4構成資産ハリモミ純林巡 拝富士箱根伊豆国立公園やま なか こ千年以上、日本人の心をとらえてきた富士山と湖がおりなす風景24 眼前の富士山は真っ白に染まり、富士五湖で一番標高が高い山中湖の湖面が氷結する厳冬期の2月。大勢の人が湖畔に集まり、カメラを構えてその一瞬を待つ。日没の太陽が富士山頂にぴたりと重なって、まるでダイヤモンドのように輝くその瞬間、湖畔の観衆からは歓声とため息があがる。 富士五湖の中で唯一、富士山と湖を合わせて「ダイヤモンド富士」を見ることができる山中湖は、「ダイヤモンド富士」のメッカとして人気がある。その昔、山中湖を巡礼した富士講の道者も、このダイヤモンド富士を眺めただろうか。富士山信仰の時代にも、麓の湖はどこも“聖地”だった。富士講の修行道「内八海めぐり」において、山中湖には“作薬龍神”が祀られた。 やがて富士講の衰退により、それぞれの湖を守護する竜神の名もだんだんと忘れられ、富士五湖は富士山の観光地として発展することになる。なかでも山中湖はいち早く避暑地として開発され、湖畔にたくさんの別荘地や保養所が建てられた。高浜虚子、徳富蘇峰、堀口大学など文学者の足跡も刻まれた。詩人の金子光晴は山中湖の平野に疎開中、湖畔から望む富士山に戦時中の様々な想いを重ねながら、その美しさに開眼していった。富士をとりまく湖のそれぞれの抒情を『五つの湖』に残している。江戸時代の巡礼者も、昭和の文豪も仰いだ、おなじ富士山に出逢うことができる。 湖面に映る逆さ富士、夏の早朝の赤富士、真冬の紅富士、ダイヤモンド富士といった富士山の自然現象に心惹きつけられる私たちの奥底にも、変わらぬ“神なる富士”が息づいているのかもしれない。 忍野八海から山中湖に向かう途中に富士山が生み出した希少な森の広がる場所がある。ハリモミは日本固有種のモミで樹高が高いものでは30mに及ぶ。山中の純林は、富士山から噴出した鷹丸尾溶岩流の上にのみ孤立して形成された。樹齢約250年、樹高20〜26m、枯損などで減少したものの総本数約3万本と見られ日本最大規模。世界唯一の純林として保護が図られている。国指定天然記念物。ダイヤモンド富士を前に湖畔を埋めつくすカメラマン達水の霊場巡り/富士五湖東部エリア山中湖
元のページ ../index.html#26