インタビュー

《農産物加工販売》 名取 君子
Vol.4 【農業・林業】捨てられてきたさくらんぼ 女性の手で特産品に
今回のゲスト
《農産物加工販売》 名取 君子さん
(南アルプス市)
南アルプス特産品企業組合・ほたるみ館(旧あやめの里特産品加工組合)
理事長

丹精込めたさくらんぼを自らの手で処分する農家。『規格外』の農産物を救済するのは女性の仕事。

南アルプス市は全国でも有名なさくらんぼの産地。収穫のシーズンとなる6月には首都圏から大型バスでやってくる観光客でにぎわいます。果樹園や美しい棚田に囲まれた丘の中腹に建つ『ほたるみ館』は、農産物を加工・製品化するための施設。加工室・製品保管室をはじめ会議室や体験実習室などが整備されています。
名取君子さんは、この『ほたるみ館』を拠点に活動する『南アルプス特産品企業組合』の組合長。130名を超える組合員とともに忙しい毎日を過ごされています。
「さくらんぼは雨に濡れると割れてしまうんですよ。そうすると病気が発生するからすぐに処分しなければならないんです」
今でこそさくらんぼの果樹園には電動式のルーフ設備がありますが、ひと昔前には雨が降ってもなすすべもなく、大量の規格外品が出るばかりでした。名取さんはあるとき、農家の方が畑の隅に大きな穴を掘り、たくさんの割れたさくらんぼを地中深く埋めている光景に出会いました。丹精込めて育て、明日にも収穫というところまで来て雨に打たれたさくらんぼ。どんなにか悔しいだろうと心中を察した名取さんの目からは、思わず涙がこぼれていたといいます。
「このさくらんぼを何とかしなくては、と思いました。そしてこれは女性の仕事だと思ったんですね。そんなことがきっかけで規格外のさくらんぼでジャムをつくり始めたんです」
当時、食生活改善推進員を務めていた地域の生活改善グループの仲間と『農村改善センター』で試行錯誤のジャム作りをはじめ、完成したジャムをイベントで販売してみました。これが評判を呼び、近隣の生活改善グループが集まって『櫛形町生活改善研究会』を組織。本格的な農産物加工にチャレンジすることになりました。

女性の模擬議会での提言をきっかけに、念願の施設整備が実現。「素晴らしい施設をフルに活用していこうと心に誓って」

平成7年から隔年で開かれた旧櫛形町の女性模擬議会。名取さんは、この議会で農産物加工の拠点となる施設の整備を強く要請しました。保健所の許可を受けた加工所がどうしても必要でした。この要望が認められ、県が推進する中山間地域総合整備事業の一環として平成11年1月に『ほたるみ館』がオープン。135名の仲間と『あやめの里農産物加工組合』を立ち上げました。
「加工をするためだけの施設ではなく、地域の人たちの親交を深める場所として、それから楽しく働ける場所として、この素晴らしい施設を充分に活用しなくては、と思いました」
名取さんは、こうした農産物加工に関する活動と並行し『農業改良普及センター』や『女性センター(現・男女共同参画推進センター)』などの機関を利用し、学習する機会をつくってきました。なかでも『女性センター』で勉強させてもらったことは、男性を含めた『あやめの里農産物加工組合』の運営の在り方についてとても参考になったといいます。平成4年からは旧櫛形町の女性プランの策定委員となり、男女共同参画の推進に努められました。当時を振り返って「男性の意識改革は大変だった」といいます。

「人は宝。ここではみんなが主役です」

現在、『南アルプス特産品企業組合』は137名の組合員で構成されています。野菜・果実・雑穀・花木・山菜の5班からなる生産部会、ジャム・味噌・漬物・惣菜・製菓・手芸の6班からなる加工部会、そして販売部会と組織をシステム化して運営。毎週土曜日の朝市、隔週火曜日の夕市、イベントなどで販売活動をしています。
とくに朝市は毎回大盛況で8時からの販売にもかかわらず、おふくろの味を求め、7時には買い物客がぞくぞくやってくるといいます。ほかほかの焼き芋やできたてのよもぎ饅頭はとくに人気で、いつもあっという間に完売。看板商品の手づくりジャムもりんごやかりんなど8種類を数え、黒大豆味噌、おやき、揚げ菓子、にじますの甘露煮、アイスクリームと品数も年々豊富になってきています。
地域の子どもたちに地元の食文化を伝える活動にも積極的に取り組んでいて、味噌づくり、豆腐づくり、ほうとうづくりなどの体験学習を行っています。さらに学校給食に手づくりジャムなどを提供しています。
「ここで働くのが楽しいって、お年寄りがとても元気になりましたよ」
規格外のさくらんぼを「もったいない」と感じた気持ちは、農産物の有効利用にとどまらず、町全体を活性化する効果まで生み出しました。平成15年にはこの業績が認められ、『あやめの里特産品加工組合』は農林水産大臣賞を受賞しています。
「行政についていくのではなく、先に立ってどんどん活動していく。それを行政に認めてもらうんです」
待っていないで行動し、行政を動かしていくという姿勢。こんな大胆さや度胸も、もしかしたら女性ならではのものかもしれません。
「ジャムをつくると出るさくらんぼの種。あれは洗って乾かしてお手玉に入れるのよ。もったいないから」
年齢を感じさせない名取さんのパワーは、毎日多くの人々に元気を与えているようでした。『ほたるみ館』はいつも活気にあふれています。

取材日:平成17年2月8日

バックナンバー

名取さんのこれまでのあゆみ

地域の『生活改善グループさくらんぼ』のメンバーと規格外のさくらんぼを使ったジャムを考案。他の地域の6グループとともに昭和61年『櫛形町生活改善研究会』を立ち上げ本格的に特産品の加工に着手。

平成7年より隔年で開かれた旧櫛形町の『女性模擬議会』に参加。農産物加工のための施設整備を要望する。

要望が取り上げられ、平成11年1月に農産物加工と体験交流のための施設『ほたるみ館』がオープン。『櫛形町生活改善研究会』を母体に、女性が主体となった『あやめの里特産品加工組合』を発足。組合長となる。

ジャムをはじめ、味噌、惣菜、漬物、お菓子などさまざまな商品を研究開発。朝市などで販売する。

地域の活性化と農村女性に働く喜びのための貢献が認められ、豊かなむらづくり優良集団として農林水産大臣賞を受賞。

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名取君子さんパンフ
名取君子さん賞状