○山梨県文化芸術基本条例
平成三十年十二月二十五日
山梨県条例第四十二号
山梨県文化芸術基本条例をここに公布する。
山梨県文化芸術基本条例
目次
前文
第一章 総則(第一条―第八条)
第二章 文化芸術の振興等に関する基本的施策(第九条―第二十四条)
第三章 推進体制等(第二十五条・第二十六条)
附則
文化芸術は、人々の高度な精神活動の産物であり、文化芸術活動は、人が自己の可能性を最大限に発揮して自分らしく豊かに生きるために極めて大切なものといえる。
また、異なる価値観を持つ個人から成る多様な社会において、文化芸術は、人々の相互理解をもたらし、人と人とをつなぐ架け橋となり、和やかで潤いのある社会生活を実現するために重要なよりどころとなるものである。
私たちが暮らす山梨県は、富士山、八ヶ岳、南アルプスなどの山々と恵み豊かな森林を擁し、自然が織りなす四季折々の風景の移り変わりの中、悠久の歴史を紡いできた。
私たちの先人は、急峻な地形にみられる山岳県としての地理的特性や、寒暖差が大きい内陸性の気候などの厳しい環境条件を勤勉さと独創性によって克服し、生業を営み、ワイン産業、水晶宝飾産業、織物産業その他の地域産業を興し、たくましく山梨に息づいてきた。本県が誇る果樹農業は人々の暮らしに潤いを与える文化的景観を創り出し、山梨の風土と人々の営為とが相まって、貴重な文化財や地域に根ざした伝統文化など本県特有の文化芸術が育まれ、今に至るまで脈々と受け継がれてきている。
近代以後、本県は交通網の整備とともに大きく発展を遂げてきた。明治期における中央線の開通、昭和期における中央自動車道の開通は、人々の動きを変え、産業構造を変革し、県民の意識や行動にも影響を与えずにはおかなかった。
このような潮流の中、リニア中央新幹線は、二十一世紀にふさわしい新たな国土軸として人々のグローバルな交流を飛躍的に拡大させ、山梨の文化芸術の魅力を広く国内外へ発信する好機や、文化芸術そのものが更なる進歩発展を遂げる契機をもたらすものと期待されている。
本県を取り巻くこのような状況を踏まえ、今こそ私たちは、山梨の優れた文化芸術の更なる高みを目指して邁進し、全ての県民が心豊かな生涯を過ごすことができる活力にあふれた地域社会を作り上げていく必要がある。
私たち山梨県民は、ここに、先人たちが創り上げ、守り、伝えてきた山梨の文化芸術に誇りを持ち、その更なる発展のために自らも一翼を担い、これをかけがえのない資産として次代に継承するとともに、県民誰もが等しく文化芸術を享受することができる、文化的な品格に満ちた山梨県を実現することを決意し、この条例を制定する。
第一章 総則
(目的)
第一条 この条例は、文化芸術の振興及び文化芸術により生み出される価値の活用(以下「文化芸術の振興等」という。)に関し、基本理念を定め、県の責務等を明らかにするとともに、文化芸術の振興等に関する施策の基本となる事項を定めることにより、文化芸術の振興等に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって心豊かな県民生活及び活力ある地域社会の実現並びに県経済の活性化に寄与することを目的とする。
(基本理念)
第二条 文化芸術の振興等は、県民が文化芸術に関する活動(以下「文化芸術活動」という。)の主体であるという認識の下に、その自主性が十分に尊重されることを旨として行われなければならない。
2 文化芸術の振興等は、文化芸術活動を行う者の創造性が十分に尊重され、その能力が十分に発揮されることを旨として行われなければならない。
3 文化芸術の振興等は、文化芸術を創造し、及び享受することが人々の生まれながらの権利であることに鑑み、県民がその年齢、障害の有無、経済的な状況、居住する地域等にかかわらず等しく、文化芸術を鑑賞し、これに参加し、又はこれを創造することができる環境を整備することを旨として行われなければならない。
4 文化芸術の振興等は、文化芸術の多様性が尊重されるとともに、その多様性に応じた保護及び発展が図られることを旨として行われなければならない。
5 文化芸術の振興等は、文化芸術に対する県民の関心と理解が深められること、県民が本県の自然、歴史及び風土に培われてきた特色ある文化芸術(以下「山梨の文化芸術」という。)に誇りと愛着を持つことができるようにすること並びに県民の他の地域の文化芸術を尊重する心の涵養が図られることを旨として行われなければならない。
6 文化芸術の振興等は、山梨の文化芸術の魅力が広く国内外へ有効に発信されるとともに、文化芸術を通じて人々の活発な交流が図られることを旨として行われなければならない。
8 文化芸術の振興等に当たっては、文化芸術により生み出される多様な価値を地域の活力の向上及び経済の活性化に生かすことを旨として、文化芸術の固有の意義及び価値を尊重しつつ、観光、まちづくり、国際交流、福祉、教育、産業、環境その他の分野における施策との有機的な連携が図られるよう配慮されなければならない。
9 文化芸術の振興等は、山梨の文化芸術が、県民共通の資産として育まれ、後世に引き継がれることを旨として行われなければならない。
(県の責務)
第三条 県は、前条に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、文化芸術の振興等に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。
(県民の役割)
第四条 県民は、基本理念にのっとり、文化芸術についての関心と理解を深めるとともに、自主的かつ主体的な文化芸術活動を通じて、文化芸術の振興等に積極的な役割を果たすよう努めるものとする。
(文化芸術団体等の役割)
第五条 文化芸術団体等は、基本理念にのっとり、自主的かつ主体的に文化芸術活動の充実を図るとともに、文化芸術の振興等に積極的な役割を果たすよう努めるものとする。
(事業者の役割)
第六条 事業者は、基本理念にのっとり、文化芸術についての関心と理解を深めるとともに、その事業活動における文化芸術活動への参画又は支援を通じて、文化芸術の振興等に積極的な役割を果たすよう努めるものとする。
(学校等の設置者等の役割)
第七条 学校等の設置者等は、基本理念にのっとり、子どもが感性を磨き、及び創造力を豊かなものにすることができるとともに、山梨の文化芸術に誇りと愛着を持つことができるよう、文化芸術に親しむことができる機会の充実に努めるものとする。
(市町村との連携等)
第八条 県は、市町村が地域の文化芸術の振興等において果たす役割の重要性に鑑み、文化芸術の振興等に関する施策の実施に当たっては、市町村との連携を図るとともに、市町村が行う文化芸術の振興等に関する施策について、情報の提供、助言その他の必要な支援を行うものとする。
第二章 文化芸術の振興等に関する基本的施策
(芸術の振興)
第九条 県は、文学、音楽、美術、写真、演劇、舞踊、メディア芸術(映画、漫画、アニメーション及びコンピュータその他の電子機器等を利用した芸術をいう。)その他の芸術の振興を図るため、これらの芸術の公演、展示等への支援その他の必要な施策を講ずるものとする。
(生活文化の振興及び国民娯楽の普及)
第十一条 県は、生活文化(茶道、華道、書道、食文化その他の生活に係る文化をいう。)の振興を図るとともに、国民娯楽(囲碁、将棋その他の国民的娯楽をいう。)の普及を図るため、これらに関する活動への支援その他の必要な施策を講ずるものとする。
(伝統芸能等の継承及び発展)
第十二条 県は、伝統芸能及び民俗芸能(以下この条において「伝統芸能等」という。)並びに年中行事の継承及び発展を図るため、伝統芸能等の公演等への支援、年中行事に関する活動への支援その他の必要な施策を講ずるものとする。
(文化財等の保存及び活用)
第十三条 県は、有形及び無形の文化財並びにその保存技術(以下この条において「文化財等」という。)の保存及び活用を図るため、文化財等に関し、修復、防災対策、公開等への支援その他の必要な施策を講ずるものとする。
(山梨の文化芸術の保護、継承及び発展)
第十四条 県は、地域住民の生活の中で受け継がれてきた郷土食等の食文化、地域の固有の歴史、風土等を色濃く反映した祭礼、伝統的な技術又は技法等により創造され、県民の生活の中で育まれてきた伝統工芸等の文化的資産としての重要性に鑑み、山梨の文化芸術の保護、継承及び発展を図るために必要な施策を講ずるものとする。
(文化芸術の担い手の育成及び確保等)
第十五条 県は、文化芸術に関する創造的活動を行う者、文化芸術の継承のための活動を行う者、文化芸術活動の指導を行う者、文化芸術活動の企画又は制作を行う者、文化施設の管理及び運営を行う者その他の文化芸術の担い手の育成及び確保を図るため、研修への支援、研修成果の発表の機会の確保、文化芸術に関する創造的活動等の環境の整備その他の必要な施策を講ずるものとする。
2 県は、前項に規定する文化芸術の担い手が行う文化芸術活動その他の活動を支援するため、文化芸術に関するボランティアの活動の促進を図るものとする。
(文化芸術に対する理解の醸成等)
第十六条 県は、県民が文化芸術についての関心と理解を深めるとともに、生涯にわたり文化芸術活動にその能力を十分に発揮できるよう、文化芸術に関する学習の機会の提供その他の必要な施策を講ずるものとする。
(子どもの感性及び創造力の育成等)
第十七条 県は、次代の文化芸術の担い手となり得る子どもが感性を磨き、及び創造力を豊かなものにすることができるとともに、山梨の文化芸術に誇りと愛着を持つことができるよう、乳幼児期から文化芸術に親しむことができる機会の提供、学校教育における文化芸術に関する教育活動の充実その他の必要な施策を講ずるものとする。
(県民の文化芸術活動の機会の充実等)
第十八条 県は、広く県民が自主的に文化芸術を鑑賞し、これに参加し、又はこれを創造する機会の充実を図るため、文化芸術に関する情報の収集及び提供その他の必要な施策を講ずるものとする。
2 県は、県民が障害の有無等にかかわらず等しく、文化芸術を創造し、又は享受することができる機会を確保することの重要性に鑑み、障害者等(障害者その他日常生活又は社会生活に身体の機能上の制限を受ける者をいう。以下この項において同じ。)が行う文化芸術活動の充実を図るため、障害者等の文化芸術活動が活発に行われるような環境の整備その他の必要な施策を講ずるものとする。
3 県は、豊富な知識と経験を有する高齢者が文化芸術の重要な担い手であることに鑑み、高齢者が行う文化芸術活動の充実を図るため、高齢者が文化芸術活動において活躍できる環境の整備その他の必要な施策を講ずるものとする。
4 県は、次代を担う青少年が文化芸術の継承及び発展において果たすべき重要な役割に鑑み、青少年が行う文化芸術活動の充実を図るため、青少年による文化芸術活動への支援その他の必要な施策を講ずるものとする。
(文化施設等の機能の充実及び活用の促進)
第十九条 県は、劇場、音楽堂、美術館、博物館、図書館、公民館その他の文化芸術に関する施設の機能の充実及び活用の促進を図るため、自らの設置に係る施設の整備に努めるとともに、公演、展示等への支援、情報の提供その他の必要な施策を講ずるものとする。
(文化芸術の活用による地域の活力の向上)
第二十条 県は、文化芸術の活用による地域の活力の向上を図るため、地域住民が主体となって取り組む文化芸術を生かしたまちづくりその他の活動の推進に必要な施策を講ずるものとする。
(文化芸術の活用による経済の活性化)
第二十一条 県は、文化芸術の活用による県経済の活性化を図るため、事業者が行う文化芸術を生かした事業活動への支援その他の産業の振興、観光の振興等に資する施策を講ずるものとする。
(文化芸術による交流の推進)
第二十二条 県は、文化芸術団体等、事業者、文化芸術に係る交流の促進に資する活動を行う団体その他の関係機関等と連携し、文化芸術に関する情報を国内外に発信するとともに、文化芸術を通じた地域間の交流、国際交流等の推進に必要な施策を講ずるものとする。
(表彰)
第二十三条 県は、県民が自主的かつ主体的な文化芸術活動を通じて文化芸術の振興等に積極的に取り組む社会的気運が醸成されるよう、文化芸術の振興等に関し顕著な功績があると認められる者に対し、表彰を行うものとする。
(文化芸術推進月間)
第二十四条 県民の間に広く文化芸術についての関心と理解を深めるとともに、文化芸術の振興等に積極的に取り組む意欲を高めるため、文化芸術推進月間を設ける。
2 文化芸術推進月間は、十一月とする。
3 県は、文化芸術推進月間において、その趣旨にふさわしい事業を行うよう努めるとともに、その趣旨にふさわしい行事が実施されるよう奨励するものとする。
第三章 推進体制等
(基本計画)
第二十五条 知事は、文化芸術の振興等に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、文化芸術の振興等に関する基本的な計画(以下この条において「基本計画」という。)を策定するものとする。
2 基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 文化芸術の振興等に関する施策を推進するための方針
二 前号に掲げるもののほか、文化芸術の振興等に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項
3 知事は、基本計画を策定するに当たっては、県民の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとする。
4 知事は、基本計画を策定したときは、遅滞なく、これを公表するものとする。
5 前二項の規定は、基本計画の変更について準用する。
(推進体制の整備等)
第二十六条 県は、文化芸術の振興等に関する施策を推進するために必要な体制を整備するものとする。
2 県は、文化芸術の振興等に関する施策を推進するために必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。
附則
この条例は、公布の日から施行する。