FUREAI_MONTHLY_Vol04
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カーボンフリー農業って?農業分野における地球温暖化対策として、生産活動で温室効果ガスの排出量をゼロにする取り組み。山梨の強みであるグリーン水素や再エネなどの資源を活用してエネルギーの自給自足を目指している。コスト削減や生産物の高付加価値化により農業者の所得向上も期待される。ではありません。来年2月からは、米倉山(甲府市)の水素製造所でつくったグリーン水素でハウス内を温める「水素加温ハウス」の実証試験も始めます。一般的なハウス加温機は重油を使います。それに代わって燃焼時にCO2を排出しないグリーン水素を燃料とする「水素加温機」を使い、ブドウを育てます。山梨県といえば、水素製造時に再生可能エネルギー(再エネ)を使う「グリーン水素」のトップランナーです。北杜市に工場を持つ桂精機製作甲府駅から車で30分ほど、高台の県果樹試験場(山梨市)は風が吹き抜け、猛暑もやわらぎます。その一角に近づくと、ブドウ棚を覆う半円型の雨よけに薄緑色のシートが載っています。このシート、何かというと「有機薄膜太陽電池」という次世代型太陽電池です。公立諏訪東京理科大学(長野県茅野市)とメーカーが共同研究開発したもので、光を通し、薄くて軽くて曲がるのでどこにでも簡単に設置できます。これを使った実証実験が7月からスタートしました。農業分野から脱炭素社会を実現するため、この太陽電池を使って何かできないか。県農政部からの提案に、果樹試験場の塩谷諭史研究員が出した答えが「サンシャインレッド」でした。「単に発電するだけでなく光が決め手のブドウにLEDを使えば注目が集まる。これをきっかけにカーボンフリー農業が広がればおもしろいと思いました」。日中に発電、蓄えた電力で夜間にLEDライトを光らせ、その光をブドウの下側から当てる――という実験です。光で赤くなるサンシャインレッドの色づきをさらに良くするため、夜間にも光を当てます。甘さや大きさへの影響をみるため、同じ畑の中で条件を変えて栽培していきます。農業の脱炭素化は、5年前にさかのぼります。2020年、土壌中の炭素量を年間0・4%増やすことで大気中のCO2の増加を実質ゼロにする「4パーミル・イニシアチブ」に、国内の自治体として初めて参加したのです。21年には、果樹の剪定枝を炭にして土壌に埋めるなど大気中のCO2削減に貢献する生産物を県が認証する制度も設けました。果樹試験場の試みは太陽電池だけ所(本社:神奈川県横浜市)と共に開発する「水素加温機」は、日本で初めての試みです。果樹試験場の綿打享子研究管理幹は「有機薄膜太陽電池に水素加温機、これまで見たことがないものへの挑戦ですから、我々もドキドキしています」。このドキドキ感は、上のイラストを見ていただければ、分かっていただけると思います。農地でカーボンフリーの電気が作れれば、車や農機具も脱・重油、脱・ガソリンが実現します。深刻な獣害、盗難も、電気柵やカメラなど再エネで対策できます。将来的には、余った電力は水素製造所に送ってグリーン水素をつくり、その水素でハウスが温まる。そんな循環も生まれます。もちろん課題もあります。そもそも有機薄膜太陽電池は太陽光パネルよりコストが高いですし、水素加温機が従来品と同じ温度を保てるかもまだ分かりません。トライ&エラーを繰り返し、実証試験の結果を得るまで最低でも3年はかかります。県農業技術課の渡辺晃樹普及指導員は「技術的に困難な分野は県が率先して取り組まなければカーボンフリー農業は前に進みません。最先端技術でリードしたい」と話します。山梨はカーボンフリー農業でも第一走者として駆け出しています。「サンシャインレッド」をもっと知りたいやまなし in depthこれが有機薄膜太陽光電池。薄い緑色で、曲げられる赤く色づき始めたサンシャインレッド。有機薄膜太陽電池で蓄電、夜間に下からLEDライトを当てる県果樹試験場のサンシャインレッドの畑。雨よけの上に有機薄膜太陽電池が設置されているVol.42025SEP             果樹試験場、2つの挑戦

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