更新日:2025年2月25日
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加藤 健氏
養鶏業をひとりで懸命にがんばっている父、政彦さんの姿を幼い頃から見てきた健さんは、政彦さんが丹精こめて育てた甲州地どりを、もっと世の中に広めるための手伝いをしたいと思い、今から21年前、大学を卒業してすぐに家業に入りました。現在、甲府市の「甲州地どり市場」の運営を手がけている健さんに家業への思いや、甲州地どりの魅力などを伺いました。
「僕がまだ小学生の頃、父は鶏を飼いながら塾の先生をしていました。ですから幼い僕は父の本業を知らずに育ったんです。僕が大学に行っている頃から、甲州地どりが少しずつ知られ始め、父が養鶏一本でやり始めたと聞きました。父はここまで、ひとりでがんばっていたんです。せっかく父ががんばって良い鶏をつくってきたのだから、できれば僕も一緒にやりたい、父がつくった甲州地どりをもっと世の中に広める手伝いがしたいと思い家業に入りました」と健さん。当時の生産量は今の3分の1くらいでしたが、お客さまからいただく「美味しかった」の言葉を励みに健さんは仕事に向き合いました。「僕が家業に入ってすぐに販路に広がっていったわけではありません。父の背中を見ながら、どんな感じで広げていくのがいいのか、地道に考えながら仕事を続けていきました」と振り返ります。
美味しい鶏があるという話を聞いて来た方や、実際に食べて味に惚れ込んだ方が買いに来てくれることが増える中で、健さんはひとつの結論に達したと言います。「僕らも美味しいものを見つけると、人に教えたくなりますよね。それに、知らない人に進められるより、信頼できる人から「美味しいよ」と教えてもらう方が信じられると思います。だから僕もそういう形で広めていきたいと思ったんです。それで「できる限り営業をしない営業」というひとつの結論に達しました。お客さまに見つけていただけるような良いものを一生懸命につくり、見つけていただいた時にしっかりご提供できる体制を整えていこうと考えました。もちろんアニマルウェルフェアという観点からも考えを深め、甲州地どりという大事なブランドを信頼される形で守り続けることは、どんな時も心がけています」。自分なりの方向性を見出した健さんは、それまで一般の方は購入しにくく、気軽に食べるのも難しかった甲州地どりを身近なものにしていきたいと考え、2011年に「甲州地どり市場」を甲府市にオープン。精肉や加工品が揃う物販コーナーと甲州地どりを使ったメニューが楽しめる軽食コーナーを設けて、甲州地どりの魅力の発信を開始しました。
「甲州地どり市場」では精肉だけでなく、甲州地どりを使った多彩な加工品も揃っています。精肉は冷蔵や冷凍が必要ですが、常温で扱える加工品をつくることで、イベント等でも販売しやすく、インバウンドをはじめとする観光客のお土産品としての需要も高まることが期待できます。そしてその加工品はできるだけ県内企業に製造を依頼し、また県産のこだわりの商品も取り扱うなど「山梨」を前面に押し出すことも大事にしています。「甲州地どりを通して、少しでも山梨県に貢献したいという思いもあり、そのための取り組みをいろいろ考えて実行しています」と話す健さん。軽食コーナーで提供しているメニューも、物販コーナーで売っている商品を自宅で食べる時のヒントになるように工夫されています。
甲州地どり市場で、シンプルに塩をかけただけのやきとりをいただきました。一口ほおばった瞬間、口の中に豊かな風味が広がり、噛むほどに凝縮された旨味があふれてきて、その美味しさに驚かされました。軽食コーナーでは他にも、甲州地どりのガラを6時間煮込んだコラーゲンたっぷりの塩ラーメンに、甲州地どりの煮卵と低温調理した鶏ハムをトッピングした「コラーゲンラーメン」、甲州地どりの旨味がストレートに伝わる塩味の「鉄板焼き」、手羽元が丸々1本入った「甲州地どり腕っぷしカレー」などのメニューが揃っています。
「他の鶏肉との違いが1番わかるのがムネ肉です。一般的な鶏は姿勢が横向きなのでムネ肉が厚いですが、甲州地どりはシャモの血が入っているため姿勢が縦型なのでムネ肉が薄いです。だから食感や味わいに違いがあるんですよ。ご家庭で調理するなら、まずは塩焼きで楽しんでみてください。骨付きの部位は良いダシが出るので煮込み料理がオススメです。健康に育った鶏は、食べた人の健康にもつながります。これは明確に言えるんじゃないかなと思っています」と健さん。「これからも甲州地どりの美味しさを追求し、広めていきたいです」と話すその表情からは、甲州地どりへの深い愛情が伝わってきました。