山梨てくてくvol.13
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 一日の終わりを迎え、牧人が牛の群れを笛の音で呼び寄せています。この絵で特徴的なのは、やはり「彩り」。ミレーは大気が見せる微妙な表情を鋭敏な感覚で捉え、夕焼けをピンク、オレンジ、そして紫、青といった色彩で表現しています。山梨県立美術館に収蔵されている他の油彩画と比較しても、この明るく鮮やかな色彩は特徴的なものです。 制作年は不詳とされていますが、1850年代中期以降は、明るく細やかな風景表現の作例が増えていること、また本作に関連するデッサン(1854~57年頃)の存在などから、1850年代後期の作品であろうと推測されています。この頃からミレーはそれまでの人物主体の表現から、風景表現に重きを置くようになり、人々を取り巻く一つ一つの自然の景観を非常に大切に描くようになっていきます。そのようなことから、後年のミレーにつながる転換点の作例であるといわれています。 本作はミレーの死後、遺族(おそらく弟)が米国のコレクターに売り、1891年にミレーとも付き合いがあったボストンの法律家の手に渡りました。そして1908年にボストンで開催された展覧会に出品されて以降、広く一般の目に触れることはなかったと考えられています。そして今年、長い間専門家ですら情報を知り得なかった幻の名画が、山梨県立美術館に収蔵されたことで、実に約100年ぶりの一般公開となったのです。牛飼いが吹く角笛は、どんな音を響かせているのか…。そんな想像をしながら鑑賞するのも名画と触れ合う楽しみのひとつかもしれません。「角笛を吹く牛飼い」(油彩・板/38.1×27.9㎝)山梨県立美術館40周年記念 新収蔵作品 11

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