更新日:2025年12月17日
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身延町曙(あけぼの)地区の風土で栽培された大豆を種豆とする「あけぼの大豆」。かつて地元では「十六寸(とうろくすん)」ともいわれ、10粒並べると六寸(18cm)になるというほどの大きな粒と、濃厚な甘味が特徴で、大豆や枝豆として利用されています。『おぉまめまる屋』の望月房子さんは、独自の土壌改良と自然由来の肥料や循環型農法を駆使し、「父の枝豆を超えたい」という強い想いのもと、よりおいしいあけぼの大豆を作り出すための試行錯誤を続けています。
口コミで人気を博す「おぉまめまる屋」のあけぼの大豆。現在、望月房子さんご夫婦が管理するあけぼの大豆の畑は、今から約20年前に房子さんのお父様が拓いた畑でした。房子さんのお父様は「あけぼの大豆産地フェア」の開催など、地域の特産として根付かせたいという思いのもと、あけぼの大豆の認知拡大に貢献した人物。畑を継いだ房子さんご夫婦は、今秋も甘く濃厚な枝豆となる、あけぼの大豆を実らせています。

「私が本格的に畑に向き合うようになったのは、5年ほど前に夫が体調を崩したことがきっかけでした。リハビリを兼ねて何かできることをと考え、畑に立ったのが始まりでした」
こう聞かせてくれる房子さん。「栽培当初は、思うような成果が出なかった」と続けます。どうすれば甘くて濃厚で、ワクワクするような味わいを引き出せるのか……。房子さんは試行錯誤を始めます。
山沿いの傾斜地に位置する曙地区の農家では、腐葉土や枯れ葉などを土に混ぜて土づくりを行うのが一般的。しかし、川沿いの比較的平坦な地域にある房子さんの畑は曙地区と土質が異なるため、せっかく混ぜてもすぐに腐ってしまい、肥料として生かすことが難しかった といいます。

そんなとき、農業をしている知人から「土壌改良も兼ねて ぼかし肥料を試してみては」と助言をもらいます。ぼかし肥料とは、米ぬかや房子さんが庭でご主人と炊いて作る自家製もみ殻くん炭、油かすなどを混ぜて発酵させて作る有機肥料のこと。房子さんは、これに近隣の身延町名産の湯葉の生産直売を行っている「みのぶ ゆばの里」で湯葉を作る際に大量に出るおからを加えることを思い付きます。
「おからは大豆からできているので、“大豆を育てる畑に大豆を返す”ような感覚で使っています。もともと廃棄されるものを再利用できるのもいいと思いました」と房子さん。このぼかし肥料は、毎年12月から1月にかけて仕込み、3月頃までじっくり熟成させてから畑に混ぜ込みます。そして毎年6月にあけぼの大豆の作付けを行います。
あけぼの大豆の栽培では、花が咲く8月10日頃(お盆前)までに、いかに株を大きく育てるかが重要とされています。房子さんの畑では、種をまいたあと芽が出て順調に育ってきたとき、7月上旬から中旬、そして8月上旬にかけて、と、機械を使って2〜3回ほど土寄せを行います。
「これは、株のまわりに土を寄せて茎の部分に土をかぶせることで、そこから新しい根を出させ、根をより強く大きく育てるためです。根の張りが良くなるほど、株全体がしっかりと成長してくれます」

土寄せに加えて、肥料の管理も非常に慎重に。房子さんはある程度株が育つと、肥料を控えめにしているそう。
「この時期に肥料を与えすぎると株ばかりが大きくなり、肝心の実がつかなくなってしまうのです。さやがつき始める8月頃になると、今度は実をしっかり膨らませるために再び肥料を与えています」
そして、花が咲き始めたら株を刺激しないように気をつけながら、必要に応じて病害虫の防除だけを実施。こうした細やかな管理の積み重ねが、風味豊かで甘みのあるあけぼの大豆を育てる土台となっているのです。
── 後編へつづく。