更新日:2025年10月10日
TOP > 美しく整った棚下に豊かな実り。匠が育てる「貴陽」の物語【前編】
ここから本文です。
山梨県果樹共進会最優秀賞・農林水産大臣賞を受賞。安定した収穫量と高い果実の質を実現し続ける浅川豊さんのすもも園。その豊かな実りを支えるのは、作業効率に優れる棚栽培。かつてのぶどう畑をすべてすもも園に切り替えて30年、この地域で育まれてきたすももの棚栽培が、風味豊かで大玉のすもも「貴陽」をつくり出しています。
南アルプス市に広がる浅川さんのすもも園。ここには、30年ほど前までぶどう棚が広がっていました。
「もともとは水田で、減反政策の際に果樹に切り替えたと聞いています。父の代ではぶどう「甲斐路」と桃を中心に栽培し、自分は兼業農家で勤めながら畑もやっていました。ところが父が亡くなったときに作業の多さに手が回らなくなってしまったのです」と浅川さんは話します。
ぶどう栽培をやめる決断をし、「次に何を育てようか」と模索していたときに出会ったのがすもも「貴陽」でした。
当時はまだ珍しかった品種「貴陽」に出会い、苗木を分けてもらって栽培をスタートしました。親戚や家族の手を借りながら、少しずつ畑をすもも園に変えていきました。
「この辺りのすももは、立木ではなく棚栽培です。樹の高さを抑えることで脚立を使わずに作業ができ、収穫もしやすくなります。この栽培方法は、当時すももの栽培がもっとも進んでいた落合地区(南アルプス市旧甲西町)で学びました。いまではこの方法じゃないと考えられないですね」と浅川さんは笑います。
「棚栽培」とは、樹をまっすぐ立てるのではなく、棚面に沿って主枝を横に広げ、果実をならせる枝を棚に這わせて効率よく配置する方法です。立木をあえて棚にする理由は、作業効率が上がることや、果実の品質が良くなることだといいます。
そしてこの棚を作るために大変なのが冬場の剪定です。
「枝が棚全体に均等に広がるように考えながら剪定をします。うちのすもも園は全部でおよそ50アール。これにはなかなか時間がかかりますね。それと、また、実がなるところが一列になるように、どういうふうに枝を残していくか、ということも考えながら剪定を行っています。そうすることで、収穫時の作業効率がぐんと上がるんですよね」
剪定を終えた春から収穫の時期まではいとこや娘さんも助太刀に加わってくれるという浅川さんのすもも園。こうしてびっしりなったすももがたくさんの人に届けられています。
また、棚栽培の利点は、作業効率のみではなく、果実そのものにも違いが出るといいます。棚にして枝を平面に配置すると日当たりや風通しが良くなり、光合成が促されたり、病気や虫の発生が減ったりして、果実の品質が高まります。また、樹が上に成長しようとする勢力を抑えることによって栄養が実にしっかりと行き渡るようになるという浅川さん。このため、浅川さんの貴陽は、300グラム近くになるそうです。
加えて、果実の表面に白い粉のような「ブルーム」がしっかりとのる点も浅川さん の貴陽の特徴 です。これは果実自身が身を守るために出す成分で、新鮮さの証でもあります。「ブルームが果実全体にきれいについていると、思わず嬉しくなりますね」と浅川さんは目を細めます。