インタビュー

若尾 直子
Vol.5 【心とからだ】乳ガンをのりこえてピアカウンセリングへ
今回のゲスト
若尾 直子さん
(甲府市)
山梨まんまくらぶ
代表

誰にも相談できずに悩んだ日々。大きな不安にさいなまれた経験を生かしたい。

若尾さんが乳ガンの告知を受けたのは、平成13年8月のこと。気になっていた左胸のしこりは、最も重い「レベル5」まで進行していたガン細胞でした。即座に温存手術ではなく全摘手術に同意した若尾さんでしたが、それから手術の日までの3週間あまりは悩み苦しむ日々を送ることに。自分を納得させるための情報を求めても、相談できる相手もいず、頼りは専門書やインターネットだけ。
「覚悟はしていたし、自分の選択に間違いはないと信じていたけれど、ひとりになると考えが悪い方へしか向かなくなるんです。病気のことを客観的に見ることができなくなるんですね」
余計な心配をかけたくないという気持ちと持って行き場のない苛立ちが邪魔をして家族にすら相談することが難しかったといいます。
「こんな状況を少しでも前向きな気持ちで乗り切るには、不安をぶつけられるような相談相手が絶対に必要だと感じました」
何かをしなければと思ったものの、具体的にどんなふうに活動を開始していったらいいのかがわからず、温めた思いは、平成16年5月、参加していた甲府市女性市民会議のメンバーに呼びかけ、夫を含む5名で『山梨まんまくらぶ』を立ち上げ、ようやく活動をスタートすることができました。

乳ガンは25〜30人に一人が発症する身近な病気。もっと乳ガンについて理解してほしい。

グループの名前になっている『まんま』は英語でmamma=乳房を意味する。現在メンバーは34名で、月に一度ボランティアセンターで定例会を開いています。広く情報を提供するための会報は、定例会に参加することができないメンバーには郵送し、県内のボランティアボードを活用した広報活動も行っています。
「とにかく、私たちがここでこんな活動をしていることをひとりでも多くの人に知ってもらわなければならないと思うんです」
カウンセリング活動は、メールや電話での問い合わせに始まり、顔を付き合わせての相談まで親身になって受けています。
「聞いてやることしかできないんです。でも、誰かに話してしまうことでずいぶん楽になることってありますよね。同じような悩みを持つ仲間がいるんだということを知ってほしいんです」
乳ガンの患者が互いに情報交換をしたり、励ましあったりするサークルは山梨には例がない。山梨は、全国でも乳ガン検診の受診率が低いといわれます。
「発症率の高いガンですが、術後の生存率も高いです。だから、ひとりでも多くの人に乳ガンの検診を受けてもらいたい」

肩の力を抜いて息の長い活動をしてゆく。誰かが必要としたときに、いつでもそばにいられるように。

「私たちの会を必要とする人は、急に必要になるんです。だから『山梨まんまくらぶ』は、ずっとここに存在し続けなければならないんです」
自分の中で正しいと信じて行っているボランティア活動。でも、時としてそれが社会に受け入れられず冷たい目で見られたり、理解してもらえないという現実がある。「自分が情熱を賭けて活動していればいるほど、そんな空回りに気づいたときのプレッシャーや虚無感は大きい」と若尾さんはいいます。
「肩の力を抜いて、ゆっくりやっていきます」
若尾さんは、昨年、山梨県の企画する女性リーダー養成海外研修に参加し、ニュージーランドのボランティア施設を視察しました。
「ボランティアは一般市民に浸透していて、参加するのがあたりまえのような国ですから土壌が違うんです。うらやましいと思っても仕方ないですけど、企業がお金を出し、民間団体が活動する、という形ができあがっています。これから先は、企業にももっと協力してほしいと思います」
自らの経験を生かし、ボランティア活動を続ける若尾さん。小さな活動ではありますが、女性にとって本当に必要なネットワークです。このような小さな活動が長く続くよう、支援体制が整う社会にしていきたいものです。

取材日:平成17年2月8日

バックナンバー

若尾さんのあゆみ

平成13年8月、乳ガンの告知を受け、手術。不安定な精神状態をフォローしてくれる場が必要であることを痛感。

平成16年5月、参加していた甲府市の女性市民会議で呼びかけ、5名で『山梨まんまくらぶ』を立ち上げる。

毎月1回の定例会を開き、会報を発行。

『ボランティアセンター』を窓口に乳ガン患者へのカウンセリング活動を行い、ネットワークを広げている。現在、会員は34名。

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