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“手擦り”にこだわって、“手擦り”でしかできないカットで勝負する。依田和夫(宝石研磨職人)うお座/山梨県出身

山梨県甲府市にある依田貴石。

昭和22年創立の歴史あるこの工房には昔ながらのスタイルを貫き、“手擦り”にこだわり続ける職人がいる。

現代の名工、ジュエリーマスターの称号を持つ、宝石研磨界の巨匠・依田和夫氏だ。

工房での仕事の傍ら、後継者育成のために県立宝石美術専門学校で教壇に立つ氏に迫った。

金色の針が入った水晶がいっぱいありますね!

それはルチルクォーツだね。きれいでしょ。レアな石だからなかなか出てこないんだよ。高価だしね。ウチはルチルに力入れてるから色んな種類があるよ。だけど石取り(※1)が難しいんだよね。原石をルーペで見ながら切るんだけどドコ切るか迷うんだよ。針がこっち向いたり、あっち向いたりしてるから。

(※1)石取り:原石から所要のカット石を取り出す部分を決めること。原石の形、大きさ、色合い、模様、疵、内包物の観察や検査、光の特殊効果などを総合的に判断し、宝石のカット形状を決定する。

へぇ。石取りって難しいんですね。

そうだよ。石取りは最初にやる工程なんだけど経験がいるんだよ。原石はキズがあるし模様もあるでしょ。それをどう生かすか、どうすれば無駄なく取れるのか。そういうのを見極めなきゃならんから難しいんだよ。アメジストでも難しいんだからルチルはなおさら難しい。一番難しいだろうな。

依田さんはこの道何年?

俺は45年になるよ。父親がやってたから俺も自然にやり始めてね。若い頃は休んだことなかった。休日なしだったよ。毎日朝5時に起きて、愛宕山に散歩行って、朝ご飯食べてすぐ仕事。夜中の12時まで毎日必死にやった。夢中でやったな。ウチの工房は息子と二人でやってんだけど、今でも二人で遅くまでよくやってるよ。

そうなんですか!息子さんは?

息子はまだ20代なんだ。この業界も後継者不足で悩んでいるから、息子のような若手職人を育てるのはすごく大事なことなんだよ。まだやり始めて10年も経っていないけどよく頑張ってると思う。これからも色んな技術を教えていきたいと思ってるよ。

依田さんの原動力は?

やるときは自分でプレッシャーかけるんだよ。例えば、今日中にこれだけの数をこなそうって目標立てるんだよ。1時間に20個磨き上げるとかね。自分で極限に追い込むんだ。そうすると無我夢中でやるからあっという間に時間過ぎちゃうよ。あとどうやったら早くできるかってのを考えるようになるんだよ。自分で工夫するようになるんだ。

なるほど。どんな工夫を?

そうだな。例えば棒に石を何個も付けて一気に削ったり、左右のそれぞれの手で石を持って“二刀流”(※2)で同時にやったりね。いい加減にやるんじゃないよ(笑)。ウチは昭和22年の創業以来ずっと“手擦り”にこだわってやってんだけど、その手擦りの良さを生かしながらいかに早く仕上げるかってこと。それを考えるんだよ。今でも常に考えてるよ。もの作りってのは、あまり時間をかけないで、なおかつ質の高いものを作らなきゃダメだね。

(※2)“二刀流”の貴重なムービーを公開中!ページ下へ。

どうして手擦りにこだわるんですか?

手擦りでなきゃできないカットがあるんだよ。普通はファセッターっていう治具(※3)を付けるんだけと、それ使うとできないカットもあるんだよ。ウチはそういうの一切使わないで手擦り一筋なんだよね。つまり、石を手で持って回転している研磨機に当てて、手の感覚だけで研磨してるんだ。機械じゃ再現できないもの、手擦りだからこそできるカットで勝負してんだよ。

(※3)ファセッター:宝石素材をファセット・カットする際に、一定の角度、割り出しを再現するための補助工具。治具(じぐ)は当て字で、本来は英語のjig(工具)のこと。

なるほど。ここにある珍しいカットの石もみんな手擦りで?

うん。俺が考えたオリジナルカットなんだよ。エメラルドカットとかチェスカットとか既存のカットがあるんだけど、そういうのをベースにオリジナルを作ったんだよ。オリジナルっていえば、趣味でお茶やってんだけど、研磨の技術を生かしてお茶の道具を作ってるよ。水晶の柄杓置きとかね。研磨職人でお茶やってんのは俺くらいだろうな(笑)。

そうだったんですか!

うん。あと瑪瑙を花瓶にしたり、和菓子用の楊枝(ようじ)作ったりね。面白いアイデアでしょ。けど長年やってるとね、頭からこれは無理だ、作れないって考えちゃうこともあるんだよね。その点、宝石美術専門学校の子が作るものって面白いんだよ。先入観がないから俺たちが考えつかないようなことがポッと出るんだよね。学校には非常勤講師として研磨を教えに行ってるけど、こんなこと考えるのか!っていつも感心してるよ。

へぇ!依田さんにとってもいい刺激になっているんですね。学校の生徒や息子さんのような若手職人へのメッセージをもらえますか?

最近の若い子は“無駄なこと”をしないけど、世の中に無駄なことなんて無いんだよ。一見、無駄に思えるようなことも意外と勉強になることってあるんだよ。飲み屋行って“へべれけ“になって酔っぱらって帰る。若い頃はそんなこと何度もあったけど(笑)、それで人付き合いが良くなるんだよ。そうすると「このカットはウチじゃできないからお宅に頼むよ」みたいに自然と仕事につながるんだよね。自分ができないことを頼んだりもできるし。なにがどうつながって自分のプラスになるか分からない。だから無駄だと思わないで色んなことにトライしてほしいね。

ためになるメッセージをありがとうございました。いつまでも現役の職人として頑張ってください!今日はありがとうございました。

企業情報

名  称:依田貴石

住  所:山梨県甲府市里吉4-15-22

T E L: 055-235-4608

F A X: 055-233-8291

H   P:  http://yodakiseki.jimdo.com/

事業内容:    宝石、貴石の研磨

自社の強み: 水晶、半貴石を原石から仕上げまで手作業で行っております。

                   鉄の研磨皿に石をつけて磨くことで、手作りならではの暖かみのある製品

                   に仕上がります。

                    一般的なダイアカット、エメラルドカットから石の模様をいかした変形カット、

                    我が社のオリジナルカット、さらには、お客様からの要望に応じたカットも研

                    磨加工しております。

         水晶の中に針の模様が入ったルチルクォーツは、我が社が石取りからこだ

                    わって、力を入れている製品です。

  

 

手擦りで研磨したルチルクォーツ

金色の内包物が美しい。

これも手擦りで研磨したルチルクォーツ

 

依田氏が考案したオリジナルカットもある。

 

なんと石を研磨して作ったという和菓子用の楊枝(ようじ)

あまりの可愛さに取材スタッフもその場でお買いあげ♪

手擦りで研磨中

 

 

依田氏の息子さんもまた職人

将来の宝石研磨界を背負っていくであろう期待の若手職人の一人である。

長年の手擦りにより”擦りだこ”ができている依田氏の手。

「昔は女性のように細い指だったのに」と笑う。

 

↓左右のそれぞれの手で石を持って研磨する“二刀流”。両手の力の入れ具合を調整し、どちらの石も同じ形にする熟練の技。

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Kazuo Yoda 依田和夫

●1947年2月28日生まれ●昭和22年創業、依田貴石代表●現代の名工、山梨県知事認定ジュエリーマスターなどの経歴を持つ●山梨県立宝石美術専門学校の非常勤講師を務める

村松真

笠原茂樹

 関戸和代