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吉井公典

対象を深く観察し、リアリティを重視する。
それが良いデザイン画を描く秘訣。

山梨県甲斐市にある㈱シンク。創業以来、企画・デザインから加工・製造までの全ての生産工程を自社で一貫して行っている。そのシンクが総力を結集して展開しているオリジナルブランドがある。「GLENN(グレン)」だ。グレンのジュエリーを見ると、シンクという会社のポテンシャルの高さ、そして、製造に携わるスタッフの資質の高さが容易にわかる。

今回紹介する吉井公典氏はまさにその一人で、シンクのデザイナーを務めている。

吉井氏はデザインの分野においてただ一人、最高位の称号であるジュエリーマスターの認定を受けており、業界で高い評価を得ている。

会社ではどんな仕事を?

僕はシンクの専属デザイナーで、自社のオリジナルブランド「グレン」のデザインやOEMのデザインなどを手がけています。OEMの場合、クライアントからのオーダー内容はいろいろあってケースバイケースです。例えば「この石をメインにデザインをおこしてほしい」というように材料先行のケースもあれば、ブランド側が設定したテーマに従うというケースもあります。あと、そもそものテーマ設定から僕が提案するというような、企画提案型の場合もあります。クライアントの様々なニーズに合わせて柔軟に対応するようにしていますね。

グレンはどんなブランド?

グレンは「日本の伝統と西洋文化の融合」をコンセプトに立ち上げました。デザインは日本古来の武具や金属工芸品、装飾品などからインスパイアされています。当社が開発したグレン・シルバーというオリジナル地金をベースに、熟練した職人が伝統的な金工技法を駆使して作っています。まさに弊社のデザイン力と技術力を結集させたブランドなんです。僕たちのような仕事をしていると、どうしても西洋への憧れを抱いてしまって、造形物だったらミケランジェロとかに魅力を感じてしまうんです。でも自分の身の回りをよくよく見てみると、日本の中にはカッコイイものがいっぱいある。グレンが意識しているのはそういうところで、日本の古典的な芸術を再認識しようというテーマもあるんです。

確かにクラシックなんだけど、クールでモダンな印象も受けます。このてんとう虫のジュエリーは?

それはグレンのディフュージョンラインですね。このシーズンは「セレブレーション(祝い)」というテーマでデザインしました。モチーフとしては他に鯛とかダルマとか梅の花があるんですよ。このてんとう虫の赤色、深みのあるいい色でしょう!塗料でペイントしてるわけじゃなくて、「火による酸化仕上げ」によって銅を発色させているんですよ。だから使えば使うほど味が出てきていい感じの色になっていくんです。グレンはこういった特殊な技法を駆使しているので、弊社でも本当に限られた職人しかできないんですよ。

実際手にとってみるとクオリティの高さがよくわかります。デザインのインスピレーションはどんなところから?

頭を柔らかくしていろんなものに興味を持つようにしています。ジュエリーのデザインだけを意識していたらブレイクスルーできないと思うんで。しかも「広く浅く」ではなくて「広く深く」です。特に具象ものは深く見て観察しないとリアリティーのあるものは作れないですからね。最近は日本の文化とか伝統工芸とかにすごく興味があって、実際に京都に行って寺とか仏閣の建築を見ているんです。改めてちゃんと見ると素晴らしいデザインがいっぱいあって、そこからインスパイアされることが多いですね。

なるほど。デザイン画を描く上で大事なことは?

理想的な画っていうのは簡単に描けるんです。大事なことはそれをクライアントの意向に沿った、市場性のあるデザインに落とし込むことなんです。そのためにはデザイン画を描く段階よりも、前のプロセスが重要になってくるんです。例えば、企画立案、コスト計算、価格設定、販路・販促の検討・・などです。そういったことを、クライアントとコミュニケーションをとりながらデザイナーが中心となって進めていって、徐々にステップアップしていきます。デザイン画を描く以前のプロセスが、実は全体の工程の60%から70%を占めているんです。

へえ!デザイナーと一言でいっても仕事の幅は広いんですね。

そうなんです。そしてデザイン画を描く段階になって大事なことは「立体への理解」です。職人さんにデザイン画を見せて「横から見たらどうなっているの?」とか「ここの入り込みはどうなっているの?」って聞かれたときに、デザイナーは答えられなければならない。逆にどんなに簡単なラフ画であっても、立体で理解できていれば職人さんに伝わるんです。実は僕、この業界に入って最初の3年間は作りをやっていて、シルバーで原型を作ったり、ワックスを削ったりしていました。そういった経験が立体への理解を深めてくれて、デザイナーになった今でも役立っているんです。

職人としての作りの経験がアドバンテージになっているんですね。

ええ。あとは観察力が大事ですね。例えば花のデザインを描く場合、花の形がどうなっているかディテールまでよく観察する力が必要です。あと、対象が動物だったら、その内部の構造まで理解するように観察しなければなりません。犬だったら、走るときにどのように骨が動いて、どのように筋肉が伸縮するか。対象物を深く観察し、内部構造まで理解しなければ本当に良いデザイン画を描くことはできないでしょうね。理想を言うなら犬のスケッチから始めるべきだと思います。

なるほど。それが「立体への理解」にもつながるんでしょうね。では最後にデザイナーを目指す後進にメッセージを!

インターネットなどをフル活用し、アンテナを高く張り巡らせて、積極的に情報収集をすべきだと思います。ただインターネットは所詮バーチャルな世界なので情報収集をした後は、実際に自分の目で見たり、自分の手で触ったりした方がいいですね。リアリティを軽視してしまうと良いデザイン画は描けませんから。あと最近は企業間取引や業務内容がボーダーレスですよね。分野を越えて、いろいろな主体がコラボして、モノ同士が組み合わさって、一つの商材となっていることが多い。だから今いるフィールドだけで満足するのではなく、恐れずそれを飛び越えて、いろんな分野のいろんなことに興味を持って挑戦してもらいたいですね。

今日はデザイナーを目指す若手にとってとても有意義なお話でした。これからも吉井さんが創り出すジュエリーを楽しみにしています。ありがとうございました。

 2012年2月20日 インタビュー掲載

企業情報

名  称:株式会社THINK(シンク)

住  所:山梨県甲斐市玉川1405-1

T E L:055-276-7007

F A X:055-276-7081

E-mail:info@thinkcoltd.jp

H   P:http://www.thinkcoltd.jp/(シンク)

      http://www.glenn.co.jp/(グレン)

      http://www.a-l-e.jp/(グレン販売)

事業内容:ジュエリーの企画・製造・OEM

取扱ブランド:GLENN JEWELRY 

  

 

グレンのてんとう虫ペンダントトップ

赤い羽は熟練した職人が火による酸化仕上げにより発色

てんとう虫のペンダントトップのデザイン画

 

グレンの鯛のペンダントトップ

 

鯛のペンダントトップのデザイン画

 

デザイン画と完成したリング

 

 

吉井公典

●1965年生まれ●山梨県立宝石美術専門学校を卒業後、県内のジュエリー企業を経て㈱シンクに入社。宝飾デザインの分野ではただ一人、山梨県知事認定ジュエリーマスターの資格を持つ。

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