更新日:2025年2月6日
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山梨県ではプレコンセプションケア事業に力を入れており、定期的にセミナーを実施している。2024年9月に甲府市内で開催された「未来に繋がるプレコンセプションケアセミナー」には約140人が参加し、熱心に耳を傾けた。
プレコンセプションケア(以下プレコン)という言葉をご存じだろうか。プレコンとは、女性や若いカップルが将来のライフプランを考えて妊娠のために健康管理に向きあうこと。近年、注目が高まっている。
山梨県では「未来に繋がるプレコンセプションケアセミナー」を開催。第1部では、医療法人財団順和会山王病院名誉病院長の堤治(つつみおさむ)先生とNPO法人フォレシア理事の東尾理子さんがプレコンの重要性を語った。
まずは「生理痛がひどい場合は、がまんせずに早めに婦人科を受診してほしい」と堤先生。ひどい生理痛(月経困難症)の裏には、子宮内膜症(しきゅうないまくしょう※1)、子宮腺筋症(しきゅうせんきんしょう※2)、子宮筋腫(しきゅうきんしゅ※3)などの病気が隠れていることもあり、不妊の原因になったり、ガンのような重大な病気を引き起こしたりすることもあるからだ。
※1:子宮の内側を覆う膜(子宮内膜)が、子宮以外の部分で増えてしまう病気
※2:子宮内膜が何らかの理由で外側の筋肉の層に入り込んでしまう病気
※3:子宮筋腫とは、子宮の壁にできる良性の腫瘍(しこり)ができる病気
「未来に繋がるプレコンセプションケアセミナー」の様子
現在、4.4組に1組が不妊治療を経験。およそ10人に1人が生殖補助医療で生まれているという(日本産科婦人科学会「ARTデータブック(2022年)」より)。しかし日本は、体外受精治療数は多いものの、採卵当たりの妊娠率が低い。理由は患者の年齢が高いから。35歳と45歳を比較すると、採れる卵子数は10分の1、移植妊娠率も10分の1になるため、妊娠の困難さは掛けて100倍になるそうだ。卵子の年齢は実年齢とほぼ同じであり、年齢の影響が大きい。そのため今すぐ妊娠の予定はない人にとって、卵子凍結も一つの選択肢になっている。
働きながら不妊治療を受ける人も多いが、不妊治療と仕事の両立に悩み、会社を辞める人も少なくない。セミナーでは、月経等への早期ケアは、妊娠だけでなく将来のキャリア形成にも影響することが説明された。
セミナー第2部は「プレコン健診」がテーマ。山梨県では18~39歳(2025年3月末時点)の女性を対象に、妊娠・出産にまつわる検査「プレコン健診」を無料で受けられる機会を提供している。職場の健康診断や提携の医療機関で受診でき、甲状腺機能や感染症、葉酸などを調べられる。必要があれば医師とのオンライン面談も可能だ。
NPO法人フォレシア理事の東尾理子さん
セミナーでは山梨大学医学部産婦人科教授の吉野修先生が、プレコン健診の検査項目や目的、具体的な健康管理について解説した。以下、いくつか主なポイントを紹介する。
・栄養
栄養不足は不妊だけでなく、貧血や肌荒れ、骨密度や筋力の低下、月経不順、不妊、低出生体重児(生まれたときの体重が2500g未満)にもつながる。
・葉酸
野菜に多く含まれる葉酸は、神経管閉鎖障害(※4)の発症リスクを低減できる。
※4:妊娠初期に神経管の形成が障害されて起こる無脳症や二分脊椎などの疾患
・適正体重
痩せすぎも太りすぎもよくない。適性体重はBMI[体重(kg)]÷([身長(m)]×[身長(m)])で計算できる。BMI20未満だと排卵障害による不妊のリスクが12%上昇。BMI25以上だと25%リスクが上昇する。
・生活習慣病
血糖値が高いと先天異常のリスクが高まり、高血圧は妊娠合併症のリスクが高まる。健康診断を毎年受け、必要に応じてかかりつけ医に相談を。
・性感染症
若い人の間で性感染症が増えている。特に近年は梅毒が拡大。妊娠前の早期発見や適切な治療が大切。
・ワクチン
風疹は風疹抗体価(※5)をチェックし、値が低ければワクチン接種を。また、30代後半が発症のピークである子宮頸がんはHPVワクチンで予防が可能。
※5:風疹抗体を体内に持っている量を評価する値
吉野先生はこの日のセミナーについて、「男性や医療関係者の参加者も多く、意識やリテラシーの高さを感じました」と話す。
セミナー後のアンケート回答者の約2割が男性だった。全体の年代は30代が最多で、20代と続いた。またアンケートの回答では、「とても満足」「満足」が96%を占め、理解度も96%と高かった。
参加者からは「プレコン健診の詳細な内容が理解できた」「月経や妊娠について知らないことを知れた」といった感想をはじめ、「自身とパートナーの健康管理を見直したい」「まだ結婚は考えていないが、今後のために検査を受けたい」「パートナーとも自分や相手の体について、考えたり話し合ったりする機会をつくろうと思った」など前向きな声が多く集まった。
山梨大学医学部産婦人科教授の吉野修先生がワクチンについて解説
過去に実施した企業向けプレコンセミナーでは男性からの「検査をしてみようと思った」「パートナーに寄り添う気持ちが高まった」といった声もあり、セミナーへの参加が意識を高めるきっかけになったことがうかがえる。
「今回男性の参加者から『自分に何ができますか』という質問をいただきましたが、ぜひ家族の健康を考える機会にしていただきたいと思います。プレコンやプレコン健診は妊娠のためだけでなく、未来のために心身を整えていくもの。予防医学の観点からも意義があると考えています」と吉野先生。たとえば、血圧が高い人が食事の塩分を見直せば家族みんなの健康管理のチャンスになるし、鉄分が不足している女性が「メンタル不調」になりやすいことが明らかになっているため、貧血の改善はメンタルヘルスの向上にもつながる。
さらに吉野先生は「最近、歯周病菌が不妊の原因にもなることがわかってきたため、日常の口腔ケアや定期的な歯科受診の重要性を周知するとともに、今後、プレコンに口腔ケアを含めることも検討しています」と話す。
プレコンへの取り組みは全国各地で進みつつあり、山梨県はその中でも先進的である。県内に国立大学医学部が一つということで、専門科の垣根を超えて医療関係者同士の緊密な連携を促し、地域全体で効率的な体制作りが実現できているといえる。
山梨県では企業向けにもプレコンセミナーを実施している
山梨県ではプレコン健診やプレコンセミナー以外にも、妊娠・出産におけるサポート体制や医療支援制度を各種整えているので、あわせて確認してほしい。
プレコン健診を実施し、必要に応じて医師が助言もしている。また、今回のようなプレコンセプションケアセミナーを随時開催している。
女性の多様なキャリア形成・ライフプランの実現を応援するため、将来の妊娠・出産に備えるための未受精卵子凍結に係る費用を補助する。
加齢等による妊娠機能の低下を懸念して未受精卵子を凍結し、その凍結卵子を使用して生殖補助医療を行う場合にかかる費用の一部を補助する。
不妊・不育症検査、不妊治療のうち保険診療で実施される体外受精・顕微授精と併用して行われた先進医療の治療、およびヘパリンを使用した治療など一部の不育症治療について、費用の一部を助成する。
妊娠・出産、不妊・不育、流産・死産をはじめ、幅広い問題にSNSを活用したオンライン上での相談に応じるサポート体制を整えている。
セミナーには多くの男性も参加しており、妊活や健康管理をパートナーや家族と考える人が増えていることを実感した。プレコンセプションケアは、単に妊娠や出産のためだけでなく、生涯を通じた健康管理としても重要な意味をもつ。後になって「もっと早く知りたかった」と後悔しないように、さらに多くの若い人たちに知ってほしいと思った。
取材・文:古屋江美子(山梨県甲府市出身・やまなし大使)
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