ふるさと山梨-中学校版-(デジタルブック版)
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142(1)受賞の理由は(2)どんなふうに育ったの大おお村むら智さとし先生ノーベル生理学・医学賞受賞ふるさとを想う心が未来を拓く5 ノーベル賞とは,ダイナマイトを発明したアルフレッド・ノーベル(1833~1896) の遺言と遺産により,1901年から毎年贈られている伝統と権威のある最高級の賞です。物理学,化学,生理学・医学,文学,平和,経済学の6部門があり,それぞれの分野で最も優れた業績を残した人に授与されます。大村智先生は,日本人では23人目,山梨県人として初の偉業です。寄生虫が引き起こす感染症に大きな治療効果を挙げる特効薬を発見・開発したことが,ノーベル生理学・医学賞の受賞の理由となりました。 大村先生はアフリカなどの熱帯地域で,寄生虫による失明の主な原因となっている「オンコセルカ症」や,感染すると足が象のように大きくはれるなどの身体障害を発症する「リンパ系フィラリア症」の特効薬「イベルメクチン」を開発しました。この薬はアフリカや中南米で投与され,年間2億人以上を救い,二つの病気は2020年代に撲滅できるとされています。さらに,日本でもダニが原因の皮膚の病気や,沖縄に多い糞ふん線せん虫ちゅう症しょうなどの治療にも威力を発揮しています。 「私の仕事は微生物の力を借りただけ。私自身が難しいことをしたわけではない。」と大村先生は語っています。大村先生ら研究室メンバーはどこに行くにもビニール袋を携帯し,各地の土を採取し続けてきました。1年間何も成果が得られないこともありました。しかし,「求めていなければ結果は出ない」と続けた努力が,この偉大な発見につながったのです。1974年,静岡県のゴルフ場の近くの土から見つけた細菌に,「この微生物は他とは違う」と直感しました。アメリカの製薬会社研究者と共同研究でこの菌の生産する寄生虫を麻痺させる化合物を発見しました。大村先生の研究への志,情熱は,生まれ育った山梨での経験が原点となったそうです。 大村先生は,1935(昭和10)年7月12日に,韮崎市の農家の長男として,5人兄弟の2番目に生まれました。「耕作や家畜の世話などのため勉強する時間がなく,宿題をするのがやっとだったが,負けん気が強かった」と大村先生のお姉さんは語っています。親から養蚕や畑仕事などをみっちりと仕込まれ,木の葉とわらをし尿と混ぜて微生物を繁殖させる堆肥作りにも励みました。「農業こそまさに科学」,韮崎での農作業を通じての経験が研究の原点になったそうです。また,生き方に大きな影響を与えたのが祖母でした。「智,一番大切なのは人のためになることだよ」と,ことあるごとに諭されたそうです。大村先生は常に「生まれ故郷抜きに研究人生は語れない」と口にしてきました。  どんな薬を,どうやって発見・開発したのだろう。人で有効性確認人で有効性確認動物で薬効確認動物で薬効確認有効成分を抽出有効成分を抽出有望な候補を選び出す有望な候補を選び出す微生物を採取・培養微生物を採取・培養土壌土壌熱帯病の治療が飛躍的に発展熱帯病の治療が飛躍的に発展大村智氏らの功績

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