○山梨県自殺対策に関する条例

平成二十八年四月二十二日

山梨県条例第三十七号

山梨県自殺対策に関する条例をここに公布する。

山梨県自殺対策に関する条例

目次

前文

第一章 総則(第一条―第十条)

第二章 自殺対策に関する基本的施策(第十一条―第十五条)

第三章 自殺対策に関する体制の整備等(第十六条―第十九条)

第四章 自殺未遂者等の支援等(第二十条・第二十一条)

附則

本県は、富士山、八ヶ岳、南アルプスなどの山々、緑あふれる森林、白く輝く清らかな水、身近な里山など豊かな自然に恵まれ、県民及び本県を訪れる人々は、その恩恵を享受しながら、良好で快適な生活を営んでいるが、その一方で、自殺が多発する場所を抱えていることもあり、本県の自殺死亡率は、全国的にみて、極めて深刻な状況にある。

国の自殺総合対策大綱において、「自殺は、その多くが防ぐことができる社会的な問題」としていることから、本県においても、これまで、県、国、市町村、自殺対策関係団体等が連携して自殺対策に取り組んできた。今後も、県民及び本県を訪れる一人ひとりに自殺による悲劇、また、その家族及び周りの人々に悲しみや生活上の困難をもたらすことがないよう、さらに社会全体で自殺対策に取り組んでいく必要がある。

こうしたことから、県民から負託を受け、二元代表制の一翼を担う県議会は、ここに、将来にわたって誰も自殺に追い込まれることのない、安全で安心して生きることができる社会の実現を目指し、この条例を制定する。

第一章 総則

(目的)

第一条 この条例は、自殺対策基本法(平成十八年法律第八十五号。以下「法」という。)の趣旨を踏まえ、自殺対策の実施に関し、基本理念を定め、県及び県民等の責務を明らかにするとともに、県の施策の実施に関し必要な事項を定めることにより、県が、国、市町村及び県民等と一体となって自殺対策を総合的かつ計画的に推進して、自殺の防止を図り、あわせて自殺者の親族等の支援の充実を図り、もって全ての県民が明るく希望に満ち安心して暮らせる地域社会の実現に寄与することを目的とする。

(定義)

第二条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

 自殺者の親族等 次に掲げる者をいう。

 自殺者の親族

 自殺未遂者の親族

 その他自殺者又は自殺未遂者と社会生活において密接な関係を有する者

 自殺対策関係団体等 自殺の原因となり得る問題の解決のための支援又は自殺対策に関する活動を行う民間団体、医療機関、地域福祉の推進を図ることを目的とする団体その他の関係者をいう。

 県民等 県民、事業主及び自殺対策関係団体等をいう。

(基本理念)

第三条 自殺対策は、全ての人がかけがえのない個人として尊重されるとともに、生きがいや希望を持って暮らすことができるよう、生きることを包括的に支援することを旨として実施されなければならない。

2 自殺対策は、自殺が個人的な問題としてのみ捉えられるべきものではなく、その背景に様々な社会的な要因があることを踏まえ、社会的な取組として実施されなければならない。

3 自殺対策は、自殺が多様かつ複合的な原因及び背景を有することを踏まえ、単に精神保健的観点からのみならず、自殺の実態に即して実施されるようにしなければならない。

4 自殺対策は、施策の対象の特性に応じて、自殺の事前予防、自殺発生の危機への対応及び自殺が発生した後又は自殺が未遂に終わった後の対応(自殺者の親族等に係る対応を含む。)の各段階を捉えた効果的な施策として実施されなければならない。

5 自殺対策は、保健、医療、福祉、教育、労働その他の関連施策との有機的な連携が図られ、総合的に実施されなければならない。

6 自殺対策は、県、国、市町村及び県民等の相互の密接な連携及び協力の下に実施されなければならない。

(県の責務)

第四条 県は、前条に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、自殺対策を総合的かつ計画的に策定し、及び実施するものとする。

2 県は、自殺対策の策定及び実施に当たっては、国、市町村及び県民等と連携して取り組むものとする。

(県民の責務)

第五条 県民は、基本理念にのっとり、自殺対策に関心と理解を深めるよう努めるとともに、自殺対策に関する活動を自主的に行うよう努めるものとする。

2 県民は、自ら心の健康の保持のための取組を積極的に行うよう努めるものとする。

3 県民は、県が実施する自殺対策に協力するよう努めるものとする。

(事業主の責務)

第六条 事業主は、基本理念にのっとり、その雇用する労働者の心の健康の保持を図るために必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

2 事業主は、県が実施する自殺対策に協力するよう努めるものとする。

(自殺対策関係団体等の責務)

第七条 自殺対策関係団体等は、基本理念にのっとり、それぞれの活動内容の特性に応じて自殺対策に取り組むよう努めるとともに、自殺対策関係団体等相互間の連携を図るよう努めるものとする。

2 自殺対策関係団体等は、県が実施する自殺対策に協力するよう努めるものとする。

(名誉及び生活の平穏への配慮)

第八条 自殺対策の実施に当たっては、自殺者及び自殺未遂者並びに自殺者の親族等の名誉及び生活の平穏に十分配慮し、いやしくもこれらを不当に侵害することのないようにしなければならない。

(自殺対策計画)

第九条 知事は、法第十三条第一項の規定により同項に規定する都道府県自殺対策計画(以下この条において単に「自殺対策計画」という。)を定めるに当たっては、県民の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとする。

2 知事は、自殺対策計画を定めたときは、遅滞なく、これを公表するものとする。

3 前二項の規定は、自殺対策計画の変更について準用する。

4 知事は、毎年、自殺対策計画に基づく自殺対策の実施状況を取りまとめ、公表するものとする。

5 知事は、自殺対策計画に基づく自殺対策に関する検証及びその成果の活用を図るために必要な体制の整備を行うものとする。

(財政上の措置)

第十条 県は、自殺対策を実施するために必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。

第二章 自殺対策に関する基本的施策

(県民の理解の増進)

第十一条 県は、教育活動、広報活動等を通じて、自殺対策に関する県民の理解を深めるとともに、自殺対策が社会全体で推進されるよう必要な施策を講ずるものとする。

(自殺対策関係団体等の活動の支援)

第十二条 県は、自殺対策関係団体等が行う自殺対策に関する活動を支援するために必要な施策を講ずるものとする。

(山梨いのちの日)

第十三条 自殺対策の重要性を認識し、自殺対策に関する気運を醸成するため、山梨いのちの日を定めるものとする。

2 山梨いのちの日は、三月一日とする。

3 県は、第一項の趣旨を踏まえ、山梨いのちの日から一月間、県民の自殺対策に関する関心と理解を深め、自殺対策に関する活動を促す取組を集中的に行うものとする。

(調査研究の推進等)

第十四条 県は、自殺対策の総合的かつ計画的な実施に資するため、自殺の実態、自殺の防止、自殺者の親族等の支援の在り方、地域の状況に応じた自殺対策の在り方、自殺対策の実施の状況等又は心の健康の保持増進についての調査研究及び検証並びにその成果を活用するとともに、自殺対策について、先進的な取組に関する情報その他の情報の収集、整理、分析及び提供を行うものとする。

2 県は、前項の規定による調査研究の推進に当たっては、国との連携の下に行うものとする。

(自殺の多発している場所における自殺対策の推進)

第十五条 県は、国、市町村及び自殺対策関係団体等と連携して、自殺の多発している場所において自殺のおそれがある者の発見及び保護その他の自殺対策を推進するよう努めるものとする。

第三章 自殺対策に関する体制の整備等

(人材の確保等)

第十六条 県は、大学及び自殺対策関係団体等との連携及び協力を図りつつ、自殺対策に関する人材の確保、養成及び資質の向上に必要な施策を講ずるものとする。

(心の健康の保持に係る教育及び啓発等)

第十七条 県は、職域、学校、地域等における県民の心の健康の保持に係る教育及び啓発の推進、相談体制の整備、研修の機会の確保等必要な施策を講ずるものとする。

2 県は、市町村及び学校並びに県民等と連携を図りながら、児童及び生徒に対する命の大切さを実感できる教育又は啓発、各人がかけがえのない個人として共に尊重し合いながら生きていくことについての意識の涵養等に資する教育又は啓発、困難な事態に直面し、又は強い心理的負担を受けた場合等における対処の仕方を身に付けるための教育又は啓発その他児童及び生徒の心の健康の保持に係る教育又は啓発を促進するものとする。

(医療提供体制の整備)

第十八条 県は、心の健康の保持に支障を生じていることにより自殺のおそれがある者に対し必要な医療が早期かつ適切に提供されるよう、精神疾患を有する者が精神保健に関して学識経験を有する医師(以下この条において「精神科医」という。)の診療を受けやすい環境の整備、適切な精神医療が提供される体制の整備、身体の傷害又は疾病についての診療の初期の段階における当該診療を行う医師と精神科医との適切な連携の確保、救急医療を行う医師と精神科医との適切な連携の確保、精神科医とその地域において自殺対策に係る活動を行うその他の心理、保健福祉等に関する専門家、民間の団体等の関係者との円滑な連携の確保等必要な施策を講ずるものとする。

(自殺発生回避のための体制の整備等)

第十九条 県は、自殺をする危険性が高い者を早期に発見し、相談その他の自殺の発生を回避するための適切な対処を行う体制の整備及び充実に必要な施策を講ずるものとする。

第四章 自殺未遂者等の支援等

(自殺未遂者等の支援)

第二十条 県は、自殺未遂者が再び自殺を図ることのないよう、自殺未遂者及びその親族その他の自殺未遂者と社会生活において密接な関係を有する者への適切な支援を行うために必要な施策を講ずるものとする。

(自殺者の親族等の支援)

第二十一条 県は、自殺又は自殺未遂が自殺者の親族等に及ぼす深刻な心理的影響が緩和されるよう、当該自殺者の親族等への適切な支援を行うために必要な施策を講ずるものとする。

この条例は、公布の日から施行する。

山梨県自殺対策に関する条例

平成28年4月22日 条例第37号

(平成28年4月22日施行)