、明野にアリコヴェール開店。