更新日:2025年9月4日
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山梨県野菜共進会最優秀賞・特別賞(一重スイートコーン)を受賞。山梨県甲府市二川地区に広がる菊島農場では、驚くほど甘く、大きなスイートコーンが育てられています。かじればみずみずしく、まるでフルーツのような甘みの秘密は、緻密な栽培管理と土づくり、そして地域に根ざした知恵と工夫にありました。
山梨県甲府市の二川地区にある菊島農場は、スイートコーンに、ナスや米なども組み合わせた多品目農業を展開しています。この地域では、約50年前から水田の裏作として野菜づくりが広まりました。
「当初はホウレンソウやコカブ等の葉根菜類に取り組みました。その後、品薄の時期のある品目に着目し、レタスやカリフラワーなどを作りはじめました。野菜栽培がまだ普及していない時代だったので、地域の仲間と自分たちでお金を出し合い、『そさい研究会』を立ち上げて、品種の試験や土地に合った育て方を模索し、月例の報告会で結果を共有していました」と語るのは、菊島農場・菊島建(たつる)さん。特にスイートコーンは出荷の主力になる380g以上の2Lサイズのものを効率よく育てるために、研究と工夫が重ねられました。より甘みが強く、早出しが可能で房の大きい品種はなにかー。地域で試作検討を重ね、現在は独自に選定した品種「ミルフィーユ」を栽培しています。
「この辺りはもともと養蚕地帯でした。私は13歳のときに父を亡くし、母と二人で養蚕と米作りをしていたんです。でも年3回の蚕の管理は大変で、もっと効率のよい農業ができないかと考えたときに、水田の裏作として野菜を作ることを始めました」(建さん)
水田の裏作で野菜を育て、収穫後は再び水田として米を作る。このスタイルは、米だけでは収益が少ないという課題を補う方法として広がっていきました。「地域の人たちにも賛同してもらって、地域全体で野菜づくりに取り組むようになったんです。販売経路の開拓や価格の設定も当時はすべて自分たちで行いました。県外の市場に直接交渉しに行ったこともありますが、それがとても楽しかったですね」と建さんはにこやかに振り返ります。
そして、数ある野菜の中でも、とくに地域との相性が良かったのがスイートコーン。日照時間が長く、春先から気温が上昇する盆地特有の気象条件を利用した早出し栽培により、2月~6月でスイートコーンをつくり、収穫後に水を張って田植えをすることでスイートコーンと米の二毛作を行うことができます。つくり方として、かつても今も変わらないのは、堆肥を入れるなどの土づくりに力を入れていること。「収穫したスイートコーンの茎や葉を草刈り機などで細かく刻んですき込み、植物体を土に還して肥料としているほか、養分が過剰にならないように施肥にも気を配って土づくりを行なってきました」と建さんは教えてくれます。
近年の菊島農場で、スイートコーン作りの中心を担うのは、2013年に新規就農した娘婿の和秀さんと奥様の和さん。かつてはシステムエンジニアとして働いていた異色の経歴を持つ和秀さんは、前職で培ったデータ分析スキルを活かして、収穫期や価格変動を分析。それらを作付け計画に反映するなど、独自のアプローチで安定した野菜づくりを実現しています。
地域の土と共に育てられる菊島農場のスイートコーン。その裏側には、データと経験、そして人とのつながりによって築かれた丁寧な営みがありました。
次回の後編では、具体的な栽培管理の工夫や直接販売への取り組み、そして未来を見据えた農業の姿に迫ります。
── 後編へつづく。