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全国で唯一の公立のジュエリー専門学校である山梨県立宝石美術専門学校。

ここで、金工技術を教えるために非常勤講師として教壇に立っているのが

今回紹介する俵俊一氏である。

自身が経営する「工房 楽」では

“打ち出し”などの伝統的な金工技法を始め、ロストワックス法、CADなど

様々な技術を駆使して、ハイクオリティなジュエリーを創り出している。

宝石美術専門学校ではどんな授業を?

金工の基礎ですね。ヤスリとか糸鋸を初めて手にするような学生が多いので、「金属の地金を加工してものを作る」という基礎から丁寧に教えています。私が受け持っているのは1年生なんですが、1・2学期のときに、真鍮、銅、シルバーなど、比較的柔らかくて加工しやすい金属を使って徐々に慣れさせます。そして3学期に、金とかプラチナ900、Koo-fu Pt950(※1)など、硬くて加工が難しい貴金属を扱い、貴金属の知識と加工技術を学ぶわけです。

(※1)Koo-fu Pt950:Koo-fuプロジェクトで新たに開発されたプラチナ95%の合金。従来の純度95%のプラチナより固く、傷が付きにくい。また、メッキなしでも白く輝く。    

講師になった動機は?

私も宝石美術専門学校の一期生なんです。その時の先生方に色々と教えていただいて、今でも本当にそれが役立っています。恩返しってのはオーバーかもしれないけど(笑)、学生たちは色々な学校がある中で、この学校を選んで、宝飾業界に就職したいと入ってきていると思うので、少しでもその手助けになれればっていう気持ちからですね。  

宝石美術専門学校で加工技術の基礎を学んだわけですね。

ええ。より技術を深めようと思って研究科にも通ったので合計3年間お世話になりました。当時はコンピュータもなかったので、「地金から加工してものを作る」という、日本ならではの伝統的な金工技法でで“ものづくりの原点”を学んだという感じですね。ですが、ここ最近はCADとかが進歩してきてだいぶ精度の高いものが作れるようになってきましたね。ロウ付けするときも、最近はバーナーだけじゃなくてレーザーも使っているんですよ。バーナーでロウ付けすると、母材全体の温度が上がってしまうので、石留めしてあるジュエリーの場合は石を外さないとならない。だけどレーザーの場合は光を当てている部分だけの温度が上がるので、石に負荷がかかりにくいのです。      

へえ、すごいですね!

ええ。そういった技術をうまく取り入れることで作業の効率化につながるし、制作の幅が広がります。だから積極的に取り入れるべきだと思います。だけど、いくら技術が進歩しても金工の基礎は知っておく必要があるんです。確かにレーザーは便利ですが、バーナーに比べると接合部分の強度が弱いし、使いこなすためには加工の基礎が不可欠です。CADを使うにしても、手加工を経験しているか、そうでないかによって完成品の出来が全然違います。全てがCADでできるわけでなくて、“味わい”とか“温かみ”を表現するには手加工の部分は必要なんです。これから先、いくら技術が進歩してもベースにあるのは基礎技術であって、日本古来から伝わる伝統的な金工技法なんです。そういった意味で基礎を学ぶことは大事なんですね。 

なるほど。これはキレイなペンダントですね!

かいてらすに展示されているジュエリーマスター展の作品ですね。僕がデザインしたんですよ。周りの葉っぱの部分は金属を直接加工しています。使っている石は、同じジュエリーマスターの資格を持つ宝石研磨職人の中野誠さんに「こういう形と色で」っていう風にお願いしてメノウを摺ってもらったんです。

ジュエリーマスター同士のコラボ作品なんですね。

それブドウの葉っぱなんです。“たがね(※2)”を使って地金に模様を直接打ち込みました。自分の実家がブドウ農園なので、ブドウは小さい頃からよく見ていましたから(笑)。でもジュエリーを作っていて難しいと感じるのは造形力というか、バランス感覚ですね。工房での仕事はデザイン画とかアバウトなイメージ画をもらって、それをカタチにしていく作業なんです。完璧な設計図でオーダーが来ることなんてほとんどない。だから平面のものを自分の頭の中で立体的に組み立てなければならないんです。その時、横から見た高さとか、曲面のカーブの形とか、最も綺麗に見えるベストなバランスを探るわけです。ジュエリーは小さいものですから、数ミリ違うだけで全体の印象って全く違ってくるんです。 

(※2)たがね:工具鋼で作った棒状の工具。槌で上部先端を叩き、切削、彫刻、打ち出し、紋様打ち、切断などに用いられる。

そういう能力を養うにはどうしたら?

これは学生へのメッセージでもあるんですが、ジュエリーの分野に限らず、綺麗なものとか美しいものをたくさん見てもらいたいですね。人が美しい、綺麗と感じる普遍的なカタチとかバランスというものは必ずあります。そういうものをいっぱい見て自分の中にインプットしていけば、バランス感覚を培うことにつながるんです。あとは基礎的な技術と知識をきちんと学ぶこと。CADなどの新しい技術を取り入れることも大事ですが、“打ち出し”といった伝統的な金工技法を学ぶことで“ものづくりの原点”を知ってもらいたいですね。 

山梨のジュエリー産業の将来を担っていく“職人の卵”を育てるために、これからも“ものづくり”の原点に立ったご指導を宜しくお願いします。今日はありがとうございました。

 

企業情報

名  称:工房 楽(らく)

住  所:山梨県甲府市善光寺1-22-5

F A X:055-235-8601

  

 

ジュエリーマスター展に出品された作品。俵氏がデザイン。

 

繊細な石留めの技術が光るリング

 

ブドウをモチーフにしたイヤリング

 

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見る角度を変えると細かい造形が施されているのが分かる

 

 

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Shunichi Tawara 俵俊一

●1962年8月14日生まれ●山梨県出身●宝石美術専門学校宝飾デザイン科に一期生として入学●2年間、貴金属加工の基礎を学んだ後、研究科に入学●卒業後は県外のジュエリー企業に入社●退社後は甲府の貴金属加工職人・深澤利彦氏に師事●現在は自身が経営する「工房 楽」でジュエリー制作を行う傍ら、宝石美術専門学校で非常勤講師として教壇に立つ●宝飾加工のジュエリーマスターの資格を持つ