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河野道一

出会った石の景色を活かして、
石がなりたがっている姿に磨き上げる。

現代の名工、一級宝石研磨士、伝統工芸士など数々の経歴・受賞歴を持つ、甲州水晶彫刻界の重鎮・河野道一氏。
「石が好き」だと語り、様々な技法を用いて原石が持つ本来の美しさを引き出していく。
日々の研究を怠ることなく、常に新しいことにチャレンジし続ける氏の魅力に迫った。

カワイイ花瓶がいっぱいありますね。

ウチにある一輪挿しはみんな石で作っているんですよ。普通だったら捨てるような石だけど、私は違う。なにしろ石が好きですから、そういう石でも生かしてやりたい。石の持つ景色を生かして、なりたがっている形にするんです。そうすると石も喜びますから。

へえ!この茶碗も石の模様が絶妙ですね。

そうでしょう?それは黒瑪瑙で作っていて「雷光」と名付けました。日本伝統工芸展で入選した作品です。こっちの茶碗は「雪山」といって瑪瑙で作りました。石の景色がよく生かされているでしょう?

本当にキレイですね。こっちの水晶も虹色に光っていてキレイ!

その石は偶然出会ったんです。天然石っていうのは同じ物がない。全てがオリジナルの景色を持っているんです。削っていくと予想外の景色が現れたりしますから、石との出会いは本当に楽しい。こっちの石もぜひ見てください。内部がキラキラ光っているでしょ。自然のインクルージョン(※1)なんです。原石を切っていて偶然見つけました。これをどんな形にするか、今から楽しみなんです。

(※1)インクルージョン:宝石中に肉眼で認められる内包物。同質であっても結晶と異なる固体、液体又は気体で、形状の特徴に価値を付けた宝石もある。

あちらには色々な種類の仏像がありますね。

ええ。実は仏像とか大きい物はいくつかのパーツを貼り合わせているんです。私の父も職人だったんですが、父の時代はパーツを貼り合わせる物づくりは絶対しなかった。一個の石で作らないと絶対認められない時代だったんです。その後、私が職人になって、彫刻以外の分野で接着技術が進歩してきたのですが、この業界に私が初めて接着技術を取り入れたんです。

河野さんが当時の業界のタブーを打ち破ったわけですね。周囲の反応は?

接着技術を使って最初に虎目石で香炉を作りました。虎目石っていうのは層になっていて、貼り合わせても分からないんです。それを利用して作ったんです。ですが、やっぱり邪道だと。そんなものはお客様を騙すようなもんだと言われました。でも大きい物はこうやらないとできない。接着は50年持ちますし、大きい面積同士をはるのだから強度の心配もありません。徐々にですが認められるようになりました。今では接着技術も進歩して、パーツの貼り合わせは当たり前になっています。

そうだったんですか!仏像が作れるのもその技術のおかげですね。

そう。昔は一つの石から一つの物を作り出す技術しかなかったから、出来上がる作品にも限界があった。だけどパーツの接着技術によってその限界をかなり超えることができたんです。だから形が複雑なものでも作れるようになってきている。ただ、仏像の制作というのは長い伝統だから、この業界とは切っても切り離せないけど、これからはそれだけではいけない。時代の流れに対応して、色々なことにチャレンジしていかなければいけないと思います。

この道を極めた河野さんがこれからも挑戦していくとは驚きです(笑)。

いえいえ。芸術の世界は終わりがない。死ぬまで勉強なんです。今、山梨県貴金属工芸協同組合で一般の方を対象にシルバージュエリー制作体験教室をやっているんだけど、私も参加してるんですよ。同じリューターを使ってても「あ、ここが違うんだな」とか気付いたり。ものすごく勉強になります。

地金の研究もしているんですね!

それだけじゃありません。山梨県立美術館でアンティークジュエリー展やってたでしょ。私二度も行ってるんですよ。最初一周見て、その後、家に帰って買ってきた展示会の本を見る。気に入った作品があると、もう一度行ってそれを集中的に見るんです。自分の目で他の人の良い作品を見て刺激を受けること、それが一番大事なんです。

それは若手の職人さんへのメッセージでもありますね。

ええ。良い物を見て刺激をもらうことはとても大事です。そして山梨の地場産業である水晶彫刻をしていることに誇りを持って、色々な場で自分の作品を発表してもらいたいと思います。自己満足で終わるのではなくて、他人に評価してもらうこと。そういう挑戦を重ねることで考え方も変わってきます。山梨県立宝石美術専門学校も甲府の中心地に移転してとても勉強しやすい環境になりました。我々も持っている技術を伝えていくので、それをさらに進化させていってほしい。是非とも若手には頑張ってもらいたいと思っています。

若手へのメッセージ、ありがとうございました!これからも自然が生み出した景色を生かした物づくりに期待しています。

2010年11月30日 インタビュー掲載

企業情報

名  称:河野水晶美術

住  所:山梨県甲府市飯田3-1-25

T E L:.055-222-5231

F A X:055-222-5261

事業内容:宝石、貴石の彫刻研磨

              オリジナルジュエリーの製造販売 

自社の強み:現代の名工、一級宝石研磨士、伝統工芸士などの経歴を持った職人が研磨しております。何でもお客様のご要望にお応えします。デザインの段階から地金・石の加工など完成品に至るまでを自社工房で行えます。 納期は小さいサイズの物であれば、半月ほどで仕上げます。 

  

 

一輪挿し 

 

「雷光」

 

「雪山」 

 

七色に光る水晶の原石

 

河野道一

●1939年生まれ。●黄綬褒章受章。現代の名工、一級宝石研磨士、伝統工芸士、平成22年県政功労者。●日本伝統工芸展、伝統工芸新作展、伝統工芸七部会展、山梨県水晶美術彫刻新作展など入選多数。●山梨県伝統工芸品産業協会会長、山梨県水晶美術彫刻協同組合顧問を務める。

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