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山梨県笛吹市出身の太田真希さんは、山梨県の伝統産業である宝飾業の技術を活かしたジュエリーブランド「September5」を手がけている。製品は自らデザインし、甲府市内の工房へ制作を依頼。東京と山梨県を行き来する二拠点生活の中で気づいた故郷の魅力や想いを聞いた。
笛吹市石和町の商店街で生まれ育った太田さん。実家は天保6年に建てられた歴史ある家屋で、蛇口をひねれば温泉が出たそうだ。
「温泉は流しっぱなし。それが普通だと思っていたから、子どもの頃に友だちの家に泊まりに行った時、お風呂のお湯を出しっぱなしにして怒られたことがあります」と笑う。
小学生の頃から大きな声でハキハキと話し、授業では朗読をよく先生に褒められた。ある時、「将来はアナウンサーだな」と言われたことをきっかけに、アナウンサーを志すようになった。
東京の大学へ進学して2年生からはダブルスクールでアナウンサースクールへも通った。秋田放送に就職し、約4年間アナウンサーとして勤務。夕方のテレビで情報番組を担当しつつ、4時間半の音楽生放送ラジオのパーソナリティーも務める。スポーツや報道、中継、さらに記者・編集まで幅広い業務を経験した。
結婚を機に東京へ戻り、日本テレビ情報番組、東京FMパーソナリティーをはじめ、CM出演やナレーション、ドラマ出演など芸能活動を継続。出産後はしばらく仕事をセーブしながら、子育てと両立してきた。その後、コロナ禍で時間ができたことがきっかけで、ジュエリーブランド立ち上げという新たな挑戦を始めることになる。
ラボグロウンダイヤモンド専門店「September5」の代表取締役 太田真希さん
太田さんにとって宝石は、ジュエリーブランドを立ち上げる前から身近な存在だったという。
「山梨県という土地柄、祖母が宝飾店を営んでおり、親戚にはダイヤモンドの鑑定士がいました。大人になってからは、都内で開催される宝飾の展示会に趣味で足を運んでいましたね。ただ、『こういうデザインが欲しい』と思っても、なかなか見つからないんです。それなら自分で作ろうと見様見真似でデザインを始めました」
出産後、子育てを頑張っている自分へのご褒美として、甲府市の工房に一点モノのオリジナルジュエリーの制作を依頼。実際に自分がデザインしたジュエリーを手にしたことで楽しさが増し、「次はこんなデザインが欲しい」とアイデアが次々に湧いてきた。コロナ禍で時間ができたこともあり、デザインを描き溜めていると、それを見た親戚から「ブランドを立ち上げたら?」と背中を押された。
商品はオンラインショップで販売するほか、年に数回ポップアップイベントを実施
ブランド立ち上げを本格的に考え始めた頃、ちょうど「自分の核となる活動をしたい」という想いも強くなっていた。そんな時期に、日本に入ってきたばかりのラボグロウンダイヤモンド(注)と出会う。
そうして2021年12月、「September5」として本格的にブランドを始動させた。
山梨県は世界的にも珍しいジュエリーの集積産地。企画から調達、研磨、彫刻、加工、流通などすべての工程が揃う。太田さんは、甲府市内の複数の工房に制作を依頼。時々、工房を訪れると、職人から「これ、難しいんだよ」「そんな簡単に言ってくれるなよ」と苦笑いされることもあるとか。それでも相談を重ね、細かなデザインの要望も丁寧に伝えると、「ちょっとやってみましょう」と一緒に挑戦してくれるようになった。
26年前のギリシャで出会ったネジ式の落ちないスクリューポストピアス。子育てで手一杯でも耳元でキラッと光るダイヤモンドに救われた経験から、同じ思いのママたちへ届けたいと定番商品に(左)。数字をモチーフにしたネックレスも人気(右) (注)ラボグロウンダイヤモンドとは、ラボ(研究所)でつくられた合成ダイヤモンド。天然と完全に同じ成分組成で、魅力的な価格とともに、ダイヤモンド採掘による環境・人権問題へのエシカルな選択肢として、近年注目を集めている。
地域の顔としても活動していた亡き父親からは、「山梨県のために何かできることがあったら考えてみてほしい」と言われていたそうだ。山梨県の伝統産業である宝飾業でブランドを立ち上げたことは、その言葉への一つの答えでもある。
ブランド立ち上げには、大学時代のアルバイトで知り合った小山睦美さんも参画。二人は誕生日が同じ9月5日という縁もあり、これがブランド名の由来にもなった。
商品を通して山梨県の宝飾業を説明し、間接的に山梨県の魅力も伝えられたらと考えているそうで、「身近なところから発信していきたい」と太田さん。今後は山梨県のブランドとのコラボレーションも考えているという。
アイテムごとに得意な工房へ製作を依頼している
現在は東京に住みながら、2カ月に1回ほどのペースで家族と山梨県を訪れる。母親が住む甲府市内の実家に滞在しながら、家族でゆっくり過ごす二拠点生活を楽しんでいる。
「地元の商店街を歩くと、おじちゃんおばちゃんが『真希ちゃん、いつ帰ってきた?』なんて声をかけてくれます。小学生に戻っちゃいますね。同級生と話すと、方言も出てきます。『悪かねえさ』なんて外国語みたいな響きですが、それが心地いい。鎧を脱げる、元に戻れる感覚です」
家族も山梨県を気に入っているそうだ。「子どもは東京で生まれ育ったので、ないものねだりかもしれませんが、山梨県に住みたいと言っています。山登りも好きだし、自然の豊かなところが好きみたいですね」
お気に入りの場所は、笛吹市芦川町周辺。川沿いにある蕎麦屋で、小川のせせらぎを聞きながら馴染みの味に舌鼓を打つ。知人が営むアーチェリー場で遊んだり、大きな木に吊り下がっているブランコで揺られたり。「少し足を延ばすと森の中にいるような場所がたくさんあり、空気が違うんですよ」と太田さん。そのほか友人の農園を訪れ、ブルーベリーやシャインマスカットなど旬のフルーツを楽しむことも。「山梨県には温泉も多いので、滞在中はよく温泉に行きます」
デザインをカタチにしてくれる甲府の工房で。一緒にブランドを立ち上げた小山睦美さん (右)も、無理難題に挑戦してくれる職人さん(中央)も太田さんの大切な仲間だ
山梨県は「帰るとホッとする場所」だと太田さんは言う。特に富士山が当たり前に見える贅沢を実感しているそうだ。
「山梨県の人にとって富士山は当たり前の風景。でも東京にいると、5分単位でせかせか動いているので、山梨県に来て富士山を見た瞬間、今日は何も考えなくていい、そんなふうに気持ちをリセットできるんです」
将来の夢は山梨県と東京に「ジュエリーカフェ」を開くことだという。
「ジュエリーを通じて人が集まる、コミュニティカフェのような場所にしたいと思っています。山梨県の工房の素晴らしさを伝えながら、みなさんの意見やお声を直接聞ける場所を作りたいですね」
接客を通じて山梨県の宝飾産業の魅力も伝える太田さん
やまなし暮らし支援センター(個人専用)※山梨県が運営する相談窓口です。
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