ページID:99832更新日:2023年5月26日

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展示紹介「古墳時代前期の山梨県産水晶利用」

山梨県の特産品、水晶。近年、新しい分析方法で古墳時代の山梨県産水晶の利用が徐々に判明しています。春季企画展「AR古代望見─よみがえれ!甲斐風土記の丘─」では、その最新の成果を展示しております。

甲府盆地の北側には、いくつもの水晶鉱床があります。ここから産出される良質な水晶を背景に発達した宝飾業は、現在でも全国シェアの3割を持ち、地場産業を形作っています。これらの歴史はいつからはじまったのか。これまでは江戸時代ごろからと考えられてきました。考古資料の中には、水晶で作られた装飾品なども存在していたのですが、原産地推定が難しく、山梨の水晶がいつから用いられていたのかははっきりとしていませんでした。近年、新しい原産地推定手法が提唱され、わからなかった由来が徐々に判明しています。そしてその内容は、今回の企画展で扱う曽根丘陵の古墳群と深く関係しています。

画像:山梨県から供給された水晶
前原遺跡(埼玉県桶川市)出土・水晶製玉類未成品
さきたま史跡の博物館所蔵
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水晶は旧石器時代・縄文時代にも石器として用いられていますが、日本列島で装飾品である玉として最古の事例は、弥生時代中期ごろのものです。弥生時代中期後半ごろには日本国内でも水晶製玉類の生産がはじまり、弥生時代後期には山陰や北九州などで盛んに玉として加工されます。古墳時代の開始前後で、一度水晶の玉作りは衰えますが、古墳時代前期後半には、山陰や関東などで水晶製の勾玉や算盤玉等が製作されます。この関東で作られた水晶製の勾玉や算盤玉を分析していくと山梨と玉作りの関わりがわかります。

画像:前原遺跡出土・水晶製勾玉未製品の包含物
前原遺跡出土・水晶製勾玉未製品の包含物
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古墳時代前期の東日本には、水晶製の玉類をつくる3カ所の玉つくり遺跡(長野県社軍神遺跡、埼玉県反町遺跡、埼玉県前原遺跡)と、2カ所の玉つくりが推定される遺跡(山梨県御岳田遺跡、栃木県熊野遺跡)があります。玉つくり遺跡に供給された水晶はこれまでの分析で長野県社軍神遺跡、埼玉県反町遺跡、山梨県御岳田遺跡の3カ所で分析できた水晶のほぼ全てが山梨県産であることが判明していましたが、このたび春季企画展のために埼玉県より借用した前原遺跡の出土品もほとんどが山梨県産水晶であることが判明しました。

写真は前原遺跡で出土した水晶製勾玉の未製品(勾玉にする途中の失敗品など)の一部を拡大したものですが、ここには水晶の透明な部分に、黒い別の鉱物が入り込んでいることがわかります。これは電気石とみられ、甲州市の竹森鉱床などで産出される水晶によく見られるものです。分析の結果、古墳時代前期に東日本で玉として用いられた水晶の素材はほとんどが山梨県産であるものと思われます。

画像:若王子1号墳出土・勾玉
若王子1号墳(静岡県藤枝市)出土・水晶製勾玉の包含物
藤枝市教育委員会所蔵
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次に実際に勾玉等に使用された水晶について見ていきます。写真は静岡県藤枝市の若王子1号墳の勾玉です。この勾玉には、先ほどの前原遺跡に見られた電気石が、勾玉中に残っており、これらの結果、実際に流通した勾玉に、山梨県産の水晶が用いられたことが明らかです。さらに分析を続けていくと、甲斐銚子塚古墳で出土した水晶製の勾玉なども含め、山梨県の水晶を用いた勾玉などが、北は宮城県から西は現在のところ静岡県までの広範囲に流通していることがわかりました。

画像:山梨県産水晶の分布図
山梨県産水晶の分布図
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この成果はどのような社会的な意義があるものでしょうか。まず挙げられるのが、山梨県産水晶の装飾品としての加工が確実に古墳時代に遡ることが判明したことです。昨年、昇仙峡周辺が日本遺産に認定されるなど、現在水晶には注目が集まっています。そのジュエリーとしての利用・加工が古墳時代まで遡ることは、今後活用を進めていく日本遺産の意義をより深めるものです。また、歴史研究的に見ると、玉は古墳時代、単なる装身具に留まらず威信財的な利用も想定されるものです。この分配の端緒が山梨県からはじまること、また玉として供給するだけでなく素材としても供給することが明らかになりました。

古墳時代については西から東への流れはよく研究されていますが、静岡県域などにも山梨県産水晶を用いた勾玉が広がる様子からは、更に西へ進む可能性も大いにあるかと思います。こうしたあり方は、まだ地域的な様子を良く残す古墳時代前期の地域間関係を考えるための材料の一つとなるほか、古墳時代前期東日本最大級を誇る甲斐銚子塚古墳を筆頭に大型前方後円墳が連続して築かれた曽根丘陵の古墳群の、権力的基盤を考える上でも重要な成果の一つとなります。まだ、古墳時代水晶の分析は始まったばかりですが、今後も水晶の分析を続けていくと、さらに私達が知らなかったこの地域の歴史や当時の状況を、さらに明らかにできるものと思われます。

画像:甲斐銚子塚古墳出土・水晶製勾玉
甲斐銚子塚古墳(甲府市)出土・水晶製勾玉
当館所蔵
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こうした最新の研究成果について、春季企画展「AR古代望見─よみがえれ!甲斐風土記の丘─」でも前原遺跡出土品や甲斐銚子塚古墳出土品等とともに紹介しています。ぜひ会期中に足をお運びいただき、思いをはせていただければ幸いです。

更に詳しく知りたい人のために:

  • 金井拓人・一之瀬敬一2020「埼玉県反町遺跡出土の水晶製遺物の原産地」『考古学ジャーナル』738
  • 一之瀬敬一・金井拓人2021「古墳時代前期における山梨県産水晶の利用」『山梨県立考古博物館・山梨県埋蔵文化財センター研究紀要』37

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電話:055-266-3881
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