更新日:2025年12月25日
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身延町曙(あけぼの)地区の風土で栽培された大豆を種豆とする「あけぼの大豆」。かつて地元では「十六寸(とうろくすん)」ともいわれ、10粒並べると六寸(18cm)になるというほどの大きな粒と、濃厚な甘味が特徴で、大豆や枝豆として利用されています。『おぉまめまる屋』の望月房子さんは、独自の土壌改良と自然由来の肥料や循環型農法を駆使し、「父の枝豆を超えたい」という強い想いのもと、よりおいしいあけぼの大豆を作り出すための試行錯誤を続けています。
栽培を始めて2年ほど経った頃から、少しずつ大きく甘いあけぼの大豆が育つようになったそう。さらに3年目には、豆の出来がぐんと良くなったといいます。それでも房子さんは満足せず、毎年少しずつ栽培方法を見直し、改良を重ねてきました。

その一つが肥料の探求。豆の成長に欠かせないカルシウムやマグネシウムの肥料として、当初は化成肥料を使っていたと言いますが、「できるだけ自然に近い肥料で育てたい」との思いから、新しい方法を模索し始めます。
『昨年は、マヨネーズ工場から出る卵の殻を砕いて肥料として活用しました。さらに今年は、浜松のさつまいも農家の方から「牡蠣殻石灰を使って、海由来のミネラル分を畑に加えている」と聞き、牡蠣殻石灰を取り扱う静岡県・清水市のホームセンターまで足を伸ばして、牡蠣殻石灰を仕入れてきて、試してみました。自然の力を生かしながら、作物にも人にもやさしい方法を模索したいですね。』と笑顔で聞かせてくれます。
このように、房子さんの畑では、環境にも人にも優しい農法を実践。「使い切る」「戻す」という循環型の流れを実践していくことにもこだわりを持ち、地域の湯葉の製造直売所から出るおからを再利用するだけでなく、収穫後の大豆の株を焼いて炭にし、再び畑へ戻す取り組みも行っています。
こうした取り組みと、ぼかし肥料にもみ殻燻炭を使っていることから「やまなし4パーミル・イニシアチブ認証」を取得。この認証は、土壌に炭素を貯留して大気中の二酸化炭素を削減し、地球温暖化の抑制に貢献する農法に与えられるものです。房子さんの畑では、自然と共生しながら脱炭素社会の実現を目指す取り組みが日々進められています。
あけぼの大豆の枝豆の収穫は、毎年10月中旬ごろに行われます。刈払い機で豆の株を刈り取り、機械で叩いて実を落とします。枝豆はしっかりと枝に実をつけているため、収穫には機械の力が欠かせません。
収穫された房子さんのあけぼの大豆は直売が中心。友人や地域の知人を通じた口コミ、そしてインスタグラムを見て訪れる人たちのもとに届けられています。
ところで、一般に余り知られていませんが、枝豆と大豆は収穫時期が違うだけで、同じ大豆の株から収穫されます。青く未成熟なうちに収穫すると枝豆、茶色く成熟した後に株ごと収穫し、乾燥させると大豆となります。昨年、枝豆が少し残ってしまい、大豆として収穫したことをきっかけに、房子さんは新しい取り組みを始めました。製粉機を使って自家製のきなこを作り、販売を試みたのです。

「南アルプス市の『cafe roppe カフェロッペ』さんと連携し、一般的にはあまり出回っていない粗挽ききなこを開発しました。この粗挽ききなこは、大豆を粗く挽くことで口の中にほんのりとした粒の食感が残るのが特徴です。挽きたては市販のきなことはまったく違う香りと甘みがあり、豆本来の旨みを感じられる味わいになっています」と房子さん。
小さな畑から生まれた新商品は、あけぼの大豆の可能性を広げる新しい一歩となっています。
あけぼの大豆の栽培を始めて5年、房子さんには「いつかは、父の枝豆を超えてみたい」という強い思いがありました。そのお父様は先の6月に他界。「うまい」と言わせることは叶わなかったといいます。

「それでも昨年、父は無言で私たちの枝豆を黙々と口に運んでいました。その姿が答えなのかな?と思っていますが、今年こそ粒も大きくて甘みが濃厚な、美味しいあけぼの大豆になったのに!という歯がゆい思いが残りました。父に負けないよう、追い越せるよう、これからもひたむきにやっていくしかないですね」
房子さんの美味しいあけぼの大豆づくりへの挑戦は、まだまだ続きます。