更新日:2021年4月12日
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こんにちは。山梨県知事の長崎幸太郎です。この度は、県議会でも大きな争点となり、また、連日のように地元マスメディアを賑わせている山中湖畔の県有地問題について、できる限り分かりやすく説明したいと思います。長文になりますが、お付き合いください。
第一に、県有地は、県民の皆さまご自身の財産です。山梨県知事である私のみならず、山梨県政に携わる者すべてが大切に守り、その価値を増進させるために努力しなければならないものです。
同時に、県民の財産はこの県有地だけではありません。県民の皆さまが汗をかいて納めてくださった税金によってまかなわれ、県庁や行政の現場が育んできた人材やノウハウといった有形・無形のものすべてが「県民資産」であると考えています。
県民資産の価値を向上させて、県民の皆さまに還元させるための取り組み「県民資産創造会議」(仮称)がまもなく始まります。
そのうえでも、県有地の適切な扱いは避けて通ることができません。
なぜなら、県有地を適切に扱うことで、山梨県の収入が増え、その収入で県民生活に役立つ政策を実施できるからです。
一部報道においては、県有地の扱いをめぐる課題が、さも「政治的な争い」であるかのごとく喧伝されておりますが、これは全く的外れな議論です。
県民の資産を適切に扱うことは「公的な問題」であり、県民全体の利益を守るための当然の行いです。
■なぜ、今、この問題を解決しようとしているか?
現在、山梨県には日本の地方自治史上もまれな「特異な契約」が存在しており、地方自治法上、「違法状態」かつ「無効状態」であることが明らかになっています。
県民資産を県民の皆さまから預かり管理する立場にある県知事としては、県民資産の価値を高め、県民の皆さまにその利益を還元させる責務があります。
そして、そのためには、違法無効状態にある「特異な契約」を「適正な状態」に修正・是正しなければなりません。これは、県知事のみならず、県庁全体、更には県議会も含めた「山梨県」の責務です。
以下に、私が県民利益を第一義に考えて、この県有地問題に対処してきた臨み方と考え方をご説明申し上げたく思います。
まず、なぜ私がいま、この問題を解決しようとしているのか、を説明いたします。
先ほど申し上げたとおり、県民資産を適正に活用して、県の収入を増やし、県民生活のための政策を実施したい。この一念であります。
県有資産を不適正に安い価格で貸し続ける現状では、本来、県民が得られるはずのお金がもらえません。
適正な価格で貸し付け、県民が得られるはずの正当なお金を受け取り、そのお金を使って、県民生活のための政策をもっときめ細かくしたいと考えています。
そうなると、県有地を貸し付ける際の適正価格がいくらなのか、が問題になってきます。適正価格のことを法律的には「適正な対価」といいます。
■県有地における「適正な対価」とは?
「適正な対価」は、「当該財産が有する時価(市場価格)」を元に算出されます。市場価格とはいえない不適正な貸付料による貸付は、地方自治法上、(条例や議会の議決がない場合には)違法・無効になります。つまり、貸付料は市場価格でなければいけません。
もし、県がこうした違法・無効状態にある県有地の貸付に気づいた場合、県にはその違法・無効状態をすみやかに是正する責務があります。
では、いま懸案となっている山中湖畔の県有地の貸付料は「適正な対価」と言えるものでしょうか。
山中湖畔の県有地の貸付料は現在、「開発前の山林原野」の土地価格を基礎に算定されたものとなっています。
ここで皆さんにお尋ねします。
皆さんもよくご覧になっている、あの山中湖畔の別荘地(県有地)は「開発前の山林原野」でしょうか?
この点に関して、賃借人であり事業者である富士急行株式会社は、山中湖畔の県有地では造成以前の昭和2年から一貫して借地法の適用がある借地契約が成立しているため、
▼山梨県は、契約の更新を拒絶することができない
▼昭和2年当時の状態である造成前の山林原野を基礎とする賃料で合意しなければならない
と主張しています。
そこで以下、このような富士急行の主張が正しいか、山中湖畔の県有地の貸付について昭和2年から借地法の適用があったのか検証します。
これまでの調査の結果、昭和42年までの山中湖畔の県有地の貸付には借地法は適用されないことが判明しています。
県民の皆さまの中には、山中湖畔の県有地の賃貸借契約は、昭和2年から始まったと理解していらっしゃる方もいるかもしれません。
ところが実は、山梨県と富士急行との間で賃貸借契約が締結されたのは、昭和42年8月が初めてでした。
それ以前は、当時の地方自治法の規定により、山梨県の財産の貸付については条例で定めることとされていました。山中湖畔の県有地は、当時の恩賜県有財産管理条例で「模範林」すなわち<公共の用に供するもの>とされており、<貸付期間が一定期間を超えてはならない>とされていました。
山梨県の富士急行に対する山中湖畔県有地の貸付も、賃貸借契約ではなく、期間を短く区切った県の「許可処分」という形で行われていました。
貸付料に関しても、例えば昭和37年当時の貸付料は、昭和42年に結んだ賃貸借契約に比べて10分の1に満たないものでした。
このように、昭和42年以前の山中湖畔の県有地の貸付は、借地法が適用されるような通常の土地賃貸借契約ではありませんでした。
また、そもそも現在に至るまで山中湖畔の県有地に存在しているゴルフ場については、借地法が適用される前提となる「建物所有目的」がありません。
以上のことから、昭和42年8月に県と富士急行との間で賃貸借契約が締結されるまでは、山中湖畔の県有地の利用に借地法の適用はありませんでした。
さらに、富士急行から県に提出された資料などによると、遅くとも昭和42年の段階で山中湖畔の県有地の造成は既にほぼ完了していたとされています。
こう考えると、昭和42年8月に新規の賃貸借契約を結ぶ際、県は「開発前の山林原野」ではなく、造成後の「現況」を基礎として適正貸付料を算定すべきでした。ここがボタンの掛け違いの始まりだったかもしれません。
■「開発前の山林原野」を基礎とした賃料算定は、果たして正当化されるか?
「開発前の山林原野」の土地価格を基礎に算定された結果、山中湖畔の県有地の貸付料は、少なくとも平成9年4月時点では、公租公課の相当額を下回る水準となっており、平成29年4月時点では、公租公課の相当額と同水準となってしまっています。
これに対して富士急行は、山中湖畔の県有地の適正な貸付料の算定は、造成前の素地(山林原野)価格を基準にすべきだと主張しています。その根拠について、「昭和2年から多大な経営資源を投じて開発・振興させてきた」ことをあげています。
富士急行が、広い意味において長年にわたり富士山麓の振興に貢献してきたことは論を待ちません。知事として、その点については高く評価し、感謝もしています。しかし、富士急行は、山中湖畔の県有地について、昭和2年から具体的にいかなる開発を行い、具体的にいくらの費用を負担したのかをいっさい明らかにしていないのも事実です。
仮に富士急行が山中湖畔の県有地(別荘地)の造成費用を負担していたとしても、極めて長い期間が経過した今日においては、すでに償却されているため、公租公課相当額程度の貸付料を正当化する理由にはならないでしょう。
複数の元裁判官が著した文献でも、「造成費の支出後相当期間が経過した後は造成費を地代に反映すべきではない」とされています。このことからも、過去に富士急行が山中湖畔の県有地の造成費用を支出したとしても、既にそれから何十年も経過しており、その費用を地代に反映することは適正とはいえません。
さらに富士急行は、安価で山中湖畔の県有地を借り、県に対して権利金を支払っていない一方で、別荘地の契約者に対しては、
▼県に支払う賃料に利益を乗せた転借料を請求している
▼転貸借地権の「販売」として、その代金を請求している。(同社運営のウェブサイト「フジヤマスタイル」より)
ことなどにより、別荘契約者から多額のお金を受け取っています。
中には1区画1200万円を超えて販売される区画もあり、すでに2300区画(約70万坪)が販売済とのことです。上記の「フジヤマスタイル」のウェブサイトによれば、平成25年1月現在、転貸借地権の販売代金は、坪あたり3万円程度であり、300坪の土地の場合には900万円程度とされています。
なお、この転貸借地権の販売代金の収受について、これまで富士急行からは県に対して、民間取引で行われるような一部の納付はおろか、具体的報告すらなされたことはありません。
以上のことから、仮に富士急行が造成費用を過去に負担したとしても、すでにその造成費用は回収されているはずなのです。
こうした経緯からも、造成されていない山林原野の土地価格を基礎とした貸付料算定を正当化する事情は見当たらないと考えます。
■県有地を借りている他の事業者はどうなるのか?
ところで、ここまでお話をすると、次のような疑問が生じるかもしれません。
〈いきなり賃料が値上がりしたら、富士急行をはじめ県有地を借りている事業者が「賃料を払えない」などの現実が起きるのではないか?〉
ごもっともだと思います。私は、その疑問に対して以下のように考えています。
県民全体の利益を守り育むべき点で、県と富士急行をはじめとする多くの事業者とは、目指すところは同じです。県有地の利用は、県民全体の利益につながることが大前提です。
現在、県有地を借りている事業者にとっては、賃料の変更に伴って経営上の障害になるケースがあるかもしれません。この点については、十分に配慮していくことを検討していきます。
(富士急行株式会社を含む事業者への配慮)
現下の厳しい事業環境下にあって、賃借人の事業運営に対し配慮することは非常に重要です。「適正な対価」の原則は歪められませんが、現実の賃料の受取りについては、さまざまな知恵を絞る必要があると考えています。例えば、事業環境が好転し、無理なく「適正な対価」を支払えるようになるまでの期間は、必要に応じ支払猶予などの支援を検討することも考えられます。
そのためにも、まずは、公平公正なルールに基づいた賃料算定が必要です。
(県有地自体の収益力の向上)
県民の利益最大化のため、県有財産を最大限に活用していくことは、県の責務です。
そのため、今後、県内外の有識者で組織する検討会を設置し、聖域やタブーを設けることなくさまざまな種類の県有資産の価値向上のためのグランドビジョンや具体策についてご提言をいただくこととしています。
県有資産のうち「県有地」に関しても、その収益力を向上させるため、県自ら地主として価値向上のための開発投資を行うなど、県有林を賃借している事業者の皆さまにとってもプラスになる取り組みを進めます。
■県・県民と事業者とがWin-Winの関係を築くには
特に山中湖畔は、富士山の麓という、世界から注目される最高のロケーションにありながら、国内有数のリゾート地である箱根や軽井沢と比較して後塵を拝し、見劣りしていることは否めません。
この原因は、箱根や軽井沢に比べて開発投資が不足していたことにあると考えています。
私は今後、県民一体となっての開発を図って参ります。
県有地や県民資産の活用方法のルールを明確化することで、「山梨にもっと投資をしたい」という機運が生まれ、新しい魅力が創造されるはずです。
しかし現状では、地主である県と借主の間の利益の帰属に関するルールが不適正・不明瞭な状態となっているために、県が県有地に対して投資を行うことへの支障となっています。例えば、貸付料が「開発前の山林原野」を基礎として算定されるとした場合、県が地主として県有地の価値向上のために県民の血税から開発投資をしても、投資の成果は全て借主のものとされ、県民には還元されない恐れもあります。こうなると県有地に対して積極的に投資を行うことは困難です。
これが公正公平なルールに基づいた貸付料算定に改まれば、
地主としての県による開発投資
→県有地の収益力の向上=県有地価格の上昇
→借主の利益増加+県・県民に還元される賃貸料の増加
というシナリオを想定することができるようになります。県有地を巡る県・県民と借主がウィン・ウィンの関係を築くことができるはずです。
誰の目にも明らかで納得のいく県有地利用の方法とルールを確立していくことが、山梨の未来のために必要なことだと、おわかりいただけたと思います。
Q1 県有地は誰のもので、どのくらいの面積がありますか?
県有地はすべて県民のものです。広さは東京ドーム33,843個分に当たる約158,233㏊あります。このうち、訴訟で問題となっているのは約440㏊です。
Q2 住民訴訟では、何を争っているのですか?
まず、訴訟の対象となっている県有地が「適正な対価(金額)」で貸し付けられていたのかが問題となっています。
もし、「適正な対価」で貸し付けられていなかったとしたら、過去の知事(平成15年以降に知事を務められた方で、亡くなられた方は除きます)や土地を借りている人(賃借人=富士急行株式会社)に責任はなかったのか、などが争われています。
Q3 なぜ、「適正な対価」で貸し付けなくてはいけないのですか?
県民共有の財産ですから、本来、「適正な対価」で貸すことは当然ですが、法律でも「『適正な対価』で貸し付けなければいけない」と決められているからです。
県などの地方自治体の財産管理のルールなどを定めた地方自治法という法律があります。この地方自治法には、〈条例や議会の議決による場合でなければ、適正な対価なくして、これを貸し付けてはならない〉という条文があります。もし、条例や議決がなく、「適正な対価」でない金額で貸し付けた場合は、地方自治法違反となり、契約が無効になってしまいます。
これは、山梨県に限らず、全国どこの自治体でも守らなければならないルール(法律)なのです。
Q4 住民訴訟の判決が出たらどうなりますか?
原告(訴えている人)は、被告(訴えられている人)である県に対して、過去の知事や県有地を借りている人(賃借人)に損害賠償請求又は不当利得返還請求をすべき義務があると訴えています。
もし、住民の訴えが認められれば、県は、過去の知事と、県有地を借りている賃借人に対して、裁判所が決めた損害賠償額又は不当利得額を支払うよう請求しなければなりません。
Q5 これまでの貸付料は「適正価格」なのですか?
裁判の過程で、これまでの貸付料は「適正な対価」とは言えないことが判明しました。そこで、県は、裁判の勝ち負けにかかわらず、県有地貸付を適正なものにする作業を進めることにしています。
Q6 県は、判決に従わなければならないのですか?
三権分立の下で、中立的な司法機関である裁判所の判断は、行政機関の県として最大限尊重すべきであると考えます。
ただ、県民の利益を優先する観点から、判決内容に納得できない場合は、高等裁判所へ控訴することもあります。
Q7 もし、県が裁判に負けたら、どうなりますか?
県に対して過去の知事や賃借人に対して損害賠償又は不当利得返還の請求を命じる判決が確定した場合、知事は判決が確定した日から60日以内に、過去の知事や賃借人に対して、損害賠償金又は不当利得金の支払いを請求しなければなりません。
もし、期限内に支払われなかった場合、県は議会の議決を受けることなく、過去の知事や賃借人に対して訴訟を起こさなければなりません。
Q8 住民訴訟の関連訴訟に関して、どれ位の弁護士費用を予算に計上していますか?
弁護士費用については、令和3年2月議会において次のとおり可決されました。
この提案理由によれば、着手金については、訴訟物の価格が具体的に確定していない段階では、旧日本弁護士連合会報酬等基準を参考にするのであれば、算定不能な場合の算定基準8百万円を用いることが現実的であり、それに基づいて算出した49万円に、事件の内容により、30%の範囲で増額することができるとされていることから、最大の63万7千円、税込みで70万1千円とし、また、将来想定される訴訟に一定の期間がかかることを念頭に、債務負担行為の事項及び期間、必要となった場合の実費や報酬について、より詳細に明記し、限度額の範囲内で後年度の歳入歳出予算の計上も認めることととされています。
項 目 |
内 容 |
令和3年度一般会計予算(歳出) |
70万1千円 |
債務負担行為
|
【事項】 甲府地方裁判所平成29年(行ウ)第6号損害賠償請求義務付け請求(住⺠訴訟)事件の関連訴訟(同住⺠訴訟において争われている貸付契約が無効であることや貸付契約に対する法令の解釈適用などが論点として含まれる訴訟をいう。)について訴訟代理委任契約を締結(令和3年度に締結するものに限る。) 【限度額】 訴訟代理委任に伴う実費(旅行する場合に附属機関の委員等の報酬及び費用弁償に関する条例に準じて支払う費用弁償、書類郵便料等通信費及び裁判所において準備書面等を謄写するための費用)及び訴訟代理委任契約事件に係る経済的利益の額を基準として、旧日本弁護士連合会報酬等基準に規定する計算方法に基づき算定した報酬の額の合計額から訴訟代理委任契約締結後に実際に支払った着手金を除した額に同額の消費税及び地方消費税を加えた額の範囲内 【期間】 令和3年度から訴訟代理委任契約に係る訴訟が終了した日から3月後の日の属する年度まで |
Q9 県有林に関する住民訴訟等には、どのような弁護士が必要なのでしょうか。
住民訴訟も富士急行が提起した訴訟も、県は訴えられた立場(被告)です。県は、こうした訴訟に対して、県民の利益を代表する立場で対応しなければなりません。
県有地に関連する裁判では、地方自治法をはじめ、民法や借地法など多くの知識が必要です。それらに精通した弁護士でなければ適切な主張ができないと考えています。
また、県はこの裁判の機会を通じて県有地の貸付を違法でない適正な状態に戻したいと考えています。すべての県有地は県民の財産であり、そこから得られる利益は正しく県民に還元されるべきだからです。
ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。
最後に一言、付言させてください。
県議会でも議論がありました通り、確かに弁護士費用は驚くほど高額です。
しかし、このことは、その高い費用を必要とするほどに『県民が失っている利益が巨大』であることを意味します。弁護士費用は、『県民が失っている利益』の50分の1として計算されることを思い出してください(Q7で記しましたように、日弁連基準により着手金は訴訟対象の2%とされています)。
そして、今回の訴訟の行方次第では、この『県民が(これまで)失っている利益』は、『県民がこれから将来にわたって失い続ける利益』となってしまいます。
そして、何よりも、はじめから「適正な賃料」で貸していれば、そもそもこのような問題は生じなかったのです。
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