○やまなし子ども条例

令和四年三月二十九日

山梨県条例第二十四号

やまなし子ども条例をここに公布する。

やまなし子ども条例

目次

前文

第一章 総則(第一条―第九条)

第二章 基本的施策(第十条―第十六条)

第三章 子どもにやさしいまちづくりの推進(第十七条―第二十条)

第四章 ヤングケアラーの支援の推進(第二十一条・第二十二条)

第五章 子どもに対する権利侵害の救済等(第二十三条・第二十四条)

第六章 推進体制等(第二十五条・第二十六条)

附則

子どもの権利は、子どもが成長するために欠くことのできない大切なものです。

日本は、世界の国々と子どもの権利に関して条約を結び、子どもが一切の差別を受けることなく、子どもにとって最も良いことは何かを第一に考え、安心して生き、思いや願いが尊重されるなど、子どもにとって大切な権利を保障することを約束しています。

現代社会は人間関係が希薄になり、経済格差が広がるなど社会環境が変化する中で、いじめや虐待の増加等子どもを取り巻く環境は厳しさを増しており、問題を抱え我慢している子どもや誰にも相談できずに悩んでいる子どもや、ヤングケアラーと呼ばれる人たちがいます。

このような子どもを支援するため、その抱えているつらさ、悩み等に寄り添いつつ、相談に応じ、救済する仕組みが必要です。また、乳幼児期から青年期まで成長段階に応じて継続的に子どもへの支援を行うとともに、保健、医療、福祉、教育等様々な領域で、県はもとより、国、市町村、民間団体等が連携協力して、重層的かつ総合的に子ども支援に取り組み、社会全体で子どもの成長をしっかりと見守り、支えなければなりません。

富士山、八ヶ岳、南アルプスなど雄大な山々の麓にある、四季折々の美しい景観や水と緑にあふれる豊かな自然の中で、子どもの権利を保障し、すべての子どもにやさしいまちづくりをめざして、日本国憲法及び児童の権利に関する条約の理念を踏まえ、この条例を制定します。

第一章 総則

(目的)

第一条 この条例は、子どもの健やかな成長を支援し、及び子どもの権利を実現するための基本理念を定め、並びに県、保護者、学校関係者等、事業者及び県民の責務等を明らかにするとともに、子ども支援のための施策の基本となる事項を定めることにより、子ども支援のための施策を総合的に推進し、もって子どもの最善の利益を実現することを目的とします。

(定義)

第二条 この条例において「子ども」とは、おおむね十八歳未満の者をいいます。

2 この条例において「子ども支援」とは、次に掲げる支援をいいます。

 子どもの成長を支えるために行う子どもへの支援(以下「子どもへの支援」といいます。)

 子どもの成長を支える者への支援

3 この条例において「保護者」とは、親権を行う者、未成年後見人その他の者であって子どもを現に監護するものをいいます。

4 この条例において「ヤングケアラー」とは、本来大人が担うと想定される家事、家族の世話等を日常的に行っている子どもをいいます。

5 この条例において「学校関係者等」とは、次に掲げる者をいいます。

 学校(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する学校のうち大学を除くものをいう。以下同じ。)、児童福祉施設(児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第七条第一項に規定する児童福祉施設をいう。以下同じ。)その他これらに類する施設の関係者

 前号に掲げるもののほか、子どもに対し、授業の終了後又は休日に遊び又は生活の場を与えて、その健全な育成を図る事業を行う者

6 この条例において「育ち学ぶ施設」とは、児童福祉施設、学校その他の子どもが育ち、学び、及び活動するために利用する施設をいいます。

(基本理念)

第三条 子どもへの支援は、子どもが不当な差別、虐待、体罰、いじめ、貧困等に悩み苦しむことなく、また、家事、家族の世話等を行うことにより学業、進学、就職等に支障が生じることなく安心して生きていくことができるよう、その権利が尊重されることを旨として行われなければなりません。

2 子どもへの支援は、子どもが、その成長段階に応じ、学び、遊び、自然体験、社会体験、文化的体験等を通じて人間関係を構築すること、自らの考え又は意見を表明すること等により、主体的に社会に参加することができる環境を整備することを旨として行われなければなりません。

3 子どもへの支援は、子どもが相互に権利を尊重し合うことができるよう自らを大切に思う気持ち及び他者を思いやる心を育み、規範意識を身に付け、次代の社会を担うことができるようになることを旨として行われなければなりません。

4 子どもの成長を支える者への支援は、その者がゆとりのある環境で子どもと接することができるようになることを旨として行われなければなりません。

5 子ども支援は、国、県、市町村、保護者、学校関係者等、事業者、県民等各々の役割を果たすことにより重層的に行われるとともに、相互に連携協力して継続的に行われなければなりません。

(県の責務)

第四条 県は、前条に定める基本理念(次条から第八条まで及び第十二条において「基本理念」という。)にのっとり、地域における県民の主体的かつ自主的な子ども支援のための取組を尊重しつつ、その施策を策定し、及び実施するものとします。

2 県は、子ども支援のための施策の策定に当たっては、子どもを含めた県民の意見を聴き、その意見を反映するよう努めるものとします。この場合において、県は、子どもが意見を直接述べることができる方法を用いるよう留意するものとします。

(保護者の役割)

第五条 保護者は、基本理念にのっとり、子どもの成長について第一義的責任を有することを認識し、子どもに生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとします。

(学校関係者等の役割)

第六条 学校関係者等は、学校、児童福祉施設等における子どもの安全を確保するとともに、基本理念にのっとり、子どもへの支援を行うものとします。

(事業者の役割)

第七条 事業者は、基本理念にのっとり、その雇用する労働者がその子どもに接する時間を十分に確保できるようにするため必要な雇用環境の整備に努めるものとします。

(県民の役割)

第八条 県民は、基本理念にのっとり、子どもが安心して生きていくことができる地域社会を実現するための主体的かつ自主的な取組を行うよう努めるものとします。

(市町村等との連携協力)

第九条 県は、子ども支援のための施策の実施に当たっては、市町村と連携するとともに、市町村が行う子ども支援のための施策に協力するものとします。

2 県は、子ども支援に関する活動を行う特定非営利活動促進法(平成十年法律第七号)第二条第二項に規定する特定非営利活動法人その他の民間団体と連携し、及び協力するものとします。

第二章 基本的施策

(社会参加の促進)

第十条 県は、子どもと他の子ども等との交流の機会の提供、その他の子どもの社会参加を促進するための仕組みの整備の推進のために必要な措置を講ずるものとします。

(相談体制の充実)

第十一条 県は、何人も子どもに関する各般の問題についての相談をすることができる体制の充実を図り、これらの問題の解決に取り組みます。

2 県は、前項の相談をする者が安心して相談できるよう必要な措置を講じます。

(相談機関の周知等)

第十二条 県は、子どもに関する相談に応じる機関及び子ども支援のための施策について、子ども、保護者等に対し、適切な方法により周知します。

2 県は、基本理念に関する県民の理解を深めるため、広報活動の充実その他の必要な措置を講じます。

(人権教育の充実)

第十三条 県は、子どもの権利を含む人権の教育の充実に努めます。

(保護者に対する支援)

第十四条 県は、保護者に対し、その相談に応じるほか、子育てに関する不安の緩和又は解消のため、市町村、民間団体等による保護者が相互の交流を行う場を提供する事業への支援その他の必要な措置を講じます。

2 県は、家庭教育を支援するため、保護者に対する情報や学習の機会の提供その他の必要な措置を講じます。

(学校関係者等に対する支援)

第十五条 県は、学校関係者等に対し、その相談に応ずるほか、研修の実施その他の必要な措置を講じます。

2 前項の措置を講ずるに当たっては、乳幼児期の子どもの成長を支える学校関係者等への支援が重要であることに鑑み、当該学校関係者等に特に配慮します。

(関係機関への支援)

第十六条 県は、関係機関に対し、不当な差別、虐待、体罰、いじめ、貧困等に関する問題解決のための取組への支援その他の必要な措置を講じます。

第三章 子どもにやさしいまちづくりの推進

(意見表明や参加の促進)

第十七条 県は、子どもが育ち学ぶ施設又は社会の一員として自分の考え若しくは意見を表明し、又は参加する機会若しくは仕組みを設けるよう努めます。

2 県は、子どもが利用する施設の設置若しくは運営に関する事項又は子どもに関する事項を検討するときは、子どもが考え又は意見を自由に表明し、又は参加することができるよう必要な支援に努めます。

3 育ち学ぶ施設の関係者及び県民は、子どもが育ち学ぶ施設の運営、地域での活動等について考え又は意見を表明し、又は参加することができるよう機会の提供に努めるとともに、子どもの視点を大切にした主体的な活動を支援するものとします。

4 県は、子どもの意見表明及び社会への参加を促進するため、子どもの考え及び意見を尊重するとともに、子どもの主体的な活動を支援するよう努めます。

(子どもの居場所)

第十八条 県は、子どもが安心して過ごし、遊び、学び、又は生活することができる場の整備やそのような場づくりの促進に努めます。

(情報の提供)

第十九条 県及び育ち学ぶ施設の関係者は、子どもの意見表明や社会への参加の促進を図るため、県の子ども施策、育ち学ぶ施設の取組等について、子どもが理解を深められるよう子どもの視点に立った分かりやすい情報の提供に努めます。

(環境の保護等)

第二十条 県は、豊かで美しい自然が子どもの成長を支えるために大切であることを認識し、子どもと共にその環境を守り育てるよう努めます。

2 県は、災害から子どもを守るため、災害を未然に防ぐとともに、災害が発生した場合には子どもへの被害の拡大を防ぐため、子どもが自助を行い、また共助における役割を果たす力を身に付けることができるよう支援します。

第四章 ヤングケアラーの支援の推進

(ヤングケアラーに対する支援)

第二十一条 県、市町村、関係機関、民間団体等(以下「ヤングケアラー支援者」という。)は、ヤングケアラーと思われる子どもを発見したとき又はヤングケアラーと思われる子どもを発見した者から報告を受けたときは、必要に応じ近隣住民、学校関係者等その他の者の協力を得て、当該子どもの保護者との面会等により当該子どもの生活状況の確認を行うものとします。

2 ヤングケアラー支援者は、前項の規定に基づく生活状況の確認により当該子どもへの支援が必要と認めたときは、当該子ども、その保護者及び家族に対し助言その他の必要な支援を提供するものとします。

3 当該子どもの保護者及び家族は、ヤングケアラー支援者から、第一項の生活状況の確認又は前項の支援の提供への協力を求められたときは、これに応ずるよう努めるものとします。

(ヤングケアラーの支援に関する推進計画)

第二十二条 県は、ヤングケアラーの支援に関する施策を総合的かつ計画的に推進するための計画(以下この条において「推進計画」という。)を策定します。

2 推進計画は、次に掲げる事項について定めます。

 ヤングケアラーの支援に関する基本方針

 ヤングケアラーの支援に関する具体的施策

 前二号に掲げるもののほか、ヤングケアラーの支援に関する施策を推進するために必要な事項

3 県は、推進計画を定め、又は変更したときは、遅滞なくこれを公表します。

第五章 子どもに対する権利侵害の救済等

(子ども支援委員会)

第二十三条 権利侵害(子どもに対し、不当な差別、いじめ、体罰、虐待その他の権利を侵害する行為をいう。以下この条及び次条において同じ。)に関する事項について調査審議するため、知事の附属機関として山梨県子ども支援委員会(以下この章において「委員会」という。)を設置します。

2 委員会は、前項の規定によりその権限に属させられた事項を処理するほか、知事の諮問に応じて権利侵害に関する事項を調査審議します。

3 委員会は、委員五人以内で組織します。

4 委員は、学識経験者のうちから知事が任命します。

5 委員の任期は、二年とします。ただし、補欠委員の任期は、前任者の残任期間とします。

6 委員会に特別の事項を調査審議するため必要があるときは、特別委員を置くことができます。

7 この条に定めるもののほか、委員会の組織及び運営に関し必要な事項は、規則で定めます。

(権利侵害の救済)

第二十四条 何人も、権利侵害をしてはなりません。

2 権利侵害を受けた、若しくは受けている子ども又は当該子どもの保護者は、委員会に対し、その救済を申し出ることができます。

3 委員会は、前項の規定による申出を受けたときは、当該申出に係る事案に関し法令に基づく救済制度が存する場合その他の規則で定める場合を除き、その事案について調査審議し、当該申出をした者に当該調査審議の結果及びその理由を通知しなければなりません。

4 前項の場合を除くほか、委員会は、権利侵害があると認められるときは、その事案について調査審議することができます。

5 委員会は、前二項の規定により権利侵害に関する事案について調査審議を行うに当たっては、当該事案に係る学校関係者等その他の関係者に資料の提出及び説明を求めることができます。

6 委員会は、第三項又は第四項の規定により権利侵害に関する事案について調査審議した結果必要があると認めるときは、知事に対し、次に掲げる事項について勧告することができます。

 権利侵害が行われないようにするため必要な措置を講ずること。

 県の機関以外の関係者に対し前号の措置を講ずるよう要望その他の行為を行うこと。

7 知事は、前項の規定による勧告を受けたときは、これを尊重しなければなりません。

第六章 推進体制等

(推進体制と公表)

第二十五条 県は、子ども支援のための施策を推進するために必要な体制を整備するとともに、民間団体をはじめとする関係者と連携します。

2 知事は、毎年、県が講じた子ども支援のための施策の実施状況等の概要を公表します。

(補則)

第二十六条 この条例に定めるもののほか、この条例の施行に関し必要な事項は、知事が定めます。

(施行期日)

1 この条例は、公布の日から施行します。ただし、第五章の規定は、公布の日から起算して一年三月を超えない範囲内において規則で定める日から施行します。

(令和五年規則第五号で令和五年六月一日から施行)

(検討)

2 知事は、条例の施行後、県民の意見、社会情勢の変化等を勘案し、必要があると認めるときは、この条例の規定について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとします。

やまなし子ども条例

令和4年3月29日 条例第24号

(令和5年6月1日施行)

体系情報
第5編 生/第2章 児童福祉/第1節
沿革情報
令和4年3月29日 条例第24号