ふれあいvol.73
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集団接種会場で担当患者に異変が… やまなしホームケアは、ワクチンを2回接種した無症状者などを対象に、医師がオンライン診察で症状や基礎疾患の有無を確認したうえで、自宅療養を認める制度になっている。 自宅療養期間中、感染者は1日に2回、山梨大学が開発した感染者の症状把握システム「SHINGEN(シンゲン)」に体温や血中酸素飽和度などの情報を入力する。医師や看護師らが常にその情報を把握し、必要に応じてオンライン診療をして、症状が悪化した場合は「入院・入所」に切り替えができる。 山梨県は従来、病院や療養施設への「入院・入所」を原則にしていた。だが、デルタ株の4倍の感染力を持つといわれるオミクロン株で現実味を増した「医療崩壊」を前に、その原則を取り払う苦渋の選択をせざるを得なかった。 一足先に自宅療養が始まっていた大都市圏では、自宅療養の陽性者が放置され、医療が届いていない現状が報じられていた。このため、山梨県で自宅療養を始めるには、いつでも医師と連絡がとれることが必要不可欠だった。 鈴木医師は、オンライン診療をする医師の確保に奔走した。山梨県内10地区の医師会長全員に電話をかけ、すぐに協力してくれる医師を推薦してもらった。しかし、多くの医師、とくに内科医は発熱外来の対応などで多忙を極めていた。快諾してくれた医師は県内で約30人だった。 「契約書もなく細則も示せない状況でした。でも、皆さん、快く受けていただきました。この30人がいなければ、ホームケアは始められませんでしたし、始めていなければ確実に、必要な人に医療が届かない『医療崩壊』が起きていました。先陣となった30人の先生方と各地区の医師会長には感謝の言葉しかありません」(鈴木医師) いまでは、ホームケアに協力する医師(協力医)は160人に及ぶ。しかし、協力医の仕事は最初の診断だけではない。「SHINGEN」の数値に「異変」があれば、診察をしないといけない。1人の医師がこれまでに100人以上を担当したケースもあるという。 2月13日、集団接種会場でワクチンを打っていた鈴木医師のスマホが鳴った。担当する自宅療養者の容体がよくないことが、SHINGENシステムでわかったという。 早速、患者に電話をかけた。患者は電話に出られる状態ではなく、家族と話をして入院が必要と判断、即日、入院治療となった。 「ホームケアは、医療崩壊を防ぐために始まりました。大原則は『必要な人に医療を届ける』です。患者に寄り添って見守ることで、一度は自宅療養と判断した人でも、入院に切り替えていきます」 ホームケアを始めたことによって病床使用率が下がる。命と健康を守れる体制ができたことによって、多くの人が普通の生活を取り戻す方向に歩き出せる。 長崎知事は3月11日の記者会見で「病床使用率が3月5日に50%を切るて段階的にアクセルを踏み込んでいく時期が到来したと考えている」と述べ、3月14日から、会食の人数制限を解除し「やまなしグリーン・ゾーン宿泊割り」も再開するなどの方針を発表した。 やまなしホームケアは、保健所職員の深夜に及ぶ仕事ぶりや、緊急患者を引き受ける重点医療機関、そして、医師の協力に支えられている。県庁防災新館3階、ホームケア班のメンバーが詰めている会議室の明かりは、毎日深夜に消える。(肩書は取材時のものです)19SHINGENシステムのロゴマーク鈴木医師が知事との面談に当たって作った説明資料(鈴木医師提供)30人の先陣でスタート50%を下回った。いま経済回復に向け46.3%になって以来、6日間連続で

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