山梨てくてくvol.13
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1857-6018651870美しい色彩と光で描く人間の原風景。山梨県立美術館小坂井 玲学芸員 四季連作への取り組みにもみられるように、ミレーは労働する人間をテーマにしたというよりは、自然と共にある人々の生活をテーマとした画家といえます。画業後半には風景画も多く制作していて、明るく、鮮やかな色彩を用いた繊細な表現が魅力的です。また、風景の中に小さく人々の姿が描かれていて、農民の姿を主役として展開した作品とのつながりも感じられます。ただ美しい景色としてではなく、人が生活をする環境として描かれているように感じられます。 ミレーは1875年にバルビゾン村でその生涯を閉じるまで描き続けました。ミレーが描く風景は人間の原風景ではないでしょうか。ふとした日常の気付きを積み重ねていくことで、一層ミレー作品の持つ深い魅力が心に染みてくるようになります。そして見たことがあるものに対して感じたり、考えたり、見ているものが何なのか考えるきっかけにもなる、ミレーの絵画とは、そういうものだと思います。「グレヴィルの断崖」 油彩・麻布/24.0×33.0cm普仏戦争の戦火を避けて、港町シェルブールに滞在した際に描いた作品。静かにそこにある海のあるがままの表情が描かれている。「雁を見上げる羊飼いの少女」 パステル・紙/58・0×41・6㎝(寄託作品)ミレーは優れたパステル画の作品も制作している。編み物をする羊飼いの少女たちが冬の訪れを告げる雁の群れを見上げる姿が細やかな表現で描かれている。「夕暮れに羊を連れ帰る羊飼い」 油彩・板/53・5×71・0㎝群れを導く羊飼いの姿には、宗教的な象徴性も感じられる。家畜を農民から預かり、村を離れて過ごす牧人は、自然に精通する神秘的な存在としても見られた。図版はすべて山梨県立美術館蔵07

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