ページID:112266更新日:2024年1月5日

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No.0539馬乗山2号墳-須恵器の中を覗いてみよう-

 馬乗山古墳は、甲府盆地南東縁に連なる曽根丘陵の東端に位置しており、2つの古墳からなります。中央自動車道境川パーキングエリアの建設工事に伴い、1980(昭和55)年に発掘調査が行われました。

 5世紀の中ごろに造られた円墳である1号墳からは、鉄剣や鉄刀、鉄鏃などが見つかりました。また、5世紀後半に造られた前方後円墳である2号墳からは、須恵器や土師器が見つかっています。

 今回は、須恵器の甕に注目してその作り方について考えてみます。

馬乗山2号墳の遺跡トピックス No.0275

須恵器については N0.0185N0.0247

所在地:笛吹市境川町藤垈

時代:古墳時代中期

報告書:山梨県埋蔵文化財センター調査報告書第5集

調査機関:山梨県埋蔵文化財センター

馬乗山2号墳の須恵器を観察しよう

 馬乗山2号墳から見つかった須恵器は、このような形の甕の一部です。土器の胴の部分であると考えられます。

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考古博物館に展示されている一の沢遺跡出土の甕

 

 さっそく須恵器を観察してみましょう。

 灰色をしていて硬いです。外側には平行な線が何本も入っています。

 内側も見てみましょう。内側には、直径の異なる円を重ねた形の跡がいくつも残っています。

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 須恵器胴部破片の外側 同じ破片の内側

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 こんな跡が残っています(右側が土器の内側、左側が外側)

 

 この線や円はなんの跡なのでしょうか?

 実は、この跡は須恵器を作るときに使った道具の跡なのです。

 須恵器は、ロクロを回しながら、粘土を積み上げて形を作ります。特に大きな甕などでは形を作ったあとに、内側に当て具という道具を添えて、外側から叩き板で叩いて作る技法があります。このときにつく跡が線や円の正体です(タタキ目と呼びます)。

 当て具は、丸に把手のあるきのこのような形をした道具で、土や木でできたものが発見されています。九州大学筑紫キャンパス遺跡から見つかった当て具は木製で、土器に当たる部分が同心円に彫り込んで作られていました。また、把手は丁寧に加工して作られています。

 叩き板は羽子板のような形をした道具で、木製のものが見つかっています。九州大学筑紫キャンパス遺跡では木目に直交するように彫り込みを入れたものが見つかっています。彫り込みは木目が浮き出て格子状になっており、この叩き板を使って土器を叩くと、格子文のような跡がつきます。また、当て具と同じように、持ち手の部分は丁寧に加工されています(九州大学埋蔵文化財調査室 2021)。

 他にも、木目に平行に彫り込みがあり、使うと平行のタタキ目が土器に残る叩き板も見つかっています(石野ほか 1991)。

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九州大学筑紫キャンパス遺跡出土の当て具と叩き板(九州大学埋蔵文化財調査室 2021より転載)

 当て具や叩き板を使って土器を叩くことで、粘土どうしを接着させてその中の空気を追い出し、土器の厚さを均一にすることができます。また、土器の形を整えるという目的もあったと考えられています(横山 1980)。

もう一度観察!

 土器に残されている跡を観察することで、作業の仕方や、使われていた道具を知ることができます。ここで、もう一度馬乗山2号墳の須恵器を観察してみましょう。

 馬乗山2号墳の須恵器の外側には、幅が5cmほどを単位にタタキ目が残されています。こちらも、当て具と同じようにずらしながら土器を叩いていたので、重なって残されています。

 また、内側には直径約4.5cmの当て具の跡が残されています。叩くときに当て具をずらしながら叩いていたので、同心円状のタタキ目は重なるようについています。

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 四角く囲ったところが叩き板の跡です 丸で囲んだところが当て具の跡です

 同じ古墳から見つかったものの中にも、使用した道具が違うものがあります。別の破片を見てみましょう。

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 土器を叩いたときに重なって当てられていたため、叩き板の大きさはよく分かりませんが、タタキ目は先ほどの破片よりも細く、平行な線のみになっています。

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 当て具の直径は同じくらいですが、彫り込みの間隔が広くなっています。

 異なる道具が使われているので、はじめに見た須恵器とは違う人が作ったものかもしれません。異なる道具が使われているので、はじめに見た須恵器とは違う人が作ったものかもしれません。

 土器を観察することで、その土器がどのように作られたのか知ることができます。博物館では、展示されている土器の外側は見慣れているかもしれませんが、内側にも情報がたくさんあります。博物館に行ったら、どんな道具を使って作られたのか観察してみてくださいね。

 

参考文献

横山浩一 1980 「須恵器の叩き目」『史淵』117 pp.127-155 九州大学文学部

金関恕 佐原眞編 1986 『弥生文課の研究 第3巻 弥生土器1.』 雄山閣出版株式会社

石野博信 岩崎卓也 河上邦彦 白石太一郎編 1991 『古墳時代の研究 第5巻 生産と流通2.』 雄山閣出版株式会社

九州大学埋蔵文化財調査室 2021 『九州大学埋蔵文化財調査室報告第6集 九州大学筑紫キャンパス遺跡群(御供田遺跡)総括報告書2ー古墳時代・古代・中世編ー』九州大学埋蔵文化財調査室

 

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