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大寄智彦

お客さんの喜ぶ顔を見ること、
それが制作のモチベーションなんです。

宝石彫刻研磨界の若手ホープの一人、大寄智彦氏。
祖父と父もクラフツマンという生粋のジュエリー職人である。
親子二人で営む工房「貴石彫刻オオヨリ」にて、想いを語ってもらった。

智彦さんは3代目ですが、この仕事を継ごうと思った経緯は?

祖父と父がやっていたので幼い頃から機械の音や石を削る音を聞いていました。だからこの道に入るのは抵抗なく継ぐものだと思っていて。絵の勉強もできるということで普通高校の美術デザイン科に進み、その後は県立宝石美術専門学校で学びました。卒業して20歳の時に家業を継いだので、もう11年経ちますね。

自分でデザインしたオリジナル作品を作りたいという気持ちがあったんですか?

そうですね。自分がデザインしたものを自分の技術で表現するのは楽しいです!一つの完成したジュエリーにするためには石の研磨だけでなく、地金の知識や技術も必要なので、働きはじめの最初の一年間は地金の勉強もしていました。

Koo-fuプロジェクトはどうでした?

Koo-fuプロジェクトでは2008年、2009年、2010年と3年続けてコレクションを発表しました。最初はアドバイザーで参加したんですが、ディレクターの深澤直人さんに勧められてオリジナル作品を出したんですよ。

どんな作品を?

2008年は透明水晶の中に、カットした水晶を入れました。まるで一つの水晶のように見えるでしょ?外側の水晶はドーム状にえぐってあって、なんと厚さは1ミリ!小さいコマを使ってくり抜いているんですが、その時に研磨痕が残っていると曇ったようになってしまいます。透明にするためルーペで確認しながら磨いていくのですが、この作業が地道な作業なので、めちゃくちゃ大変(笑)。

2009年の作品はダイヤがキラキラしていてカワイイ!

そのモチーフは「桜」。ダイヤはオシベとメシベを表しています。花びらはアメジストにインタリオ(※1)を施してあって、上半分と下半分を別々に作って特殊な方法で貼り合わせてあります。でも、貼り合わせているようには見えないでしょ?アメジストなどの色石は削っていくと色が薄くなるので、最初はこれよりも濃い原石を使っているんですよ。しかも、レンズ効果で中のダイヤを大きく見せているんです。

インタリオ(※1):沈み彫り。透明な素材の裏面に立体的な文様を彫り込み、表面からの効果を挙げる技法。

こんな小さなジュエリーに色々な工夫が詰まっているんですね!高い技術と石の知識を兼ね備えた大寄さんならではの発想ですね。

発想と言えば、普段から美術館に行ったりしてジュエリーに限らず良いものを見るように心がけています。そうやってストックされたものがまとまって出てくるのかな。

オリジナル作品の制作以外にはどんな仕事を?

オリジナル作品は全体の1割くらいで、多いのは石の枠合わせ。リングやペンダントの石の部分が取れてしまった場合に、地金の枠に合わせて石を研磨するんです。細工台のコマも既存の物で合わなければ新しく作ったりもします。

研磨しているときって、どんなことに気を使います?

削り過ぎないことです(笑)。オリジナル作品は失敗してもやり直せるんですが、お客さんの石には思い入れがあったり、高価なものであったりしますよね。例えば、おばあちゃんがしていた指輪のリフォームとなると、その人にとってはかけがえのないもの。だから取り返しがつかないし、そういうところは気を使います。けど、研磨してるとお客さんの顔が浮かぶんですよ。喜んでもらえるとすごく嬉しい!

大寄さんの優しい人柄が伝わります。では最後に、これからジュエリー職人を目指す若者にアドバイスを!

この業界に若手が少ないのも不安ですが、その道に進んでも受け入れ先の企業がないのはかわいそう。僕は、今すぐには無理でも若手が進める道を作れればと思っています。Koo-fuのような新しい試みをして、新しい風を入れれば業界も活性化して、受け入れ先も増えてくるんじゃないかな。だから今の道を信じて突き進んでほしい。そう思います。

ジュエリー産地山梨を背負っていく若手職人の一人として、これからも頑張ってください。今日はありがとうございました。

2010年9月17日 インタビュー掲載

企業情報

名  称:貴石彫刻オオヨリ

住  所:山梨県甲府市丸の内3-25-1

T   E   L: 055-224-3762

F   A   X: 055-288-0762

E-mail:info@ohyori.com

H   P:www.ohyori.com

事業内容: 宝石、貴石の彫刻研磨加工業 お客様のデザインを元に、石やジュエリーを完成まで自社工房で製造可能 自社オリジナルジュエリーの製造販売 自社ジュエリーブランド「TO LABO」を展開 宝石加工実演スペース併設のショップ「TO LABO shop&studio」の運営

【主な加工】・仏具、香炉、茶碗、置物などの美術工芸品の製作 ・ジュエリーなどの石の枠合わせ加工 ・定型サイズ物、変形物、花(バラ・カラー・カトレアなど)の石の彫刻品の製作 ・宝石のオーダーカット、ルース製作 ・リカット ・穴あけ ・リング、ペンダントなどのジュエリー製作

自社の強み:創業1959年から三代に渡り受け継がれている伝統技術を使い、美術工芸品からジュエリーまで、幅広く製作しております。「現代の名工」や伝統工芸士によって、高度な技術を使った製作が可能です。

  

 kf2008

Koo-fuコレクション2008

 

 

Koo-fuコレクション2009

 

 

 

 

大寄智彦

●1979年生まれ。●貴石彫刻オオヨリの3代目。●駿台甲府高等学校美術デザイン科、山梨県立宝石美術専門学校・宝石貴金属加工学科専攻卒業。●山梨県知事認定宝石加工ジュエリーマスター。最年少で甲州水晶貴石細工(経済産業大臣指定伝統的工芸品)の伝統工芸士の認定を受ける。●やまなしグッドデザイン賞、山梨県知事賞、甲府市長賞受賞などの受賞歴多数。●山梨県立宝石美術専門学校の非常勤講師を務める。●Koo-fuプロジェクト2008、2009、2010、Koo-fu Yprojectに参加。

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