○おもてなしのやまなし観光振興条例

平成二十三年十二月二十二日

山梨県条例第五十四号

おもてなしのやまなし観光振興条例をここに公布する。

おもてなしのやまなし観光振興条例

目次

前文

第一章 総則(第一条―第八条)

第二章 観光の振興に関する基本的施策(第九条―第十二条)

第三章 推進体制等(第十三条―第十五条)

附則

山梨県は、東京圏に隣接する位置にありながら、四方を富士山をはじめとする山々に囲まれ、三千メートルを超える標高差のある県土の約八割を森林が占めています。豊かな自然やもも、ぶどう等の果樹が織りなす四季の表情はたいへん美しく、その中で、果物、ワイン、ジュエリー、ミネラルウォーター、織物、印章、和紙等、数多くの全国に誇る特産物が産み出され、また、県内各地で伝統的な祭りや多彩な行事が行われています。

私たちは、このような素晴らしい資源に囲まれて暮らしていますが、あまりにも身近であることから、十分にその魅力や価値に気づいているとはいえません。

また、県内には、棚田や、ぶどう畑の馴染む町並み等、生活に密着し私たちから見ればあたりまえのものであっても、旅行者にとって魅力的な資源も数多くあります。

私たちが、こうした地域の魅力や価値を知り、理解を深めることは、精神的に豊かに暮らすことにつながり、このような素晴らしい地域に住んでいるのだということに気づくと、私たちの心に地域を誇る気持ちが芽生え、地域を守り育てたい、多くの人に地域の魅力や価値を伝えたいという思いが膨らみます。

それらの地域への誇りや愛着によって生まれる思いは、県民一人ひとりの「山梨ならではのおもてなし」として、旅行者を温かく迎え、自然景観をはじめとする美しい景観、風土に根ざした特産物、固有の歴史や文化等、地域の魅力や価値を自信を持って伝えていくことにつながっていきます。

「山梨ならではのおもてなし」は、私たちと旅行者の間に、山梨の魅力や価値の共有を促し、そこに満足を超えた感動を生み出すものであり、山梨の観光振興を図っていくに当たり、県民、観光事業者、観光関係団体、市町村と一体となって広く県民運動を展開し、地域に対する理解と関心を深めながら、取り組んでいく必要があります。

これが、私たち山梨県民が目指す観光振興の方向です。

私たち山梨県民は、ここに、山梨県に住む全ての人々が山梨の持つ魅力と価値を知り、一体となって「山梨ならではのおもてなし」を推進することにより、「住んで良かった、訪れて良かった」と思える活力に満ちた地域社会の実現を目指すことを決意し、この条例を制定します。

第一章 総則

(目的)

第一条 この条例は、地域への誇りと愛着に基づくおもてなしを県民総参加により推進し、旅行者がやすらぎと感動を覚え、再び訪れたいと思う魅力ある地域づくりを進めること等により県の観光の振興を図り、もって観光産業が県の基幹的な産業として発展することを通じて、県経済の発展及び活力に満ちた地域社会の実現に寄与することを目的とする。

(定義)

第二条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

 おもてなし 旅行者の立場に立って、次に掲げる行為により旅行者をもてなすことをいう。

 温かな心配りによる接待

 地域の良好な景観の形成並びに施設の整備、適切な管理等による旅行者の安全性、利便性及び快適性の確保

 地域の特産物の活用並びに歴史的又は文化的資産の保存及び活用

 県民総参加 県民等、県及び市町村が相互に連携を図りながら協力することをいう。

 観光事業者 旅行業者、宿泊業者、飲食サービス業者、公共交通事業者その他の観光に関する事業を営む者をいう。

 観光関係団体 観光事業者で組織される団体、観光に関する活動を行う特定非営利活動法人(特定非営利活動促進法(平成十年法律第七号)第二条第二項に規定する法人をいう。)その他の観光に関する活動を行う団体をいう。

 県民等 県民、観光事業者及び観光関係団体をいう。

 教育機関 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する学校、同法第百二十四条に規定する専修学校及び職業能力開発促進法(昭和四十四年法律第六十四号)第十六条第二項に規定する職業能力開発短期大学校をいう。

(基本理念)

第三条 観光の振興は、県民等が地域の自然、歴史、文化等に対する理解と関心を深め、誇りと愛着を持ち、おもてなしを実践することが重要であるという認識の下に、推進されなければならない。

2 観光の振興は、県民総参加により、推進されなければならない。

3 観光の振興は、観光産業が、商業、工業、農業等の産業と関連を有する産業であり、県経済の発展の上で重要な役割を担っているという認識の下に、推進されなければならない。

4 観光の振興は、おもてなしの意義を深く理解し、おもてなしに関する普及啓発活動に主体的に取り組むことのできる人材その他の観光の振興に寄与する人材の育成が重要であるという認識の下に、推進されなければならない。

5 観光の振興は、将来にわたる持続的な観光の発展を実現するためには、良好な自然環境及び景観の保全並びに歴史的又は文化的資産の保存を図ることが重要であるという認識の下に、推進されなければならない。

6 観光の振興は、ユニバーサルデザイン(年齢、性別、国籍、障害の有無等にかかわらず、全ての者が利用できるように施設又は設備を設計すること等をいう。)の観点等を踏まえ、全ての旅行者が常に安全かつ快適な旅行ができるよう配慮することが重要であるという認識の下に、推進されなければならない。

(県の責務)

第四条 県は、前条に規定する基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、観光の振興に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。

2 県は、県民等による観光の振興のための自主的な取組の促進を図るため、県民等に対し、相互の連携の推進、情報の提供、啓発活動その他の必要な支援を行うよう努めるものとする。

3 県は、市町村との連携を図りつつ第一項の施策を実施するとともに、市町村が行う観光の振興に関する施策について、必要な支援を行うよう努め、及び市町村からの求めに応じ、広域的な見地からの調整を行うものとする。

(県民の役割)

第五条 県民は、基本理念にのっとり、おもてなしの重要性に対する理解を深めるよう努めるとともに、おもてなしの推進に自ら努めるものとする。

2 県民は、地域における観光の振興に関する取組に協力するよう努めるものとする。

(観光事業者の役割)

第六条 観光事業者は、基本理念にのっとり、旅行者に対する良質なサービスの提供に努めること、旅行者の需要の多様化に対応すること、農林水産業その他の産業の事業者等と連携すること等により、魅力ある観光地の形成に向けて主体的に取り組むよう努めるものとする。

2 観光事業者は、県及び市町村との連携を図りつつ、県及び市町村が実施する観光の振興に関する施策に協力するよう努めるものとする。

(観光関係団体の役割)

第七条 観光関係団体は、基本理念にのっとり、地域における農林水産業その他の産業の事業者等との連携を図りつつ、旅行者の来訪を促進することにより、魅力ある観光地の形成に向けて主体的に取り組むよう努めるものとする。

2 観光関係団体は、県及び市町村との連携を図りつつ、県及び市町村が実施する観光の振興に関する施策に協力するよう努めるものとする。

(国等との連携)

第八条 県は、魅力ある観光地の形成を図るため、国、他の都道府県その他の関係機関及び教育機関との連携に努めるものとする。

第二章 観光の振興に関する基本的施策

(おもてなしの推進)

第九条 県は、おもてなしを推進するため、次に掲げる施策を講ずるものとする。

 県民が地域についての理解と関心を深めることができるよう、地域の自然、歴史、文化等を学び、新たな魅力を発見する等の機会を提供すること。

 観光に関する事業に従事する者等に対し、接遇の向上を図るための研修等の機会を提供すること。

 電線をその地下に埋設すること、景観を阻害する看板、廃屋その他の物件の除却の促進を図ること等により、良好な景観を保全し、又は創出すること。

 公園、公衆便所、駐車場、遊歩道その他の施設の整備及び適切な管理、二次交通の充実(目的地への到達が容易になるよう県内の交通手段を充実させることをいう。)その他の旅行者の安全性、利便性及び快適性の確保に資する施策を講ずること。

 加工品の開発等付加価値を生み出す取組により地域の特産物の魅力の増進を図りつつ、地域の特産物を活用すること。

 歴史的又は文化的意義を有する建造物、美術工芸品、伝統芸能等を保存し、及び活用すること。

 前各号に掲げるもののほか、おもてなしを推進するために必要な施策

2 県は、県民総参加によるおもてなしに取り組む社会的気運が醸成されるよう、おもてなしの推進に顕著な功績のあった県民等に対する表彰、おもてなしに関する事例の紹介その他の事業を総合的に行うものとする。

3 県は、おもてなしの重要性に対する県民等の理解と関心を深めるため、毎年二月一日から同月七日までの間をおもてなし推進週間とする。

(多様な観光の推進)

第十条 県は、旅行者の需要の多様化に対応した新たな旅行の分野の開拓を図るため、次に掲げる施策を講ずるものとする。

 旅行者の需要に関する情報を収集すること。

 自然体験活動又は農林業、工業その他の産業に関する体験活動を目的とする旅行、県民等が地域の特性を生かして企画した旅行その他の多様な旅行形態の創出を支援し、及び普及すること。

 都市農村交流(農山村と都市との地域間交流を目的とする旅行をいう。)、二地域居住(都市の住民が、農山村等の同一地域において、中長期、定期的、反復的に滞在すること等により、当該地域社会と一定の関係を持ちつつ、都市の住居に加えた生活拠点を持つことをいう。)その他の交流人口の拡大に寄与する取組を促進すること。

(外国人旅行者の来訪の促進)

第十一条 県は、国外からの旅行者の来訪の促進を図るため、国外からの旅行者の受入れの体制の確保に必要な施策を講ずるものとする。

2 県は、国外からの旅行者の来訪の機会の増大を図る上で、県民と外国の人々がそれぞれの国及び地域の歴史、文化等に関する知識を深めることが重要であることに鑑み、国際的な文化の交流、青少年による国際交流その他の外国との交流の促進に必要な施策を講ずるものとする。

(広報宣伝及び情報提供)

第十二条 県は、多数の人々が県の魅力について知ることができる機会の増大を図るため、インターネットの利用その他の多様な方法により、広報宣伝を充実強化するものとする。

2 県は、旅行者の県内における円滑な移動及び施設の利用に資するため、インターネットの利用その他の多様な方法により、県内の観光に関する情報提供を充実強化するものとする。

第三章 推進体制等

(観光推進計画)

第十三条 知事は、観光の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、観光の振興に関する基本的な計画(以下この条において「観光推進計画」という。)を定めるものとする。

2 観光推進計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。

 観光の振興に関する総合的な目標及び施策についての基本的な方針

 前号に掲げるもののほか、観光の振興に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項

3 知事は、観光推進計画を定めるに当たっては、市町村及び県民等の意見が反映されるよう必要な措置を講ずるものとする。

4 知事は、観光推進計画を定めたときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。

5 前二項の規定は、観光推進計画の変更について準用する。

(統計調査その他の調査)

第十四条 県は、観光の振興に関する施策の策定及び実施に資するため、統計調査その他の必要な調査を行うよう努めるものとする。

(推進体制等の整備)

第十五条 県は、市町村、県民等及び教育機関と連携し、及び協働して観光の振興に関する施策を総合的かつ計画的に推進するための体制を整備する。

2 県は、観光振興に関する施策を推進するために必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。

この条例は、公布の日から施行する。

おもてなしのやまなし観光振興条例

平成23年12月22日 条例第54号

(平成23年12月22日施行)