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ページID:124895更新日:2026年3月10日
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歴史を振り返ると、日本列島は絶え間なく自然災害に襲われている。当然山梨にも多くの災禍の歴史がある。繰り返される地震、噴火、風水害。次に来る災害に備えるために、過去の災禍から学び、新しく分かってきた知見を知っておくのは役に立つ。その糧に多少なりともなるような防災、減災にちなんだ話をしていきたい。徒然なるままに。
(気象予報士・保坂悟=甲府市在住)

↑東日本大震災発生翌日の山梨日日新聞紙面。県内では中央市と忍野村で震度5強を観測した。地震の規模は発生当初はM8.8の発表だった(後日M9.0に修正)
忘れてならない数字3.11。15年前の2011年3月11日にその数字は歴史に刻まれた。その日、いつもと同じく日が昇り普通の一日が始まった。お昼が過ぎ、下り坂の空には雲が増えてきていた。午後2時46分。東北地方の太平洋側三陸沖の海底地盤が弾けた。海底の滑りは次々と連鎖し、短時間に南北500km、東西200kmというとてつもなく広い海底地盤が動いた。地上では巨大地震が発生、大津波も襲来した。古里の光景は一変した。当たり前の日常が、いきなり奪われた。
東日本大震災。正式な地震名は東北地方太平洋沖地震。地震の規模は日本の観測史上最大となるM(マグニチュード)9.0。広範囲な激しい揺れや大津波で沿岸地域は破壊され、死者・行方不明者は2万人を超えた。東京電力福島第一原子力発電所はメルトダウン、放射能汚染を起こす大事故となった。大勢の住民が突然「避難民」になり、日常が失われた。未曾有の大災害が東日本を襲った。
当時、南アルプス市のある分庁舎3階会議室で会議中だったが、突然の横揺れで会議は中断。揺れは長引き次第に大きくなり、出席者は慌てて屋外に飛び出した。とっさに頭に浮かんだのは「ついに東海地震が来たか・・・」。思わず身構えた。

↑東日本大震災の発生を受け、防災ずきんをかぶり避難する児童たち=甲府市内の小学校(2011年3月11日、山梨日日新聞提供)
仕事場でも帰宅後も、テレビ報道に釘付けだったが、現地の状況を伝えるテレビ映像に何回も流れたテロップを今でもよく覚えている。「○○○市、壊滅」。「壊滅」というインパクトある単語に「怪獣映画ならともかく、現実の話として街が壊滅とはいったい何なのだ」。言いようもない不安に心が落ち着かなかった。
東日本大震災時の山梨の最大震度は5強だった。県内の被害は限定的で、山梨は支援する側に立った。しかし、山梨が支援される側になるリスクの大きい巨大地震が今、差し迫っている。東日本大震災と同じ海溝型の南海トラフ巨大地震である。3.11は、南海トラフ巨大地震への備えを思い起こす日でもある。
南海トラフ巨大地震による山梨県内の被害は、県が令和5(2023)年5月に公表した地震被害想定調査によると、最も悪いケースで、最大震度7、死者3,019人、建物全壊6万17棟、一週間後の避難者14万329人などとなっている。発生すれば、山梨の災害史上、最大の惨禍になる数字がずらりと並ぶ。誰一人経験のない恐ろしい事態だ。
ここで「最も悪いケース」を掘り下げたい。まず知っておくことは、南海トラフ巨大地震とは、3つのエリアを震源域とする巨大地震の総称のこと。その3つは東海地震、東南海地震、南海地震。1970年代半ばから、明日にも起きると警戒された東海地震は、この南海トラフ巨大地震の中の一つをクローズアップしたものだ。
最近は「東海地震」という単独名が主役的に聞かれなくなったが、これは南海トラフ全体での巨大地震リスクが高まり、全体警戒のために南海トラフ巨大地震という総称が使われるようになったためだ。東海地震の危険が薄れたわけではない。山梨にとって今でも一番危険なのは、震源が山梨に最も近いこの東海地震が発生した時で、誤解を恐れずに言えば、南海地震や東南海地震の場合は、山梨の被害は限定的になる。山梨県の被害想定での「最も悪いケース」は、東海地震が起きた時で、特に陸に近いところまで震源域が入り込むほど危険になる。
南海トラフ巨大地震は、歴史的には3つまたは2つの組み合わせで起きている。直近の南海トラフ巨大地震は1944年12月7日の昭和東南海地震と2年後1946年12月21日の昭和南海地震の2つの組み合わせ。東海地震はこの時「1回休み」となっている。直近で東海地震が起きたのは1854年12月23日の安政東海地震。つまり東海地震は170年以上沈黙が続いている。
発生が迫っている次の南海トラフ巨大地震。歴史的な周期性をみると「いつか来る」のではなく「必ず来る」と言える。そしてその時、東海地震が「また休み」となるとは考えにくい。山梨に最も危険な東海地震。安政東海地震では、山梨も震度7の揺れがあったとされている。南海トラフの「南海」という語感に惑わされることなく、次の南海トラフ巨大地震では、高い確率で東海地震も発生する覚悟をしておいた方がよい。「最も悪いケース」は、最も現実味を帯びているのである。
<南海トラフ>
トラフとは、海溝ほどは深くないが海底に連なる谷のような長い窪地。南海トラフは駿河湾から東海道沖を通り、紀伊半島沖、四国沖にかけて続く長大な窪地を指す。この窪地は、太平洋の海底をフィリピン側から北上するフィリピン海プレートが、日本列島やユーラシア大陸を乗せているユーラシアプレートの下に潜り込んでいく際に造られる。引きずり込まれるユーラシアプレートには歪みエネルギーが刻々と貯まり、それが限界を超えるとプレートが跳ね上がり、巨大地震が発生する。東海地震は東海道沖が震源に、東南海地震は紀伊半島東南沖が震源に、南海地震は四国沖が震源になる。